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色味の少ない商品に色をつけ、物語を作る
テレビショッピングや店頭で、商品を実際に使いながら口上を並べる実演販売士。1日で2億円近い売上を記録したこともあり、最近はバラエティ番組にも進出しているレジェンド松下さん。彼はどのようにして、テレビ視聴者や通りがかりの人達の「買いたい気持ち」を作っているのだろう。
写真=三輪憲亮
「どんな商品を販売する時も、共通したセオリーのようなものはあります。『今までは×だった→それが○になる→自分もいろいろ試してみたけれど、どうしても××になってしまった→でも、この商品があると○○になる。さらに○○○もできる』。そんな構成にしていくと、だいたいの商品はハマります」
語るのはベテランの実演販売士で、株式会社コパ・コーポレーションの取締役であるレジェンド松下さん。
「実演販売士によって、話の印象は意外と違うものです。同じ内容でも、ある人の場合はすごく売れ、またある人の場合はぜんぜん売れなかったりする。売れる人は必ず『その人らしいしゃべり方』を持っています。大事なのは、自らの言葉で話すことです。
そして避けたいのが、ずっと同じ調子でしゃべること。説明書に書いてあることを説明しているだけではダメです。ポイントは、自分が実際に使ってみてこうだった、という部分を強調すること。感想をところどころ織り込むことで、説明書を超えることができる。その感想が『あの人がこう言っていた』という強い信頼につながっていくのです」
実演販売は主にテレビ番組、もしくは百貨店などの店頭で行われる。では番組と店頭では、アプローチはどう異なるのか。
「店舗の場合、お客さん1人から始めて最終的には40人、50人にしていきます。そのためには、最後の"オチ"まで"少しずつ引っ張る"こと。『こんな汚れで困っていませんか?』『他者の製品はこうです』とやっているうちに、お客さんは徐々に説得され、そのようすを見た他の人達がそこに加わり、人数がどんどん増えていきます。そこで『こんなに落ちるんですよ!』というオチを持ってきて、なるほど、と納得してもらいます。
店頭の場合、しゃべり自体は20分ぐらいで終わっても、そこから同じ話を繰り返してお客さんを入れ替えていきます。一度やって「はい終了!」ではなく、一度しゃべって買っていただきました、じゃあ次は後ろのお客様来てください、今買われたお客様はレジへどうぞ、というように、お客さんを新陳代謝させながら2時間、3時間と続けていく。大事なのは、お客さんを切らさないことです」
店舗での実演販売では、基本的に台本をきちんと作るのがセオリーだ。
「僕は最初、師匠についたのですが、当時は実演販売の口上を覚えることから始めました。1から10まででき上がった台本があり、それをずっとしゃべっていくわけです。それがいわゆる基本のバッティングフォーム。そこからお客さんのようすを見て、話をしながら情報を肉付けし、自分なりのフォームを作っていく。その結果、台本はどんどんボリューミーなものになっていきます。
店頭販売の場合、売れる売れないの結果はすぐに出ますので、『このしゃべりはハマらなかったから、次回はちょっと変えてみよう』といった試行錯誤をしながら、自分なりの"売れる台本"を作り上げていきます。そして商品が変わったら、以前の台本を流用して、また新たなものを作る。こうして徐々に"勝ちパターン"を練り上げていくのです。
それに対し、テレビ番組はまったく逆のアプローチをします。番組は下手をすれば何千万人が見ていますから、オチを最初に3回ぐらい一気に繰り返して見せてしまうんですね。そして『なぜかというと、こうだからです』と、その商品の魅力を語っていくやり方です。実は、初めてテレビショッピングに出た時に失敗したんですよ。敗因は、店舗のやり方から抜け切れずに、ついつい後ろに引っ張ろうとしたこと。それではダメ。引っ張って見せる店舗のやり方は、テレビでは足かせになります。
しかもテレビの場合、完璧な実演よりも完璧じゃない方がウケる。僕らが出ている番組はもともと一人しゃべりではなく、他の出演者の方々と絡むアドリブ的なノリが必要です。だから、以前はかっちりと台本を作っていましたが、今は簡単な構成を作るだけ。あとはほぼアドリブです。どう対応するかなどをしっかりとは決めず、どんなタレントさんが何人ぐらい出ているかなどを考慮し、その場で考えていく。
ただしどんなことがあるか本当にわからないので、あらゆる状況に対応できるよう頭は整理しておきます。これは、店頭で実演販売をやっていた経験があるからこそ、できることかもしれませんね」
松下さんが取締役を務めるコパ・コーポレーションは「実演販売タレントの派遣会社」と思われがちだが、実際は違う。実演販売士の派遣も行ってはいるが、それは売上の5~6%。売上のほとんどは商品の販売だ。同社の仕事は、売れる可能性のある商品を開発し、それを実演販売を通じて世の中に宣伝・販売すること。実演販売が一番の武器であることに間違いはないが、あくまでスキームに過ぎない。
「実演販売は、昔は店頭で行うのが主流でした。店頭は、その場で買ってもらえるかが勝負。でも今はテレビショッピングが中心です。テレビショッピングは多くの人にリーチできますし、どのチャネルで拾ってもいいので効果が高い。テレビショッピングで流したものをインターネットで購入してもいいし、店頭で買ってもいい。要は売れればいいわけですから、そこから考えるとテレビショッピングの方がずっと効率がいい。
ただし昔の実演販売士は一匹狼的な人が多く、長年、店頭で同じものを売って生活できていました。そのため彼らには『われわれがテレビに出る必要はない』という考えがずっとありました。でも、もはやそういう時代ではありません。そしてテレビ番組は効率がいい分、新しい商品をどんどん紹介していかねばなりません。そこでウチは実演販売士を集め、彼らを『特定の商品しか売らない人』から『どんなものでも売れる人』に変え、テレビ局が使いやすい、新たな実演販売士像を作っていったわけです」
新しい商品をどんどん紹介していくには、メーカーとのコネクションが不可欠。そこで10年ほど前から積極的にテレビ出演し、メーカーにPR先の一つとして認知してもらうよう努めた。これが奏功し、現在はさまざまなメーカーから商品が集まるようになったという。では現在、同社で販売する商品はどのようなプロセスを経て開発されているのか。
「いくつかのケースがありますが、メーカーさんから『ウチのこういうモノを実演販売で扱ってほしい』という依頼が来ることもあれば、われわれから得意ジャンルを持つメーカーさんに『こういうモノを作ってほしいのですが』とアプローチすることもあります。今は後者が多いですね。その場合の商品は、メーカーが作っているオリジナルにアレンジを加えた"準オリジナル"的なものが多いです。
楽曲に例えると、作詞作曲する人がいてプロデューサーがいるとすれば、われわれはプロデューサーに近い存在。メーカーさんの商品に対し『この部分をこう変えると、もっと売れるんじゃないか』といったアイデアを出す。そして、できたものを実際に何度も使い、さまざまなやり取りを繰り返しながら、商品化できるかどうかを判断していく。そんなイメージです。
そもそも、何もせずとも売れるモノは、わざわざウチの会社を通す必要がありません。われわれが売るのは"しゃべったら売れる商品"。逆に言えば"しゃべらないと売れにくい商品"です。つまり、それほど色味のない商品にきれいな色をつけ、物語を作る。それがわれわれの得意とするところなのです」
次回Part.2では、松下さんのキャリアとコパ・コーポレーションの商品開発のディテールについて、話を掘り下げていく。