ソーシャルを使ったアーティストブランディングは日本で成功するのか?

タケナカ テイイチ [記事一覧]

タケナカオフィス(TOJ)代表、 デジタルメディアコンテンツストラテジスト。コンテンツテクノロジービジネス開発プロデューサー。ジャズピアニスト、作家。学生時代から音楽活動を開始し、卒業後音楽学校講師を務める傍ら、演奏・制作活動を続ける。その後、渡米し、スタンフォード 大学CCRMA(コンピュータ音楽音響研究センター)で客員研究員。帰国後、ヤマハ、BMG、MTVジャパン、アットネットホーム、コロムビアと音楽コンテンツ・メディアIT企業で制作、イベントプロデュース、A&R、事業開発、そして経営ボードとして企業マネジメントを行う。 アナログからデジタルへ、フィジカルからデジタルへ音楽産業・構造が移行する中で、常に革新とレガシービジネスのバリューマッチング、新規事業開発を行う。海外ITエンタメ事業ローンチ、市場リサーチ・コンサル、マーケティングプロデュースを行う一方で、新規ビジネスグロース・プロデュースを手掛ける。 2016年3月からネット音楽ラジオ局OTTAVA取締役CEOに就任。9月からニューテクノロジービジネス開発フェロー。

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Vol.6
「オンガクの明るい未来;マーケティングは音楽を救う?」

 

さて話を音楽マーケティングに戻しましょう。こうしたデジタルで音楽をヒットさせるにはどういう手法が取られてきたのでしょうか?話を身近にするために日本にフォーカスしてみます。

音楽ソフトは承知の通りCD,DVDやブルーレイといったパッケージ商品(フィジカル)とデータとして音楽・ジャケット・歌詞などを扱うデジタル商品の2種類に分けられます。パッケージ商品はメディアショップと呼ばれるレコードや映像ソフトストア、コンビニやサービスエリアなどリアル店舗で売られる他アマゾンやHMVなどのECショップでも流通しています。

音楽ソフトを扱う店舗が減少する中でECショップの割合はさらに拡大しつつあります。そして一方でiTunesなどのデジタル配信ストアでは数千万曲という厖大な楽曲が日々世界中で売られています。

リアル店舗では実際にソフトを陳列しなくてはならないので当然そのストックには限りがあります。メガストアと 呼ばれるHMVやタワーレコードのようにジャンル別に厖大なストックを揃え、店に足を運んでそこで試聴して新しい音楽に出合い購入するこの消費行動は実は デジタルストアでも共通しています。しかもデジタルストアでは検索によって欲しい楽曲に行きつく確率は、リアル店舗よりも楽曲数が多いため当然ヒット率は 高くなります。

書籍でもデジタルストアでは、殆ど書店に並んでない本もヒットする確率が高いため、特に大型書店がない地方では圧倒的にデジタルストアが有利になりました。さらに通常リアル店舗ではデッドストックと呼ばれる商品もロングテール理論ではネット環境さえあればニッチ購入者の掘り起こし可能ということで80%の厖大なデッドストックからも確実に利益があがるということで注目されました。

音楽ソフトではJPOPにおいて特にランキング消費が顕著で、街で流行っている曲=売れ筋ということでデジタルストアでもランキングはフロントページを飾っています。日本ではオリコンチャートというランキングが市場での売れ行きを左右する(と信じられていた)ため、この集計が行われる曜日に合わせた発売など、あらゆるランキングで上位を獲得することがヒットをつくるKPI(成功指標)として使われてきました。

1曲(シングル)、アルバムとCDと同様に課金するアラカルトダウンロードでは、このやり方は有効です。CDが700万枚売れる時代から着うたも500万ダウンロードと基本的にその商品の割合が変化しただけでマーケティング行動は変化していません。

では音楽消費が全体が減少し、音楽に対する嗜好性も多様化する、そしてソーシャルによって人と人の繋がり方が、茶の間からスマホを媒介としたコミュニティに変化する中で、音楽販売の仕方も月額性(サブスクリプション)聞き放題、放送型に移行した場合のマーケティングは従来と同じでしょうか?

残念ながら日本ではまだストリーミング、サブスクリプション自体のサービスや市場が黎明期なのでこの状態でここからすぐにヒットが作れるかと聞かれればNO でしょう。ただ今までミュージシャン自身がiTunesなどで楽曲を販売する場合、ロイヤリティを受け取るための登録やアップルとの契約審査など、非常に複 雑な手続きが必要でしたが、日本でもここにきて簡単にダウンロードやストリーミングサービスで楽曲販売が出来るサービスが出て来ました。

つまりあなたが自宅で作った楽曲をPCやスマホから簡単にスポティファイGROOVYで販売することが出来るようになり、もしそこで多くの共感を得ることが出来ればヒットにつながる導線が結ばれたということです。

Facebook5900万フレンド、Twitter4000万フォロワーのレディガガ、
一方でソーシャルを使ったアーティストブランディングは日本で成功するのか?

デジタルマーケティングでのKPIは色々ありますが、YOUTUBEでの再生回数、TWITTERフォロワー数、iTunesチャートランキングなどが日本では一般的に使われます。LINE MUSICがスタートすればLINEもKPIに加わるでしょう。音楽ヒットのプロセスは通常はインディーズ→メジャーデビュー(新人)→ツアー・シングルリリース→アルバムリリース→マス宣伝ドラマCMタイアップ→ヒットを辿りますが、このサイクルでは1年以上に渡って多額の時間とカネの投資が必要となります。

数千万、時には億単位の投資をしてもヒットが出せず、最悪はリリースにも到らず、あるいはせっかく新人から売り出してもある程度売れると条件の良いところに移籍されてしまうというラガードのジレンマ(※1)ともいうべき悲しい状況が発生します。もともと日本のこの長期的なアーティスト投資のやり方は新しい欧米の短期事業経営スキームにはなじみませんでした。そのため外資系メジャーで新人を長期に渡って抱えることが難しくなりアーティストは徐々にプロダクション主導で作品制作を行うようになっていきます。

さてもう一つヒットをつくるメカニズムで重要なことは、先ほどのプロセスを循環させるシステムを一貫してコントロールできることです。すなわち企画制作からマーケティング、さらに量産シェア拡大を自前で出来れば常に安定してヒットが生み出せます。従来型で言えばこのメカニズムを支えるステークホルダーは音楽事務所、音楽出版社、音楽制作会社、流通マーケティング会社、広告代理店、イベンター、L&M企画製造販売会社などです。

アイドル系やお笑いなど地上波TVと結びついたアーティスト・タレント業界ではこうしたバリュー連携管理がしっかりと構築されています。ここでは具体的な会社名を列挙すると偏りがでると誤解を招くので割愛しますが、単純にヒットを一つ作ればそこを足がかりに、バリエーションを広げて、マスメディアからイベント、Tシャツやアーティストグッズに到るまでコントロールでき、継続的に量産できれば市場でのポジションは確固たるものになります。

こうした従来のマスメディアの中でのアーティストブランディングはもっぱらTVやライブといったメディアを中心に行われます。ここでのソーシャルマーケティングはあくまでもそうしたマスブランディングのサポート的なもので、ブログなどプッシュ型の情報発信がメインです。ソーシャルのフォロワー数もグローバルアーティストと比較すると1ケタあるいは2ケタの違いがあります。

レディー・ガガやワン・ダイレクションなどのツイートがファンをファミリーとして問いかけるのに対して、日本人のアーティストは多くがアーティストとしてファンへの語りかけです。長らく匿名性のメディアとして盛り上がりを見せていた日本のネットは、ソーシャルに移行してもアーティストとファンというコミュンケーションよりも匿名の周りの反応を強く意識したやりとりになりがちです。

ソーシャル音楽マーケティングのロールモデルとされるレディー・ガガのコミュニケーションは、Backplane
<http://www.thebackplane.com/>というソーシャルマーケティング会社により綿密かつリッチにデザインされています。

フェイスブックもツイッターも彼女のホームサイトLittleMons+er <https://littlemonsters.com/>へ集約され顧客ロイヤリティは最大化されるようにデザインされています。ここまで見ると日本でも同様に音楽レーベルがITマーケティング会社を使ってグローバルに展開が可能なように考えられますが、いくつかのハードルがあります。

 

日本でソーシャルマーケティングに特化したアーティストブランディングというのはこうした日本の背景を無視して欧米アーティストのロールモデルを押しつけても成功しないでしょう。インターナショナルブランディングがスタートである洋楽と、ドメスティックブランディングが基本である邦楽のプロモーションは予算もメディアの使い方も異なっているのは当然ですが、まだまだそれを言い訳にして自ら機会を逃しているアーティスト・レーベルも多いように思われます。

 

日本でのソーシャルマーケティングの課題

 

僕の2つの音楽メジャーレーベルでのネットマーケティングでの経験を振り返ると、情報発信がイベントやライブ、リリース告知がメインになりがちでアーティストのリアル情報がどうしても少なくなり、継続が難しいということがありました。それはレコード会社も大規模になると制作・宣伝・営業が縦割りでそこにデジタルマーケティングが付け足しのような機能になりがちでアーティストに密着して戦略を立てたり数百のアーティストをカバーするだけの人的リソースもなかったことも挙げられます。

ソーシャルメディアがリアルタイムの実名コミュニケーションであるにも関わらず、告知情報やスタッフの感想ばかりではファンはついてきません。逆にいくつかのアーティストとはダイレクトに半年1年間とコミュニケーションをディスカッションしライブ放送をストリームしたりしたときの反応は明らかに手ごたえのあるものでした。

課題は継続可能かということ、そのリソースをどこに求めるのか?BackPlaneにおけるTroyCarter(※2)のようなアーティストの信頼を得てさらにITソーシャルブランディングに精通した人材をどう確保するのか?日本ではまだまだその要件を満たすだけで自分がアーティストより注目されようという黎明期かも知れません。

 

3Dマーケティングでヒットを考える。

 

音楽はともかく沢山の人に聞いてもらう事、そして沢山の人に感動共感を獲得することがそれを作りだすアーティストを有名にし、さらに多くの作品が継続して沢山の人に届けられる、こうした基本は今も昔も変わりません。そして音楽を消費する生活者も変化しています。JPOP全盛を支えてティーンやヤングアダルトは手の届かないスターではなく身近な会いにいけるアイドルを求め、音楽は1枚3000円を出してコレクションするのではなく清涼飲料のように普段の生活に溶け込んでいます。

スマホを牽引するのもこの世代ですが、スマホを維持するのにそもそも5000円程度の月額がかかる上に別にクレジットカード登録をして有料会員になるというハードルはスマホ以前の3000円程度月額+キャリア課金という支出自体のメソッドもハードルを上げています。

 

では実際に売れている楽曲のマーケティングはどんな点が特徴的なのでしょうか?

AKB、HKT、あまちゃん、サザンオールスターズ、西野カナなどが直近ヒット上位ですが、共通要素はアイドルに関してはまずTVでの露出、そしてスマホゲームパチンコなど派生商品展開、サザン、西野は時代のアイコンとも呼べるステータスを確立しています。福山も同様でしょう。まずこれが表層的な一致点です。3Dマーケティングと書きましたが、その定義は色々ありますがここでは時間を3次元軸に考えます。
例えばマス×ソーシャル(ネット)×時間でそのポテンシャルをプロットし仮説と検証を行います。

 

さて次回はいよいよ結論です。明るいオンガクの未来~東京オリンピックに向けて

(おい!標題変わっとるやないか?)

7年後の明るいオンガクの未来。2020年の東京オリンピック開会式から見えてくる近未来とは?

 

(続く)

                                                         

ラガードのジレンマ(※1);
イノベータの対極にある新商品・サービスが市場に広く普及してから購買する、あるいはずっと購入しないグループ、ここでは他社で売れ たものに乗っかって重い腰をあげて開発するために、社内では成功パターンが見えるとリソース配分のプライオリティがあがるが、結局その先のステージを維持 することができずイノベータに取られてしまう。

TroyCarter(※2);
レディー・ガガのマネージャーであり、ガガのソーシャルメディア活用を含めたすべての戦略の仕掛け人。いま最も注目を集めるエンタメ業界の革命児と言われている。

 

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