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やる意義や必然性、そして今までにない価値観

森岡 督行 もりおか よしゆき さん 森岡書店 店主

Part.4

 

■日本の出版、写真、デザイン…このビルには、すべての源流がある。

 

森岡さんが新店舗を立ち上げるに当たり、こだわったのはやはり場所。大の近代建築好きで、場所ありきで独立を決めた森岡さんだけに、新たな店のコンセプトを煮詰めるには物件こそすべてだった。

「実は遠山さんと話を進める際、馬喰町の一棟貸し物件に目星をつけて『ここでやりましょう! 1Fをカフェにして2Fを本屋、3Fをスタジオにすれば収益もしっかり上がるし、家賃も安いです』と言っていたものの、決める寸前に別の方に借りられてしまいました。

がっかりしていた時に知ったのが、この銀座のビルが空くという話でした。私は東京にある近代建築を見つけるのが趣味で、ほぼすべて把握しているといっても過言ではありません。この場所の大家さんともよくコミュニケーションを取っていたので、情報が入ってきまして。

 

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ここは昭和4年つまり1929年にできた建物で、昭和14年から日本工房という編集プロダクションが入っていました。日本工房はクオリティの高い制作物を作っていて、当時の第一線で活躍するクリエイターが集結していたんです。写真だと土門拳さん、デザインだと亀倉雄策さんといった人達ですね。このビルにはとてつもなくクオリティの高い、日本の出版、写真、デザインの源流がある。そんな歴史的背景があるからこそ、ここでやる意義がある。話を聞いた時、即座にそう思いました

 

茅場町をクローズしてここに来た。今回もやはり、場所ありき。

 

もう、ここしかないと思いました。ここじゃなかったら、やっていなかった。そして遠山さんも理解を示してくれました。遠山さんはビジネスをする時、意義や必然性、そして今までになかった価値観を大切にする人。その点でも、すべてがそろった気がします

 
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■出版という斜陽産業の中で、新しさを出した。

 

その後ドタバタを経て、森岡書店は昨年5月に開店。客入りに不安はあったが、蓋を開けてみるとたくさんの人が詰めかけ、大人気となった。

「『1冊の本を売る』というコンセプトに、多くのメディアが興味を持って下さりました。正直、反響は予想をはるかに超えていましたね。決して大儲けするようなビジネスモデルではなく、まあ、何とかなるだろう程度の試算だったので、この人気はいい意味で意外でした。

また日本だけでなく、海外のメディアの方も来て下さりました。イギリスのガーディアンやアメリカのNYタイムズの他、中国の中央電視台と新華社通信、そしてフランスのテレビ局などです。『1冊の本を売る』というコンセプトがこれまで世界になかったことと、『本の中にお招きする』という私の感覚に共感して下さったことが、大きな理由です。

中でも忘れられないのが、中国のメディアの方がおっしゃっていたこと。『イノベーションとは、普段は技術革新から生まれるもの。例えばスマホのように、生活を一変させるようなものです。その点、このコンセプトもまたイノベーションだと思う。技術的な革新はないけれど、どこかちょっと新しさを感じる。何かが今までと違う。出版という斜陽産業の中で新しさを出せたところが、すごく興味深い』と言って下さった。それには自分も気づかなかったので、とてもうれしかったですね」

お客さんは今や日本国内にとどまらず、中国、台湾、韓国、アメリカ、豪州、フランス、イギリスなど海外からもたくさん来る。作家目当てで来るのではなく、純粋に森岡書店のコンセプトに共鳴し、消費行動を楽しみたいから来た人がほとんどだ。

「国内外から多くの方がいらして下さるので、本当にあわただしい毎日です。今もほぼ一人でやっているので、思った以上に時間がない。インターンに来てもらったりアルバイトを頼んではいるのですが、もう少し人を増やさなくてはいけませんね。
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遠山さんは早いうちにフランチャイズ化しようとおっしゃって下さっていて、自分としてもこれから何店舗か増やしていきたい。でも、今はなかなかそこに追いついていないのが実情。まだ立ち上げて1年ですしね。多店舗展開はもちろん大事ですが、まずは今のこの店とこの仕事を、できるだけ長く続けることです。

作った本を取次経由で書店に並べ、売り上げを立てる。そして売れ残って戻ってきたものと相殺するため、また本を出す。出版にはそういう側面もあります。とりあえずその時の売り上げを立てるための本もけっこうあったりするのが実情だと思います。でも、そういった出版の仕組みのなかにも、編集者やライター、デザイナーやカメラマンがこだわり抜いた『これだ!』という作品が、必ずあるものです。僕はそういう本が良い本だと思うし、これからも取り扱っていきたい。そう思っています」

 

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作り手の強い熱を感じさせ「世に出さなきゃいけない!」という使命感を覚えるような本を、いつまでも扱い続けたい。忙しい日々の中でも、森岡さんがそのマインドをなくすことは決してない。

 

(終わり)


プロフィール
森岡 督行

森岡 督行 もりおか よしゆき

森岡書店 店主

1974年山形県出身。大学卒業後、1998年に学術書などの古書を扱う一誠堂書店に入社。2006年に独立し、茅場町に「森岡書店」を立ち上げる。2015年に現在の銀座一丁目に移転し、「1冊の本を売る書店」としてリニューアル。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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