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モノの売り方を見つけ、的確に言語化する
テレビショッピングや店頭で、商品を実際に使いながら口上を並べる実演販売士。1日で2億円近い売上を記録したこともあり、最近はバラエティ番組にも進出しているレジェンド松下さん。彼はどのようにして、テレビ視聴者や通りがかりの人達の「買いたい気持ち」を作っているのだろう。
写真=三輪憲亮
松下さんが今、見すえているターゲットは二つある。一つは海外展開。海外のテレビ番組での実演販売と、取扱商品の輸出。そしてもう一つが、ライブコマースだ。
「ライブコマースは今、流行しつつありますが、非常に大きな可能性を感じています。大きな理由がコストと商品のバリエーション。テレビショッピングはそれなりに制作費がかかるので、商品単価5000円ぐらいでないと成立しにくい。でもライブコマースは制作費が安く済むので、商品単価1000円ぐらいでも十分成り立つ。つまり食品とか洗剤とか、身近な商品を提供しやすい。今後はそういった形で、商品のリミッターを外していきたいです。
また、新しい層の需要を掘り起こすことができます。例えば女子高生が買い始めたら面白くなるでしょうね。今まで、テレビショッピングで買うのは30代や40代の主婦が多く、生活に密着したものばかりだった。そこから少し枠を広げて、もっと多くの人がスマホで気軽に買いものできる、新たな形を作りたいです。
気軽さも大きな武器になります。ライブコマースの配信はすごくシンプルで、スマホ一つでできます。そして、テレビショッピングのような緊張感は必要ありません。もっとゆるく『この商品知ってます? えっ知らないんですか!? 今から放送するのに!』みたいな、昔のラジオの深夜放送のような気軽な感じでOK。高校生が部室でしゃべっているような、ゆるい感覚で十分なんです。今後、もちろんテレビショッピングは残ると思いますが、ライブコマースは新たな形として大きくなっていくと思います。
そのための課題は集客力です。実は以前、Ustreamを使って自社でトライしたことがあるのですが、集客がなかなか難しかった。そのため今後はすべて自前で行うのではなく、アマゾンやヤフー、楽天、メルカリなどのプラットフォーマ―と組んでいきたいです。いい商品さえ集まれば、こっちは何でもしゃべりますから」
また今後、松下さん自身のテレビ出演は絞っていくつもりだという。
「ウチはあくまで新しい商品を開発し、宣伝する会社。今後はなるべく僕自身の出演は控え、モノ集めに専念したいです。現在、ウチにはトータルで40人ぐらいの実演販売士が在籍しているので、十分可能だと思います。彼らを育てる側に回りたいですね。
実演販売士はあくまで、タレントとは別。モノを1から作れる人材であってほしいと思います。例えばウチに『ロックオン錫村』という実演販売士がいるのですが、彼は自分で商品を開発し、ウチに卸しています。彼は一つの理想。ただしゃべれるだけではダメで、モノの売り方を自分で見つけ、それを的確に言葉にできる人材であってほしい。」
大事なのは「いかに自分を信じられるか」だ。
「『こんなの売れないよ』と言われる商品の方がずっと多い中で、自分を信じられるか。さまざまな意見が出る中で『でもこれは売れるんだ』と言えるかどうか。実際に売れるか売れないかはいろいろな要素がありますが、そうやって自信を持って強く言い切ることは大切です。実演販売士は、売れた、売れないを自分のせいにできる人間であってほしい。人の意見を聞いてばかりで、考えようとせず、売れなかった時に人のせいにするような姿勢ではダメです。
もちろん人の意見を聞くことは大事です。でも、最終的に選択するのは自分。自分で考えて自分で選ぶ。それができれば、自分の意見をきちんと言える。すると、言葉に説得力が生まれる。ひと言ずつの重みが、まるで違ってくるのです」
そのような人材を育てるために、実際にモノができるまでを工場でしっかり見る習慣をつけさせている。
「ウチの場合、必ずモノを作っている工場に行かせます。そして、宣伝するモノがどうやって作られていくのか、すべてを見てもらいます。工場で、商品がどのように作られていくのか、どの工程でどんな人がどんな作業を行っているのかを、しっかりと見る。
それによって、商品がどんなこだわりとともに生まれてくるのかをリアルに知る。その上で発する『これだけ手間をかけて、丁寧に作っているんですよ』という言葉は、重さがある。しっかり見た上で実感を込めて語る言葉と、ただ聞いただけの話はまるで違う。
要は、工場で作業をしている人達を含め、全員でモノを売っているということ。実演販売士はその最終地点であるという強い意識を持つ。その気持ちが、一つ一つの言葉に説得力を与えるのです」
ただ番組を盛り上げるだけではダメ。大事なのは、新しくていい商品を常に開発し、リリースし続けること。実演販売士はあくまで、視聴率を上げるための一つのオプションに過ぎない。松下さんは、常にそのスタンスを忘れないよう心がけている。