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Eコマースのテクノロジーで、カタログの弱点を補う

石川 森生 いしかわ もりう さん (株)ディノス・セシール CECO 兼 EC企画1部ゼネラルマネージャー

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製菓・製パン材料などを扱うECサイト「cotta」を運営する株式会社TUKURU代表取締役から、株式会社ディノス・セシールのCECO(チーフEコマースオフィサー)に転身した石川森生さん。「Eコマースのスペシャリスト」として、ベンチャーから通販大手へのキャリアチェンジを果たして2年。総合通販が抱える課題に対するこれまでの振り返りとこれからのビジョンについて、語っていただく。

写真=三輪憲亮


Part.2

 

■ディノス・セシールは「ECビジネス」をやっていなかった

 

 石川さんは2016年2月、ディノス・セシールに入社。長年Eコマースに携わっていた彼がディノス・セシールに入社した理由の一つが、会社がこれまでに築き上げてきたカタログとテレビ通販の強大なインフラに大きな価値を感じたことだ。カタログからの購入システムやコールセンターの対応、そして物流といったインフラの強固さは、他のEコマース企業をはるかにしのぐ競争優位性だった。

 

「そこまでは入社前に理解していたんです。でも入社して実際に内部に入ると、外から見ていたイメージと異なる部分があるとわかりました。まず思ったのが、自分の中にあった『カタログ=アナログ』『紙は何かと無駄が多い』という考えは違う、ということです。

 

社内には、これまで培ってきた大きな顧客リストがありました。その膨大さゆえ、何か策を打てばすぐに響く環境ができていた。旧来型のカタログ通販モデルでも、売り上げをしっかり担保できる強固な基盤が完成されていることが、すぐにわかりました。中でもすごく驚かされたのが、通販カタログにおける数値検証のレベルが、デジタルよりもずっと高いことでした。

 

 

例えばメルマガなんて、一度送信するだけでは0コンマ数円。懐が痛むことはありません。"数撃ちゃ当たる"的な考えで、大ざっぱにでもできてしまう。でも、カタログ通販はそんな感覚ではできません。紙は制作や郵送で多大なコストがかかりますし、数を撃ちすぎたら負け。買う見込みがない人にカタログを送ること自体が赤字を招くので、ヒット率を高めねばなりませんし、常にギリギリの精度が求められる。それを40年間以上続けながらも黒字化している。これは私にとって、想像を絶することでした。

 

そして痛感したのが、カタログ通販のすべてをEコマースに置き換えることは物理的に不可能ですし、これだけ完成されたものを壊す必要もない、ということ。ですから、紙のカタログとテレビのコストを削ってEコマースに持ってくるよりも、Eコマースのテクノロジーを使ってカタログの弱点を補うことを考えていきました

 

 ただし問題があった。それは、ディノス・セシールという会社は『ECビジネス』をやっていなかったことだ。

 

「会社が既存のEコマースの仕組みの中でできていないことは何なのか。それが入社してわかりました。前回言いましたが、ディノス・セシールはEコマースを電話やファックスと並ぶチャネルの一つ、いわばレジのように考えていた。だから、ECサイトはカタログ製作の過程で生まれたコンテンツの副産物として存在していて、プラスオンで新しい価値が付加される場所としてとらえられていなかった。

 

 

でも私の考えは違います。ECサイトとは店そのもので、お客様とコミュニケーションをする場所。決してレジの機能だけではありません。つまりディノス・セシールには、ECサイトを使ってお客さんとコミュニケーションを取ろう、という発想が圧倒的に不足していたのです」

 

 新しい考え方を社内に確立するプロセスにおいて、考え方のギャップは大きかった。石川さんは入社してすぐに各部を回り『こんな感じでやっていきます』『なぜこれはこうやっていないのですか?』などとコミュニケーションを取ったことで、徐々に問題が見えてきた。

 

「例えば一番大きなカタログだと、見開きで軽く数千万円を売り上げます。でもECサイト内に特集を1ページ作って、いくら売れるか。おそらく数百万円でしょう。10分の1です。事業規模に対してインパクトが小さいので、Eコマースのプライオリティが高くならないわけです。これはなかなか根深い問題だし、この考え方のギャップを埋めるのはそれなりに手間がかかるぞ、と覚悟しました」

 

■「いったん、彼らにやらせてみよう」という空気

 社内のそんな空気の中で最初にしたのは"白旗"を上げることだった。石川さんは全社員に対して「Eコマースでカタログのリプレイスはしない」と明確に宣言した。

 

 

「経営企画室のCECO(チーフEコマースオフィサー)として、ディノス事業もセシール事業も両方考える立場で入ったので、以前からいらした方にしてみれば、嫌かもしれないですよね(笑)。そもそも誰だって、自分の仕事をとやかくされるのは面白くない。それどころか、ルーティーンを一つ崩されるだけでも不快に思うかもしれないですから。

 

きっと最初は『お手並み拝見』という気持ちだったのではないでしょうか。『ポッと出のベンチャー社長だか知らないが、こっちは長年商売をしてきたんだ。ひっくり返せるものならやってみろ。会社として10年先を見てEコマースの強化が必要なことはわかっているけれど、今は収益が上がっているのだから、どうのこうの言われたくない』。とか、僕が反対の立場だったとしてもそんな本音になるはず。だから最初にしっかりと、仕事についてこちらの独断で何か大きく変えたりすることはない、と言い切ったのです」

 

 そして、今後の方針を多くの社員に伝えるため、広報の全面バックアップのもと、全5回の社内セミナーを開いた。セミナーには多くの社員が出席。石川順一社長も多忙な中、石川さんの考えに自ら耳を傾けた。

 

 

Eコマースが今後いかに大事なものになり、今までこの会社が培ってきたビジネスにプラスオンで寄与するのか。そんな話をしました。約600人の出席者だったと思いますので、おそらく全社員の6~7割は聞いて下さったと思います。弊社社長自らの出席もあり、出席率が高かったのだと思います。そこは、広報がしっかりとバックアップしてくれました。

 

社長は、セミナーだけでなく、入社前の年頭所感で私のことを社内に説明するなどしてくれまして、非常に仕事をしやすい環境や雰囲気を作ってもらえたように思います。これは本当に助かりました。やや保守的なムードもある中、社長や広報のおかげで『まずはいったん、彼らにやらせてみよう』という空気ができていたことには、感謝しかありません。インターナルコミュニケーションがちゃんと取れなかったら、どうやっても進みませんから。

 

また私一人ではなく、旧TUKURUのメンバー大半が一緒に入社したことも大きかったですね。私が言ったことを形にできるメンバーと一緒に来ているので、イメージを阿吽の呼吸で形にできる。そのスピード感と仕上がりのクオリティも大きかったですね。いくら言葉で言うよりも、見せた方が早い」

 

 

 そして石川さんが入社して5カ月後の2016年7月、EC本部が立ち上がった。

 

「ディノス・セシールは事業部制で、Eコマースの担当者はファッションやリビングといった、カタログのカテゴリーごとの事業部門にそれぞれ所属する形になっていました。Eコマースを一つのチャネルとしてとらえているので、当然そうなりますよね。その担当者達をひとまとめにする形で、EC本部に集約。トータル100人近い大きな部署になりました。社内でも最大規模の本部で、会社のEコマースに対する意欲の象徴のような存在になっています」

 

 Part.3では引き続き、石川さんが手がけた社内の環境整備、そしてカタログやダイレクトメールという「紙」の役割について。

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プロフィール
石川 森生

石川 森生 いしかわ もりう

(株)ディノス・セシール CECO 兼 EC企画1部ゼネラルマネージャー

1984年東京生まれ。大学卒業後、SBIホールディングスに入社。SBIナビ(現・ナビプラス)の立ち上げに参画、営業統括の責務を担う。その後、ファッション通販サイトのマガシークにてマーケティング部門の責任者、製菓製パン向けECサイトcottaを運営する株式会社TUKURU代表取締役社長を歴任。2016年2月、株式会社ディノス・セシールでCECO(チーフEコマースオフィサー)に就任。同年7月よりEC本部EC企画部ゼネラルマネージャーを兼務している。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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