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世界のファッション産業は、サステイナブルへと舵を切りつつある

石川 俊介 いしかわ しゅんすけ さん 株式会社エグジステンス デザイナー

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「大量生産・大量廃棄」から「サステイナブル」へ。ファッションブランドに今後求められるのは、原料と生地の生産過程の透明化、そして持続可能性の追求。サステイナブルであるかどうかは今後、ブランドの存続を左右する要素となるだろう。今回は「メイド・イン・ジャパンの服作り」を掲げるメンズブランド「マーカウェア(MARKAWARE)」「マーカ(marka)」を主宰するデザイナーの石川俊介さんにお話をうかがう。

写真=三輪憲亮


Part.1

 

■ファッションは環境に悪影響を与える二番目の産業

 

 「メイド・イン・ジャパンの服作り」を掲げ、素材選び、縫製、加工など、洋服作りに全アプローチを日本国内で行うメンズブランド「MARKAWARE」「marka」。ブランドを主宰するデザイナーの石川俊介さんはこの秋冬から、新ブランド「Text」をスタートさせる。
Textのメインコンセプトは「サステイナブル」。直訳すると「維持できる」「耐えうる」「持ちこたえられる」という意味だ。石川さんは服作りにおいて原料のチョイスから始まるすべてを透明化し、サステイナブルな形で行うことを目指しており、こう問題提起する。

 

社会そして地球環境に悪影響を与えず、長きにわたって持続していける産業かどうか。その観点から言うと、ファッション産業は問題だらけ。そしてこの数年、欧米を中心とする世界のファッション業界は、環境問題や人権問題、そしてビジネス面の立ち遅れなど、さまざまな問題と向き合い始めています。

 

 

素材に関してはどれだけハイテクでも、サステイナブルなもの以外は受け入れられません。製造過程も同様です。今後新たに生まれるブランドは、サステイナブルを謳わないと認知すらされなくなる。そして世界的なブランドであっても、サステイナブルな取り組みをしていなければ存続自体が危ぶまれる。そんな時代がもうそこまで来ているのです

 

「サステイナブルな服作り」を考える時の基準。それは、国連が定めたSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)だ。SDGsでは貧困の撲滅、地球環境の保護など、17のゴールが設定。「すべての人が平和と豊かさを目指して行動すること」が呼びかけられ、環境問題、人権問題、そしてビジネス関連、平和とパートナーシップ、という四つの要素で成り立っている。これらを理解することで、今のファッション産業が抱える問題点が見えてくる。

 

 

環境問題から言うと、ファッションはエネルギー産業に次いで世界で二番目に環境に悪い影響を与えている産業であることをご存じでしょうか。例えば日本では禁止されていますが、服を染める時に使う合成染料をそのまま排水すると深刻な水質汚染を招きます。ごく最近までそれをしていたり、今もしている国はまだまだたくさんあります。

また、大量の水を使うことも問題。例えばTシャツを1枚作るのには、トータルで約2700Lもの水が使われるそうです。日本は水資源が豊富なのであまり注目されていませんが、海外では大きな問題になっています」

 

石油から作られる化学繊維はもとより、綿の栽培で使われる薬品や繊維の仕上げ材など、繊維産業は多くの再生不可能な資源に頼っている。その結果、ファッション産業が排出する温室効果ガスの量は年間で約12億トンにも上り、化学繊維のプラスチック粒子は毎年約50万トン以上が海に破棄され、海洋環境を汚染している。これが、ファッション産業の現実である。

 

■10代、20代の意識が変わりつつある

 

「それだけではありません。もう一つの大きなテーマが人権問題。ここでもファッション産業は、性産業に続いて現代の奴隷のリスクを多くはらんでいると言われています。

 

 

今、世界的なアパレル企業が、安い労働力と劣悪な労働環境で大きな収益を挙げていることが問題となっています。彼らは安くて豊富な労働力を求め、途上国に製造拠点を移す。そこには児童就労や長時間労働、強制労働という社会問題が存在している。

この状況を問題視し、自社製品の製造過程をつまびらかに公開し、透明性を高めようとするグローバルブランドが徐々に増えています

 

 まさに今、サステイナブルへと舵を切りつつある世界のファッション産業。だが日本では、この現状に対する認識は薄い。

 

「日本はまだまだ『たくさん作ってたくさん捨てる』ファストファッションが全盛。サステイナブルの意識を持って服作りに取り組んでいる人も、皆無に近い。今はまだ、大企業の人達がSDGsについて勉強を始めた段階。多くの人は言葉すら知らない状態だと思います。

 

 

先進国の意識が変わりつつある反面、日本はまだまだ遅れている。おそらく、先進国で取り組みが最も遅い国の一つです。ただし、今後は間違いなくそれでは済まされない。地球環境を破壊したり人権を侵害するような行いは、どんどん受け入れられなくなっていくでしょう。

理由の一つが若い人達の意識。今、全世界的に10代、20代の人達の意識が変わってきている。例えばアメリカでは、90年代半ば以降に生まれたジェネレーションZという世代がパワーを持ち始めています。彼らはアメリカの人口の4分の1を占める大きな人口グル―プで、環境意識や人権意識への関心が非常に高い。そして今後、世界で最も影響力のある購買層になっていきます。

彼らがあらゆるカルチャーを引っ張っていくことで、世界中の意識がサステイナブルな方向へと、どんどん変わっていくはず。実際に日本でも、僕らの考えに賛同してくれる若い世代のお客様と出会う機会が増えています」

 

 

 まさに世界が変わりつつある今は、石川さんにとって大きなチャンスでもある。

 

まずは、サステイナブルへの意識づけをしっかりする。これは、今のファッション業界で商売をしている人間の役目。そのためにも、服作りの後ろにあるサステイナブルなストーリーをきちんと伝えていく。これがやるべきこと。僕らに課された使命であり、今後、ライフワークとして取り組んでいくことだと考えています」

 

 次回Part.2から、石川さんのこれまでのキャリアと、サステイナブルという考えに至ったバックボーンについて、話を聞いていく。

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プロフィール
石川 俊介

石川 俊介 いしかわ しゅんすけ

株式会社エグジステンス デザイナー

1969年兵庫県出身。学生時代からファッションが好きで、古着やスニーカーの買付けなどを積極的行う。大学卒業後は経営コンサルティングの会社に勤務。
2002年にレディースブランドとして「marka」を立ち上げる。
2003年からメンズをスタートし、2009年より「MARKAWARE」と「marka」の2ラインを展開。
2011年に中目黒に直営店の「PARKING」をオープン。2019年秋冬より新ブランド「Text」を展開予定。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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