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日本にもっと「食の選択の自由」を

神宮司 希望 じんぐうじ のぞみ さん UPBEET!Founder/Omiso Co-Founder

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キャビンアテンダントから転身し、オリジナルのエッグベネディクトやパンケーキで人気を博した「エッグセレント」を立ち上げ、4店舗まで拡大させた神宮司希望さん。この3月にエッグセレントから身を引いた彼女が今、手がけているのは、プラントベースのスイーツと味噌玉。その背景にあるものと、彼女の核となる思いについて話を聞いた。

写真=三輪憲亮


Part.2

 

■ワクワクするのは、体によくておいしいものに出合った時

 

現在、プラントベースのスイーツの商品開発を手がける神宮司さん。きっかけとなったのは、エッグセレントの代表を辞めた後、自分を見つめ直すために2カ月ほどアメリカに滞在したことだった。

 

「自分は何をしたいのかを模索した2カ月でした。これからも大好きな食に携わり続けたい、という気持ちははっきりしていましたが、あとはノーアイデア。アメリカを中心に自由に旅をしていました。日本を離れてリフレッシュし、会いたい人に会い、自分ともしっかり向き合うことができました。

 

最初のひと月はハワイへ。ファーマーズマーケットに出店したり、農家さんを回ったりと、とにかく毎日好きなことをして過ごしました。そして翌月はロサンゼルスで、Omisoという味噌玉を販売するスタートアップをサポート。初めて経験する海外ビジネスでしたが、アメリカでは今、発酵食品と日本の食文化が大きな注目を集めているので、すごくいい経験になりました。

 

 

そんな2カ月を過ごして再認識したのが、私がワクワクする瞬間ってやっぱり、体によくておいしいものに出合った時だということ。アメリカでは、こんなにおいしいなんて、こんなに体が心地いいなんて、と感じる機会がたくさんありました」

 

 おいしくて心と体にいいおいしいものを、お腹いっぱい食べたい。その思いを深掘りして、これからの飲食業の形について考えていった。そもそもアメリカと違い、日本では、おいしくて体にいいものを外食に求めること自体が難しい。その理由は何なのだろうか。

 

「理由の一つが、日本には『みんなが同じ』という前提のようなものがあること。それは食だけでなく生活全般も同じで、その感覚が生きづらさにつながっている気がします。よく『普通こうでしょ』って言われませんか? 私は子供のころからその言葉の意味がわかりませんでした。普通って何? みたいな(笑)。普通という選択は、いったい誰にとっての普通なんだろう、と思います。それもおそらく、日本で食の選択肢が少ないことの大きな理由になっている。

 

でも欧米はまったく違います。おいしくて体にいいものがどこでも買えるし、好きに選べる。その理由は、アレルギーを持っている人、宗教上の理由で食べられないものがある人、ベジタリアンなど、さまざまな人が一緒に暮らしているから。
そして何においても選択の自由があって、いろいろな考え方や文化などの背景を持った人達が同じ社会の中で当たり前のように暮らしている。個人が常に自分らしくいられて、違う考えの人が排除されることもない。
2カ月間、その感覚がとても心地よかった。食の選択を通じて、自由でいいんだということを教わった気がしました」

 

 

 その中で神宮司さんが最も驚いたことが、アメリカではどこに行ってもヴィーガン向け、グルテンフリーのチョイスができることだった。

 

町の小さなカフェなどでも必ず選べるし、しかもいろいろなレシピがある。スイーツもあれば、丼ものやラーメンだってあるんです。しかも、プラントベースだからこの程度のおいしさで我慢、なんて考え方はいっさいない。わざわざ食べに行きたいぐらい、おいしいんです。

 

食の選択の自由をもっと日本に。どんな国の人も、どんなバックボーンの人も、どんな体質の人も、食を通して同じ時間をシェアしてほしいし、日本でもっと食の選択肢が広がってほしい。さまざまなカルチャーやバックボーンを持つ人が、スイーツを通じて笑顔で楽しい時間をともに過ごす。日本の社会もそうなってほしい。
アメリカでの2カ月でそう感じて、その思いをプラントベースとグルテンフリーのスイーツを通して広げていきたいと思いました」

 

■普通の人達がおいしく食べられて、健康になるスイーツ

 

 神宮司さんが作ろうと考えたプラントベース、グルテンフリーのスイーツは、これまで日本にまったくなかったものではない。例えば玄米や全粒粉を主食として、豆類や野菜、海草などで組み立てるマクロビオティックという食事法をベースにしたスイーツは以前からあった。ではなぜ、それが今まで浸透してこなかったのか。

 

「やはりどんな健康的なものでも『食』なので、おいしくて楽しくなければ広まらないと思うのです。健康だから我慢するは続きませんよね」

 

 また、ベジタリアンやヴィーガンという存在も、日本ではまだまだなじみが薄いのが現状だ。

 

「例えば、日本ではヴィーガンはすごく厳しくてストイックなものと考えられています。それは海外でも同じ。ただ倫理的、宗教的思想でなく、体によりよいもの=植物性の食材を中心に取り入れるようにしましょうという『プラントベース』という予防医療にもとづいた考え方が浸透してきています。決して肉や魚、卵、乳製品をとらないということでなく植物性のものを中心に取り入れるというのがこのプラントベースの考え方です。

 

 

 

そのほかにも食への考え方はどんどん柔軟に解釈されていて、例えば『フレキシタリアン』というフレキシブルとベジタリアンを足した言葉ですが、菜食中心の生活をしながら時々肉なども食べたり、普通の食生活をしながらも健康を考えて1日だけプラントベースやヴィーガンの食生活なったりと、柔軟に考える人がたくさんいる。こういう考え方をする人が、日本でも増えてほしいですね」

 

 神宮司さんは約2カ月のアメリカ滞在中、ヴィーガン向けやグルテンフリーのスイーツを毎日のように食べ歩き、実際に作ってみては失敗を繰り返した。

 

「膨らませるための卵。コクを出すためのバター。しっとりさせるための牛乳。全部使えない。グルテンがないので膨らまない。そんな制約の中でおいしいものを作り上げる。この大きなチャレンジが楽しくて仕方ありませんでした

 

 帰国後はキッチンにこもり、数カ月間、朝から晩まで試作を重ねた。そして完成した商品は今、青山ファーマーズマーケット で週末に販売されている。

 

Farmer's Market @ UNU

 

「私が表現したいプラントベースのスイーツは、決して一部のヴィーガンやベジタリアンの方だけに向けたものではありません。目指すのは、濃厚なプリンもジャンキーなアイスクリームも好きなごく普通の人達がおいしく食べてくれて、しかも健康になれるスイーツです。

 

私の思いは、そういう専門店を広めることではなく、自由な食を選択できる国になってほしいということです。日常で自分の今日の体調や心に必要な食を選択できる自由を日本に広げて行きたいと思っています。そうすることでいろいろな思考や体質、宗教などの背景を持った人も同じテーブルを囲める食の楽しさをたくさん生み出していきたいと考えています

 

 次回Part.3では、神宮司さんがこれまでのキャリアから得たものと心得、そしてロサンゼルスで展開するスタートアップ「OMISO」について話を聞く。

 

撮影協力:EVERYDAY MEALS(三軒茶屋)

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プロフィール
神宮司 希望

神宮司 希望 じんぐうじ のぞみ

UPBEET!Founder/Omiso Co-Founder

鹿児島県生。大学卒業後、航空会社に入社、世界中を飛び回る中で朝食の素晴らしさを実体験し、2013年11月に「eggcellent(エッグセレント)を六本木ヒルズにオープン。取締役COOとしてその後4店舗まで拡大させる。
2018年に退職し、ヴィーガン向け&グルテンフリーのスイーツブランド「UPBEET」を立ち上げる。一方ロサンゼルスでは、味噌玉を販売し、日本の発酵文化の魅力を伝えるスタートアップ「Omiso」の共同創業者を務める。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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