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紙もデジタルも、すべてをフラットに並べる

石川 森生 いしかわ もりう さん (株)ディノス・セシール CECO 兼 EC企画1部ゼネラルマネージャー

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製菓・製パン材料などを扱うECサイト「cotta」を運営する株式会社TUKURU代表取締役から、株式会社ディノス・セシールのCECO(チーフEコマースオフィサー)に転身した石川森生さん。「Eコマースのスペシャリスト」として、ベンチャーから通販大手へのキャリアチェンジを果たして2年。総合通販が抱える課題に対するこれまでの振り返りとこれからのビジョンについて、語っていただく。

写真=三輪憲亮


Part.4

 

■デジタルを使い、紙を新たなステージへと引き上げる

 

 ディノス・セシールの顧客の中心年齢層は50代以上で、ほぼ女性である。ただし、カタログやダイレクトメールといった紙の訴求力を利用する理由は、顧客の年齢層を意識しているからではない。むしろ、若い世代に対しても紙でアプローチしていく。

 

デジタルはあくまでツールであり、アウトプットがデジタルに閉じている必要はないのです。紙のよさで言うと写真を例にするのが一番わかりやすいですね。例えば携帯で撮った写真って、それほどじっくり眺めませんよね。ある意味、情報として消費するものでもあります。でも本当にいい写真って、今もプリントして額に入れたり、アルバムにしたりします。

 

それを私達のビジネスに置き換えると、ポイントは『紙を使った購入体験をどう設計するか』だと思います。その時に一律、同じタイミングで同じ内容を全員に投げても、印象的なものにはなりにくいため、デジタル情報と同じように消費されてしまう。つまり、顧客ごとにパーソナライズされた紙媒体が必要になってくる。

 

 

例えばデジタルによる解析で、ある人がワインにとても強いこだわりを持っていることが分かったとします。私たちは、当社が扱うワインの優れた点を伝えるためのリッチなコンテンツを用意し、表紙に『〇〇さん、あなたが気に入るワインが見つかりました』とうたう。そんな紙媒体が自宅ポストに投函されていたら、どうですか? 一度は目を通すのではないでしょうか。同じ内容がメルマガで来ても目にとまらないかもしれません。でも紙ならば少なくとも手には取りますし、私だったら間違いなく中身が気になってしまいます。。

 

もちろんこの先、世の中全般で言えば紙のカタログの量は減っていくでしょう。でも、例えばメルマガを使ったコミュニケーションは、パンチとしては一つ一つが軽いため、エンゲージメントを高める効果は限定的。その点、カタログは一つ一つが重い。コンテンツ次第で、高いエンゲージメントを得られる可能性がある。その点において、紙のカタログの優れたインフラを持つディノス・セシールは、きっと有利だと思います」

 

 その時に大切なのは、いかにして frequency=頻度を上げるか、だ。

 

「例えば年に一度、丁寧に挨拶をしてくれる人よりも、毎日会って気軽に会話する人の方が心理的距離も近いし、信頼関係は築きやすい。それがエンゲージメントやロイヤリティと言われているものの一つの正体だと思います。大事なことの一つに、接する頻度があると思います。

 

 

前回申し上げたように、パーソナライズされた紙媒体を作り、24時間以内に届ける仕組みができつつありますから、次に考えるのは頻度です。今までは、紙のカタログという形で年に数回送る、いわばこちら主催のイベントのような形。紙の効果を最大限発揮するためには、それだけでは不十分だと考えています。お客様が求めるタイミングで接客を行うがごとく、ウェブのパーソナライズ・テクノロジーを応用する。そこで初めて、ウチがEコマースに取り組む意味が出てくる。

 

要は今やるべきは、デジタルを使って紙を新しいステージへ引き上げること。例えばAmazonは無人の店舗を立ち上げ、WEBのテクノロジーをリアルに戻している。彼らの目が顧客の店舗体験に向かっている時、ディノス・セシールは少し違った自分達だけの場所で戦おうとしているのです」

 

 古くからあるカタログ通販というインフラを生かしつつ、Eコマースを整備し、しっかりと育てる。そして時代の流れを読みながら、紙とECサイトの両方を上手く使い、的確なバランスを探す。それが今考える理想だ。

 

もはや紙もデジタルもない。マーケティングはマーケティング。すべてが完全にフラットです。メルマガを見て下さる方もいれば、メルマガなんて開きもしないけれど、LINEならば見る方もいる。その方には、私達はLINEでコミュニケーションします。それすら見ないのならば、逆に紙はどうですか?結構面白く作っているから見て下さい、と。いったんすべてをフラットにして、全てをツールとして並べたらいいと思います」

 

 

■今後、Eコマース戦略を背景に持つ商品をどれだけ拡充できるか

 

 石川さんがディノス・セシールに入社して2年が経った。この2年を総括すると、達成度は3割程度だと考えている。

 

「だからこそ、今はポジティブな気持ちです。Eコマースの売り上げはカタログへの依存から徐々にですが脱却し始めた。そして、残り7割の伸びしろのために何をせねばならないかも、一応見えているつもりでいます。

 

では何をするか。まずは非デジタル側で言うと、商品ラインナップの調整です。結局、カタログで売りやすい商品とEコマースで売りやすい商品は、特性が違う。渋谷のど真ん中で一番売れるものと、浅草で売れるものは、たぶんちょっと違いますよね。必要な接客の形も違う。それと同じことです。Eコマースの店舗に来る人と、カタログを好きで見ている人はやや違う。それなのに同じものを見せるのは、必ずしも合理的とは限らない。Eコマースでもっと戦略的に見せる商品を作れたら、また違ったコミュニケーションが図れる。そのためにも、商品の拡充は不可欠です。

 

本来はEコマースに適したロジックを背景に持つマーチャンダイジングを行わねばなりません。でもディノス・セシールは今まで、カタログやテレビに適合するためのマーチャンダイジングに特化してきました。その大前提を崩すのは非常にハードルが高いです。ただ、最近では部署を横断してたくさんの方が、Eコマースで戦うためのマーチャンダイジングについて取り組みを始めようとしてくれています。これが本当に走り出せば、Eコマースとしてのステージは完全に一つ上がるでしょう」

 

 

 デジタル側の戦略については、絵は描けている。パーツもだんだんそろってきた。今後はそれをつないでいく作業に入る。

 

「例えばディノスのアプリはすでにありますが、まだEC本部としては本腰を入れられていない。だからこれから、アプリでないと提供できない顧客価値を作っていく。またLINEでもさまざまなテストを行っていますし、紙についても先ほどお話した通り、パーソナライズできる状況が整いつつある。これらは一つ一つでは単なるチャネルに過ぎないが、大事なのは、横串を通してつなぐことです。

 

メルマガがイヤならLINE、LINEがダメなら紙、というように、お客様の都合に都度対応していく。そのためにはMAツールの活用が必須。MAツールを本格的に稼働させるための、データ環境のさらなる整備なども課題になってくるでしょう。

 

 

今はまだ、ジグソーパズルのピースが足元に散乱しているような状態。今後の"組み立て作業”は結構、骨が折れると思いますが、そこはひたすら地道にやる覚悟です(笑)」

 

 社内の環境整備という、入社後しばらくの"筋トレ期間"を終えた石川さん。本領発揮は、いよいよここからだ。

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プロフィール
石川 森生

石川 森生 いしかわ もりう

(株)ディノス・セシール CECO 兼 EC企画1部ゼネラルマネージャー

1984年東京生まれ。大学卒業後、SBIホールディングスに入社。SBIナビ(現・ナビプラス)の立ち上げに参画、営業統括の責務を担う。その後、ファッション通販サイトのマガシークにてマーケティング部門の責任者、製菓製パン向けECサイトcottaを運営する株式会社TUKURU代表取締役社長を歴任。2016年2月、株式会社ディノス・セシールでCECO(チーフEコマースオフィサー)に就任。同年7月よりEC本部EC企画部ゼネラルマネージャーを兼務している。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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