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起業家に大切なのは「まずYesと言う」精神性

大谷 真樹 さん 八戸学院大学 学長

Part.3

 

■ベンチャーはスピードとの戦い。イノベーションは組み合わせから生まれる。

 

 八戸学院大の名物講義が、2009年に開講した「起業家養成講座」である。10~15人ほどの少人数を対象にしており、ネットリサーチ企業を立ち上げ、育て上げた経験を元に大谷学長自ら教鞭を執るこの講座は、学生はもちろん社会人にも開放。これまで130人ほどが修了し、16人の起業家を輩出している。

 

逆算型のアプローチとリソースの分析、組み合わせのシミュレーション、そして事業のプレゼン、という流れで、半年間をかけて行います。まず全員が、自身の30年計画を作ります。そこで最終ゴールを決めさせ、自分はどうなっていたいのかを考えさせます。『社長として100億円の大金持ちになりたい』『県知事になりたい』といった大きな絵を描かせるわけです。そして、そのためには今、何をどう行うか、というポイントに戻させる。最終ゴールのために、今、何をせねばならないのか。自分の強みと弱みは何で、何が足りていて何が足りないのか。そして今、どういう立ち位置にいるのか。それを考えるために、まずは、自分の適性や能力を分析することからスタートします」

 

 次に行うのがリソースの調査、そして組み合わせのシミュレーションだ。

 

自分の周りにはどんな材料があるのかを調べさせます。例えば青森県の地域資源や、自らの家業といったものです。こんな産業とのコネクションがあるとか、家業にはこんなスキルの従業員がいてどんな歴史があるのかなど、周囲にある材料を俯瞰させる。

 

そして次に、目標を達成するためには、自分とどういうものを持っている人をかけ合わされればいいのか、組み合わせを考えていきます。例えば、自分の家は農家だけれど、農協としか取り引きをしておらず苦しい。では作った野菜をネットで販売したいけれど、自分にはITや流通の知識がない。じゃあ、自分とどこの誰を組み合わせれば、それができるのかを考えます。もちろん、その選択肢には受講生とOB、OGも含まれます。

 

その時、ネットを勉強したり流通を勉強したり、というゼロスタートのアプローチは基本的にさせません。だって、つらいですから。基本パターンは、自分と何かを組み合わせることを考えましょう、というもの。まったくのゼロから生まれるイノベーションは、世の中にほぼありません。大事なのは組み合わせです。ベンチャーはスピードとの戦い。ゼロから開発している暇はないので、必要なのはアライアンス戦略です。

 

そして後半はディスカッション。ゼミ形式で、それぞれのアイデアを実際のビジネスモデル化していきます。具体的な数値化した事業計画を作成する。当然、ダメ出しもキッチリします。起業に当たって必ず訪れる、数字との戦い。嫌な作業ですが、これをちゃんと乗り越えさせる必要があります。そして最後は、実際のベンチャーキャピタルに対してプレゼンしてもらいます。このころにはいっぱしの起業家精神ができ上がっていますよね

 

起業家養成塾まとめ

 

ただし、セオリーを学びたいならば、関連書籍や講座は他にいくらでもある。大谷さんが最も重視しているのは、起業家としてのメンタルタフネスさを作っていくことだ。

 

「学生に伝えているのは『まずはYesと言え』ということ。そこから調べるなり、考えるなり、悩むなり、言い訳するなり、逃げ出すなりすればいい。最初にYesと言ってから考えろ、ということです。こういうことは、なかなか大学では教えてもらえませんよね。

 

つまり"Yes, but…"です。『はい。でも、私には経験がありません。知りません。では調べよう。何とかしたいけど私はここが弱い。それをどうしようか』というように、まずはYesと言ってから考えていくべきです。確かに現代社会は不確定な要素が多い。でも、そこは走りながら考えるしかない。心配事を考えたら、キリがありません。

 

今、世の中があまりにも"Nо, because"から入りすぎだと思うんです。みんな、常にできない理由を探している。まずYesと言うことと、Nоと言うこと。それによって発想とベクトル、そして結果がまったく変わってくると思います。『いいから、まずはYesと言え。そこからひと呼吸おいて考えろ』ということです」

 

■新たな化学反応を生むソサエティ。その名も「ビッグバレー」。

 

 そんな起業家養成講座だが、実は、受講期間の半年がすぎたら終わり、というものではない。

 

「修了後もOB会的な集まりにより、関係性は続いていきます。やはり、同じ釜の飯を食った同士の絆は強い。ちなみに名前は『ビッグバレー』といいます(笑)。ビットバレーをもじって、大谷を英語にしたものですね。そこは養成講座の終了生と、彼らが連れてきた人だけが入れる完全招待制の場で、八戸と東京で定期的に開催されています。

実はこれが、大きな化学反応が起きる場になっているんです。みんなが組み合わせのトレーニングをしていますから、修了生のOB達、そして連れてきた方々の組み合わせによる化学反応が必然的に起こり、マッチングによる新規のビジネスや、共同でオフィスをシェアしよう、などというアイデアが生まれるのです。実際に今、ここから多くの面白い試みが生まれています。

 

八戸を始め地方都市にも、昔から商工会議所や、青年会議所、そして業態ごとの組合などはありました。でも、例えば起業したい方々や故郷に戻った女性、東京からUターンしてきた男性などは、それらに入ることはできません。つまり行き場がなかった。そこに、起業家養成講座という新たな斜めの関係の場ができた。これはすごく大きい。僕はやってみて、すごいインフラを持ってしまったと感じました。アントレプレナー精神を持った人が集まり、そこにまたユニークな人が反応して来ることで、数百人レベルで八戸の面白いヤツらを束ねてしまった。結果として、恐ろしいことになっている(笑)。

 

いわゆるオープンな異業種交流会となると、行ってみたらおかしなビジネスへの勧誘ばかりだった、という話も聞きます。その点ビッグバレーには、泣きながら一緒に勉強した仲間と、彼らの紹介した人しか集まらない。だから、人のクオリティとエネルギー度が高い

 

ビッグバレー統合
起業家養成講座の終了生と、彼らが連れてきた人だけが入れる完全招待制の場、ビッグバレーの様子

 

 大谷学長はまた、女性起業家の可能性を大きく信じている。起業家養成講座にやって来る人達も、ここ最近は女性が特に増えているようだ。

 

「これまで全体の男女比でいえば半々なのですが、第7期生は10人中9人が女性です。しかも、みんな自立しなければいけない事情がある。それだけに、本気度が高いんですよね。子連れで八戸に戻ってきて、自分で稼がなくてはならない。でも八戸には、30代後半ともなると正規雇用があまりない。パートではなかなか食べていけないんです。

 地方を元気にするのは、女性のアントレプレナーですよ。サラリーマンをいずれ辞めてみたいな気持ちの男性は、たいてい何も行動を起こさない。リスクを取らない人からイノベーションは生まれない。オン・ジ・エッジな女性の方が、ずっとパワフルです(笑) そういった女性の方ほど、成功率は高い。 

 

イノベーションのヒントは、八戸にも山ほど転がっている。八戸はそれほどまでにポテンシャルの高い街であり、東京ではつかむことのできない多くのチャンスがあふれているのだ。
最終回となる次回は、八戸の大きな可能性、そして大谷学長が考える新たな私立大学像について、お話をうかがっていく。


プロフィール
大谷 真樹

大谷 真樹

八戸学院大学 学長

1961年青森県生まれ。学習院大経済学部卒業後、プラント会社を経て日本電気へ。
’96年に市場調査会社インフォプラント(現・マクロミル)を立ち上げ、2001年に「アントンプレナー・オブ・ザ・イヤー・スタートアップ部門優秀賞」を受賞。
2008年に八戸大(現・八戸学院大)客員教授となり、2010年に八戸大学・八戸短期大学総合研究所所長に就任。
2012年4月、八戸大学学長に就任。’13年4月、八戸学院大学に校名変更を行った。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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