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Eコマースのプロがカタログ通販で知られる会社に入った理由
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Eコマースのプロがカタログ通販で知られる会社に入った理由
製菓・製パン材料などを扱うECサイト「cotta」を運営する株式会社TUKURU代表取締役から、株式会社ディノス・セシールのCECO(チーフEコマースオフィサー)に転身した石川森生さん。「Eコマースのスペシャリスト」として、ベンチャーから通販大手へのキャリアチェンジを果たして2年。総合通販が抱える課題に対するこれまでの振り返りとこれからのビジョンについて、語っていただく。
写真=三輪憲亮
株式会社TUKURU代表取締役時代は、お菓子の材料を販売する「cotta」というECサイトを運営するなど、これまで一貫して企業のECサイトにおける課題解決に従事してきた石川森生さん。彼は2016年2月、株式会社ディノス・セシールのCECO(チーフEコマースオフィサー)に就任した。7月にはEC本部を立ち上げ、EC企画部ゼネラルマネージャーを兼務。約2年間、カタログ通販で名高いディノス・セシールにおけるECビジネス構築を手がけてきた。
「特に難しさを感じたのは、やはり組織作り。結局、ほとんどの仕事の難しさはそこにある気がします。新しいことをするのはいいけれど、失敗したらどうするか。社内のそんな懸念を乗り越えて信頼を築くのがすごく大変でした。でも2年が経ち、ディノス・セシールのEコマース事業を俯瞰すると、最初のころと比べてだいぶ足腰が強くなった印象があります。
ディノス・セシールは私が来る以前からEコマースに取り組んでいましたが、中に入ってわかったのは、この会社にはチャネルとしてのEコマースは存在しているけれど、いわゆる"ECビジネス"はやっていない、ということ。詳しくは後述しますが、Eコマースをツールとして使い、お客さんとコミュニケーションを取ろうという発想がなかった。
簡単に言えば、Eコマースの売上のヤマとカタログ通販の売上のヤマがリンクしていたのです。いわゆる大手のECサイトは、クリスマスにはクリスマスセール、母の日はお花というように、世の中の動きに合わせてさまざまな販売促進策を打ちます。でも、それがほとんどなかった。カタログを出したらドンと売り上げが増え、3週間ぐらいで徐々に減り、次のカタログを出すとまたドンと行く。Eコマースの売上も、そんなカタログ通販の動きとまったく同じ動きを描いていました。
でも今は違います。Eコマースで独自施策を打っているので、Eコマースとカタログ通販の売上のヤマがリンクしなくなってきている。そしてカタログ通販が伸びない状況でも、Eコマースは独自に伸び続けるようになってきています。時間をかけて今の体制を築き、実績がしっかりと出たことで、自分自身も本当にやりやすくなりましたね」
石川さんはこれまで、SBIホールディングスでSBIナビ(現ナビプラス)の立ち上げに携わった後、ファッション通販サイト・マガシークのマーケティング部門責任者、製菓製パン向けECサイトcottaを運営する株式会社TUKURU代表取締役社長を歴任してきた。そんな"Eコマースのプロフェッショナル"が2年前、カタログ通販で名高いディノス・セシールに入社した理由は何だったのか。
「TUKURUでは2年半ほどをかけて、Eコマースの仕組み作りをほぼ終えました。そして、次のステップに行こうという気持ちになっていました。実は当時から『自分達はそもそもEコマースに閉じている必要はあるのか?』という疑問を抱いていました。Eコマースは今は売り手市場。でもこのままでは、僕らは5年後に食えなくなるかもしれない。今のままではいけない。Eコマースのことだけを考えてテクニカルな話に終始するのではなく、もっと顧客と、地に足着いたコミュニケーションを取っていく必要があるのではないか。
そんな話を仲間内でしていたタイミングで、ディノス・セシールさんからお誘いをいただいたわけです。ただし、私が一人で行ったところで知れています。私自身はデザイナーでもエンジニアでもないので、手を動かして何ができるわけでもありませんから。でも、TUKURUの社員はスペシャリストぞろい。そのため、当時のスタッフごと引き受けていただいたのです」
ディノス・セシールは今後、Eコマースを必死でやっていく。石川さんの入社は、会社のそんな意思表示の象徴だった。ではその時、石川さんはどんなミッションを託されていたのか。
「非常にシンプルです。この会社のメインビジネスはカタログ通販ですが、ロングスパンで見た時、このビジネスが拡大し続けるかというと、明らかに違う。この先は当然、Eコマースにもっと投資するしかない。そんな判断のもと、会社が変化するきっかけとして私自身が求められたのだと思います。
私が入社した時点で、Eコマースの受注規模はすでに全体の50%近くありました。ある意味、十分にEコマース化されていたわけです。ただし、この会社の売り上げに対する考え方に、そもそもの違いがあった。ディノス・セシールは商品カテゴリーごとの事業部制を敷いており、その中で売上のカウントは『カタログ事業で〇円、テレビショッピングで〇円、以上』です。
そして、カタログとテレビの売上の中の販売チャネルとして、電話が〇%、ファックスがが〇%、ハガキが〇%、そしてECが〇%、と考えられています。つまり『Eコマースは受注チャネルの一つに過ぎない』というカウント方法です。それは今も変わっていません。
つまり、会社はEコマースを『事業』ではなく『チャネル』として見ていた。そこに本腰を入れる、という雰囲気作りは、現状の組織ではなかなか難しかったのだと思います。事業部ごとに個別で『明日からEコマースに力を入れよう』と言ったところで、おそらく変化は少ない。社員の皆さんが今までのルーティーンを崩してまでも必死で取り組むことも、たぶんないでしょう。Eコマースの強化をプロパーのスタッフで手がけることは難しい状況だからこそ、私が外から呼ばれたのだと思います」
当時、通販大手であるディノス・セシールに、Eコマースのスペシャリストはほとんどいなかった。そこにEコマースのスペシャリストがチームでやって来る。そのインパクトは大きかった。
「私達は2016年2月に入ったのですが、入社に当たって石川順一社長が地ならしをして下さっていたことが大きかったです。ウチは1月に社内向けの年頭所感を出すのですが、2016年はその大半がEコマースに割かれていました。そして、その中に『Eコマースのスペシャリスト集団が2月に入ってくる。だからウチは変わります』と書かれていたそうです。つまり入社前から、かなりのプレッシャーでした(笑)。でも、そのおかげで入社後は非常にやりやすかったですね。
また今回もそうなのですが、さまざまな取材を受けたり、講演をすることも私の大きな仕事になっています。今までのキャリアでも取材依頼は時々あったのですが、当時は基本的にお断りしていました。でも今の自分には広報ミッションもありますので、何でも全力で受けている状態(笑)。社外向けはもちろんですが、メディアを通して会社の方針をインターナルに伝える存在でもあるのです」
Part.2は、石川さんが入社後に変えていったポイントと、入社後の組織の地固めについて。