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ダンスミュージックは、音楽の未来を示す

Lauren Rose Kocher ろーれん ろーず こーかー さん (株)ソニー・ミュージックエンタテインメント 「TOKYO DANCE MUSIC EVENT」実行委員会 委員長

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昨年12月に東京・渋谷で初めて開催された、日本初のダンスミュージックの国際カンファレンス&イベント「TOKYO DANCE MUSIC EVENT(TDME)」。このイベントをオーガナイズするメンバーの一人が、ソニー・ミュージックエンタテインメントのローレン・ローズ・コーカーさんだ。ライブとともにカンファレンスや楽曲制作のワークショップを行うTDMEの狙いは何なのだろう。日本在住10年、日本のダンスミュージックシーンを知り尽くす彼女の「企み」をうかがう。

写真=三輪憲亮


Part.1

 

■さまざまな人が集い、音楽ビジネスの成功例や課題を共有

 

「音楽ビジネスは最高です。もう、好きすぎます(笑)。音楽はたくさんの人を幸せにするもの。失恋とかつらいことがあっても、大好きな曲を聴けば元気になれる。音楽の仕事ができることはラッキーだし、光栄です。その中で、日本の素晴らしい音楽を作るアーティスト達が世界に出ていくのをサポートできたらいいですね」

 

 

 語るのは、ソニー・ミュージックエンタテインメントのコーポレートビジネス マーケティンググループに所属するローレン・ローズ・コーカーさん。音楽ビジネスは今、時代の流れの中で大きな変化を迎えている。CDセールス中心の時代から、配信やライブイベントで収益を上げる構造へとシフトしつつある。

 

「確かにCDの売り上げは減っていますが、私達はすべてのフォーマットを大事にしています。ライブやデジタルダウンロード、ストリーミング、そしてアナログ盤のセールス、どのチャンネルも好調です。そして、素晴らしいアーティストが次々と出てきています。今、音楽ビジネスはとても元気ですよ」

 

ローレンさんはアメリカ出身。2008年に来日し、5年前に入社したソニー・ミュージックエンタテインメントで現在、さまざまなグローバルプロジェクトを手がけている。代表的なプロジェクトが昨年12月に東京・渋谷で初開催された、日本初のダンスミュージックの国際カンファレンス&イベント「TOKYO DANCE MUSIC EVENT(TDME)」。3日間にわたり、渋谷ヒカリエなど4カ所で行われたライブには人気DJが多数出演。その模様が世界中にライブ配信されるなど、大きな話題になった。

 

ただしこのイベントの斬新さは、決してそこにとどまらない。TDMEの大きな特徴は、イベント自体がライブの他「カンファレンス(国際会議)」「セッションズ(音楽制作)」の全3パートで構成されていることだ。

 

カンファレンスでは国内外の音楽レーベルやフェス、イベントのプロデューサーの他、IT企業や広告代理店などの音楽ビジネスに関係する方達、音楽業界を目指す学生など、さまざまな人が集まり、プレゼンテーションやパネルディスカッションを行います。昨年は渋谷区長の長谷部健さん、ZEEBRAさん、☆Taku Takahashiさんの他、韓国のクラブの代表や東南アジアのフェスのオーガナイザーなどにも登壇いただきました。音楽に関係するさまざまな人達が集まり、ビジネスの成功例や課題などを共有し、これからの音楽ビジネスを盛り上げていきたいと考えています。

 

TDME2016 ライブ
TDME2016 カンファレンス
TDME2016 セッションズ

 

そしてセッションズは、主に音楽制作のワークショップ。昨年はAbleton(エイブルトン)という音楽制作のソフトウェアを使って実際に曲を作ったり、テクノDJ・UMEKのクラスも設けました。スマートフォン一つで作曲ができる時代となりつつある今、音楽を『作れる』人を少しでも増やしていきます

 

ITの進化により今、音楽制作のハードルは急激に下がっている。そんな状況の中、音楽を作れる人を増やすことが、音楽ファンの増加につながると考えている。

 

「特に子供がそうですが、楽器を弾いたり、歌ったり、曲を作ることができると、音楽をもっと好きになるもの。これは大人でも同じで、日本でも海外でも、音楽を作れる人ほど音楽をたくさん買ってくれます。だから私達としては、もっとたくさんの人に音楽を作れるようになってほしい。音楽を作る人のスキルがどんどん上がれば、日本の音楽シーンはもっと盛り上がる。TDMEはそのきっかけとなるイベント。TDMEがもっと大きくなれば日本のダンスミュージックシーンはさらに盛り上がります。そして東京のナイトライフが元気になり、東京を目指して海外からもっと多くの人が来る。そんなサイクルを作っていきたいと考えています

 

 

■ダンスミュージックとITの親和性

 

ローレンさんが特に強調することが、ダンスミュージックの大きな可能性だ。スマートフォン一つで楽曲制作ができる今、特にEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)は、インターネットテクノロジーとの親和性が高い。

 

「素晴らしい曲を作ることの難しさは昔と変わりませんが、今はテクノロジーの発達で、楽曲制作のハードルは低くなりました。そして、それをネット上にアップすれば、世界中の人に聴いてもらえる。この事実によって、アーティストとファン、そして音楽ビジネスのすべてが"近い関係"となっている。それが今です。

 

ダンスミュージックはコンピュータで制作できるので、ITとの相性が抜群。そしてアーティストは新しい技術にオープンです。またアクスウェル、スティーヴ・アオキ、アレッソ、カルヴィン・ハリスといった世界のトップDJは、頻繁にコラボします。例えばロックの世界で、ローリング・ストーンズとビートルズが一緒に曲を作ることはあり得ない。でも、ダンスミュージックではよくあります。こういうところもすごく面白いです」

 

 

そして、アーティストの出身国の多彩さも目を引く。

 

「私自身は決してアンチポップスではないのですが、ビルボードのチャートはやはりアメリカのアーティストで占められていますよね。でもダンスミュージックのチャートに出てくるDJはイタリア人やオランダ人、スロベニア人など本当に多彩。どこの国の人だろうと関係ありません。どこの言葉が使われているかはそれほど重要ではなく、言葉が何も入らない曲も多いですからね。本当の意味でグローバル、そしてオープンです。

 

その中で日本という国もリスペクトされています。昔からケン・イシイや石野卓球など素晴らしいDJが活躍していますし、世界のDJが使う機材の多くはPioneer DJKORG、ローランドなど日本のメーカー製。これらのハードウェアがなければ、ダンスミュージックは決して成り立ちませんから。

 

つまりダンスミュージックはあらゆる国の人にオープンな存在。どの国の人でも、実力があればトップに立てるということ。日本のDJでも、活躍の余地は十分にあると思います」

 

 テクノロジーと密接な関係にあるダンスミュージックは、グローバル化のフロントランナーとしてあらゆる音楽を引っ張り、未来を見せてくれる存在なのだ。次回Part.2では、彼女が運営に携わるTDMEについて詳しく聞いていく。

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プロフィール
Lauren Rose Kocher

Lauren Rose Kocher ろーれん ろーず こーかー

(株)ソニー・ミュージックエンタテインメント 「TOKYO DANCE MUSIC EVENT」実行委員会 委員長

アメリカ出身。シカゴ大学卒業後、2008年に日本へ。イベント会社勤務を経て2012年にソニー・ミュージックエンタテインメント入社。洋楽アーティストの物販やキャンペーンの他、新規事業を中心にさまざまなプロジェクトに携わる。昨年12月、日本初のダンスミュージックの国際カンファレンス&イベント「TOKYO DANCE MUSIC EVENT (TDME)」を手がける。今年のTDMEは11月30日から12月2日の3日間、渋谷ヒカリエを中心に複数会場で開催予定。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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