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つながりの構築が、熱量を持続させていく

今田 孝哉 いまだ こうや さん (株)Asobica CEO

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オンラインサロンの人気などにより昨今、注目を集めつつあるコミュニティマーケティング。ソーシャルメディアから小さくて身近なコミュニティへと時代の価値観が少しずつシフトしていく中、コミュニティ運営プラットホームで注目を集める株式会社AsobicaのCEO・今田孝哉さんの話を伺う。

写真=三輪憲亮


Part.2

 

■ユーザーにどれだけ参加できる余白を与えらえるかが、熱量に直結する

 

 現在、マーケティング手法としてコミュニティが注目を集めていることについて、今田さんはこう語る。

 

「今、サブスクリプション市場が伸びていますが、その中でも各社最も力を入れているのが解約率の低減です。せっかく来てくれたユーザーが数カ月で辞めてしまってはビジネスがそもそも成り立ちません。解約率を下げるには、エンゲージメントを高めなくてはいけません。その一つの手段としてコミュニティが注目されているわけですが、要はユーザーとユーザー、あるいはユーザーと提供者側がつながりながら一緒にサービスを作っていく共創こそが、今求められています。

というのも、これまでのマス広告の考え方は、たくさんお金を使ってより多くの人にリーチすることでした。でも今は一方的なコンテンツでは、もはやユーザーに刺さりません。認知を獲得してモノを売る時代はもうとっくに終わってしまった。

 

 

そうではなくて、ユーザーは自らが参加できる余白を探していて、例えばモノを買うだけではなくモノを売ってみたり、場所を借りるだけではなく自分の家を誰かに貸してみたり。あるいはユーザー同士で何かアドバイスしあったりコミュニケーションしながら、いわばインタラクション”を楽しんでいる。TikTokやtwitterが若者を中心に熱狂を生み出してるのもそれですね。

 

そのような形でユーザー自らが参加できる余白を作らなければ、サービスがユーザーから選ばれること自体、どんどん難しくなっています。この流れはもう止まることはないでしょう。あるいはどうしてもユーザーのケアの観点から参加型にするのが難しいというのであれば、圧倒的なクオリティのコンテンツを作ればいいのですが、それは相当難易度も高く資金も必要とする。結果的にそういう領域はNetflix等の海外企業がとても強くて、国内企業が勝つには相当大変な領域です」

 

今、マーケティング手法はまさに大きな転換点に差しかかっているのかもしれない。ユーザーと一緒にサービスを作りながら、熱量のある濃いコミュニティを醸成していき、そのコミュニティの熱量をどれだけ大きくできるかが、まさに重要になっている。

 

■「中の熱量」を、いかに高めるか

 

 そんな今田さんがAsobicaを立ち上げた原点は、学生時代のダンス経験にある。

 

「僕が高校時代にブレイクダンスを始めたのは、周りが誰もやっていないから簡単に一番になれると思ったからです。結果的に、大学の時は大会でも何度か優勝することができました。ただ問題は、やってる人があまりいないのでライバルもいない分、仲間もいない。気づけば一人で練習することがほとんどで、高校3年間、ダンスをする時は割と孤独でした。

 

 

だから大学に入ったら、数百人規模のダンス部で思い切りやりたかった。次こそリベンジ。そんな気持ちで大学に入り、ダンス部のホームページを見たら大勢のメンバーがいる。これは楽しそうと思い入部すると、実際は先輩が2人しかいない。どうやら内輪もめで、他のメンバーが離れてしまったようでした。しかもその2人は4年生。僕が2年生になったら卒業してしまって、結局またしても1人になってしまったわけです(笑)。

 

そこで僕は『学内最大規模の部活を作る』と宣言し、メンバーを募りました。でも部員はなかなか入らず、孤独はその後数ヶ月続きました。やはり、1人でやっているダンス部に誘われても、変な人だから1人なのだと思うでしょうし、普通断りますよね。自分の無力さや巻き込み力のなさを痛感しました」

 

 どうすれば入ってくれるのか。悩んだ今田さんは、無料のダンスレッスンを始めた。

 

「ダンスをやりたい人は確実にいる。そこで、1日無料で教えるからと誘ったところ、それならと、2人入ってくれました。この2人があの頃の自分にとって最後のチャンスをくれた存在かもしれない。そこからは彼らが1日でも長く続けるための工夫を当時はずっと考えていたと思います。せっかく掴んだチャンス。もう一人に戻るのは嫌ですから(笑)」

 

 当時、今田さんのダンス部とは別に、女性5人程度のダンスサークルが存在していた。せっかくなら合同の方が活気が出ると思い、合併を申し出たところ、断られてしまった。

 

「合同は断られてしまったので、練習する場所と日程を同じにしました。隣同士なので、遠くから見ると一つの集まりに見える。つまり同時に練習して、勝手に『一緒にやっている感』を出したわけです(笑)。

 

 

それでしばらくやっていると、せっかく一緒な日に練習しているのであれば一緒に学祭に出ようとなりまして。それをきっかけに合併し、そこからすごく仲良くなった。今思えばそこがブレイクスルーのタイミングでしたね。それから一気に70人まで増えました。

 

その過程で気づいたことも沢山ありました。例えば、会社とは違って来ないといけない理由がない大学の部活にどうしたら能動的に参加するようになるのだろうか、ということ。というのも初めは学祭が終わった瞬間誰も練習に来なくなったんですね。学祭という明確な目標がなくなった途端、何か熱が冷める感じがした。これではいけないと思って、2ヶ月に1回くらい定期的に何かしらイベントを自ら企画して、ダンスを練習する理由を作っていきました」

 

 するとダンス部はいつの間にか「学内で最も大きなイベントを企画する団体」になり、学校内でも存在感がどんどん増していくように。

 

「あとは横のつながりが生まれていくようなコンテンツを沢山作りました。例えば、ダンスには関係ないのですが、球技大会だったりフラッシュモブだったり、飲み会だったり。その効果は絶大で、横のつながりが緩やかに出来始めると途端にそこがある種の居場所化して、ダンスをしたいというより、メンバーに会いたいという形で。学祭が終わると誰も練習に来なくなっていた集団が、ほぼ全員が能動的に集まる集団へと変化していました。

 

 

これらの経験から学んだことは、ゴールの明確化と、つながりの構築が、チームの熱量を持続させていくということですね。結局サイバーエージェントやソフトバンクなど、あらゆる会社が毎月の表彰(MVP)だったり、飲み会やイベントだったりを定期的に実施していくのと全く同じです。孤独に戻りなくない!というネガティブな感情が、自分を突き動かして、気がついたら組織づくりの知見がどんどん溜まっていました。

 

結局大事なのは『中の熱量』をいかに高められるか。よく採用でも広報でも外側にどう伝えるか?を語っている記事が多かったりしますが、最も重要なのは中のメンバーの熱量をどう上げていけるか、という部分ですよね。それができれば、採用も業績も連なるようにうまくいくのではないかと思っています」

 

 次回Part.3では、今田さん自身が手がけたコミュニティと、fever立ち上げの背景にあった思いについて、話を聞いていく。

 

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プロフィール
今田 孝哉

今田 孝哉 いまだ こうや

(株)Asobica CEO

1993年生まれ。学生時代、音楽フェスを立ち上げ3年後には県内大規模に成長。大学卒業後は「世界で一番起業家を輩出する」をビジョンに掲げるファインドスターグループに入社し6ヶ月で社内記録を更新。
その後、新規事業の立ち上げに従事し、2017年に株式会社Asobicaを創業。2018年にコミュニティ運営プラットフォーム「fever」を立ち上げた。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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