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結局、マーケターの仕事は尽きない

加來 幹久 かく もとひさ さん (株)デジミホ 代表取締役

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part.4

 

■大きなグループと組んで、マーケットを作っていく。

 

2013年末にローンチされたR∞。MAの概念が浸透するにつれてR∞も広く知られるようになり、導入実績も増えている。そんな流れの中で2015年12月、ヤフー傘下のアフィリエイトサービスプロバイダ、バリューコマースはデジミホの全株式を取得。R∞をYahoo!ショッピングに提供し、出店店舗へのマーケティング支援を行っていくことが発表された。この狙いについて、加來さんはこう語る。

 

「国内外の大手マーケティングツールベンダーもすでにMAツールを手がけていますし、より安価なMAツールもリリースされるようになりました。そして今後、さらにいろいろな会社がMAに参入してくるでしょう。例えばコンサルティング会社とWEBマーケティング会社が資本提携しMA領域への進出を表明するなど、これまではライバルと考えていなかった会社が、MAのプラットフォームを取りに来ている。

そんな状況の中、僕らはどんな未来を描くべきなのか。その答えの一つが、ヤフーグループとの連携を通じて、マーケットを作っていくことでした。

ご存じの通り、ヤフーは通販やトラベルなど多くのサービスを展開しています。だから今回R∞の導入を予定しているYahoo!ショッピング以外でも、さまざまな挑戦をしていけるのではないか、もっと多様な業態にR∞のノウハウを展開していけるのではないか。そんな期待がありますし、大きな可能性を感じています

 

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今後バリューコマースはR∞を活用して、ネットから実店舗へ送客するO2O(Online to Offline:ネット上からネット外の実地での行動へと促す施策)分野を含むオム二チャネルへのマーケティング支援を強化していく。例えば今、デジミホがバリューコマースと取り組んでいる一つが電子スタンプ「PAS+(パスタス)」を使った施策だ。

 

「『PAS+』はスマートフォン画面に専用の電子スタンプを押すことで、ログの計測が可能になります。具体的にはクーポンの消し込みや、ショップ来店履歴などのデータを取得することができるのです。

例えば、実店舗に来ていてECでも購入経験のある女性会員さん。彼女はECサイトでTシャツを見たけれど購入せず、お気に入りに入れたままになっている、とします。その方が店の近くに来た時、店にTシャツの在庫があった場合、クーポンをつけて『今、お近くの店舗にTシャツの在庫がありますよ』というメールをする。その方がクーポンを持って来店して下さった時、スマホに電子スタンプを押す。それにより、彼女がどこの店舗でクーポンを使ってTシャツを買ったのか、ということや、さらにスカートや靴も合わせて買ってくれたことなどを、データとして得ることができる。

今までは、そういった部分は見えていなかった。例えばクーポンをプリントアウトして持参し、購入したとしても、それが売上にどのくらい貢献したか、といったことはわからなかった。でもPAS+を使えば『クーポンを出して500円値引いたけれど、5000円の粗利が出ました』ということをデータとして計測できる。そして『その方が店舗にさらに来るようになり、プレミアムな顧客になりました』といった評価もできます。

私達の今後の方向性としては、まずはスマートフォンとオムニチャネルへの対応でしょう。これからECのメインデバイスはスマートフォンになりますし、オムニチャネル化が進んだ時、スマホを通じてサービスが提供されるシチュエーションはかなり増える。ですから、EC事業者やオムニチャネル戦略の展開企業におけるスマホのデータ計測には、非常に注目しています。企業がスマホアプリをどうビジネスに取り入れるか。それは大きなテーマですね」

 

 

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スマートフォンを活用した施策である、電子スタンプ「PAS+(パスタス)」。事業者側はもちろんのこと、エンドユーザにとっても利便性の高いものになりうるだろう

 

そしてこれから、新たなテクノロジーと融合していくことで、MAはさらに大きな盛り上がりを見せることだろう。

 

今後、MAツールの存在は当たり前のものになっていきます。大事なのは『MAツールを導入すれば自動的に売上が上がる』という考え方じゃなく『MA導入を通じて業務をオートメーション化し、より上流の戦略の設計にフォーカスすること』です。MAは何でも出来る魔法のツールではありません。顧客に応じてそれぞれの戦略に合わせて活用されてこそ活きるツールなのです。

顧客に応じて最適な形を突き詰めてきた結果がMAなんだと思います。MAが出来る前にあった流れとしてはデータベース活用ですね。データベースは企業戦略に重要な経営情報です。そのデータ活用のためにERPが進化し、会計システムや人事管理ソフト、営業管理ソフトができていった。同じように業界毎に進化してEC事業者のMAツール、自動車メーカーのMAツールというように、使うにつれてカスタマイズしたいというニーズが出てくるように必ずなる。R∞をそこにどうフィットさせていくかを、今後さらに考えていくことでしょう。

また、これからの未来においてはAIや機械学習といったテクノロジーが発達していきます。嗜好性の分析やこれまでの動きに基づき、顧客がどういう行動に出るのかを予測する流れに、きっとなっていく。そういったAIや機械学習などにグループ全体で取り組んでいます。そういった面も、傘下に入ったことの大きなメリットだと考えています

 

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■経験の中で仕事をせず、常にリスクを冒す。

 

世の中のMAに対する理解の浸透がますます進むにつれ、われわれマーケターの仕事はどのように変化していくのだろうか。



「これからAIが発達していくことで、コンテンツが自動生成される時代になる。それがマーケターの作業を減らしていく面は、間違いなくあるでしょう。AIならば24時間365日まったく休まず、毎秒100万人にアプローチすることができる。

でも、その活用のシナリオを考えるのは人間です。だから結局、マーケターの仕事は尽きない。これまで作業を行っていた時間が、考える時間に変わっていく。そしてマーケターの仕事は"超上流"の部分で、企業の経営意図を商品戦略にどう落とし込むか、といったオートメーション化できない部分になる。だから、今後どれぐらいのマーケターが生き残れるかはわかりませんが、仕事自体がなくなることは決してありません」

 

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そんな加來さんが、一人の経営者として大切にしている考え。それは「毎日毎日、ひと皮むけ続けること」だと語る。

 

「僕は、経験の中で仕事をすませることを決してしません。常に風呂敷を広げ、新たなことを試みて、新たな経験をして、ひと皮向け続ける。よく言えば『常に成長し続ける』ということですね。

社員に求めることも同じです。できないことがわかっていても、可能性がある人には難易度の高い仕事を振っていきます。ウチの人材育成はそういったスタイルで、いわばスーパースターを育てるアプローチです。難しくて、頑張らないとクリアできない課題を、常に与え続ける。そのチャレンジこそが、デジミホをさらに成長させていくと思っていますから」

 

経験の中で仕事をせず、常にリスクを冒す。
加來さんそしてデジミホは、これまでもそれを繰り返してきた。そして、これからもそうしていく。

(終わり)

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プロフィール
加來 幹久

加來 幹久 かく もとひさ

(株)デジミホ 代表取締役

1974年栃木県生まれ。’96年から商社で半導体やハードウェアモジュールの輸出入などを手がける。2004年に株式会社デジミホを設立。デジタルマーケティングのコンサルティングを行う。2013年末にMAツール「R∞」をローンチ。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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