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インターネットの力でキャラクタービジネスを底上げする

水野 和寛 みずの かずひろ さん (株)クオン CEO

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ソーシャルメディアでのスタンプ展開を中心に、IP(知的財産)ビジネスをグローバルで展開するクオン。クリエイティブとマーケティング力を兼ね備え、世界に通用するキャラクターを生み出す同社のスタンプは、これまで26億ダウンロードを達成。2019年2月には4億円の資金調達を実施し、ビジネスサイドの採用を加速させ、さらなる事業拡大を狙う。今回は同社の代表・水野和寛さんに、クオンが展開する「勝てるグローバル・マーケティング」の手法をうかがっていく。

写真=三輪憲亮


Part.4

 

■ファンさえいてくれたら、キャラクタービジネスは成り立つ

 

クオンが目指すのは、キャラクタービジネスをイノベーションすること。その中で「キャラクターを広げる」というもくろみは、facebookメッセンジャーやWhatsApp、Wechatといったグローバルプラットフォームにスタンプを提供したことで、ある程度達成できた。では次のステップとして、それをどのようにマネタイズしていくのか。

 

「キャラクターの認知を得て実感したのは、流行った後にきちんと売ってくれるプレイヤーが必要ということでした。グローバルにはいわゆるライセンスエージェントという存在がいます。自力で海外に持っていけない場合、そういった会社にキャラクターを預けて、売ってもらうわけですね。ここ2年ほどその戦略をずっと考え、韓国、香港、台湾、中国、タイなどに加え、マレーシアやインドネシアなどを回り、自分達のキャラクターが流行った瞬間に売ってくれるエージェントのネットワークを作っていました。

 

なぜエージェントが必要かというと、スピードに対応するためです。インターネットの世界では、キャラクターは一瞬でブレイクします。今日出したスタンプが明日有名になっているのが普通ですから、売り時を間違えると旬が過ぎてしまう。だから悠長に構えてはいられない。例えば現地の企業がキャラを使いたいとなったら、現地の企業にすぐ話をしに行って、案件をまとめる必要がある。そこはまだ、ITテクノロジーではイノベーションできないかなと」

 

 

 今後は「認知」を「人気」に、「知っている」を「好き」に変えていくことを目指す。スタンプから次への打ち手の一つが、それぞれのキャラクターのファンとコミュニケーションを取ることだ。クオンは現在、5つの言語で8つのキャラのソーシャルメディアを運営。合計で約100万人のフォロワーを持ち、日々コンテンツを提供。ファンと接点を作っている。そして昨年には、自らグッズ製作にも乗り出した。

 

「シュガーカブスというキャラクターはfacebookのスタンプで火がついて、中米、特にメキシコにたくさんのファンがいます。そのため、ソーシャルメディアのファンページに『グッズは作っていないのか』という問い合わせがたびたび届いていました。

 

 

僕らはこれまで、グッズはほとんど作ってきませんでした。業者さんに託してライセンス生産することはありましたが、自社ではトライしていなかった。これまで経験もないし、インターネットビジネスをやってきたこともあり、在庫を抱えたくなかったからです。そんな中、ファンの方が自作したぬいぐるみが多数ネットで流通する状況になっていたこともあり、クラウドファンディングによる公式ぬいぐるみの予約販売にトライしました。

 

 

最初は目標金額を達成できるか半信半疑だったのですが、1週間あまりで目標金額の300万円を達成。最終的にはひと月で430万円を集めることができました。ぬいぐるみ2体で1万円ですから、430人の方が賛同して下さったわけです。ほとんどがメキシコの方でした。ネットのすごさを実感しましたね。一度も行ったことのないメキシコに住む、会ったことのない人達が、僕らのキャラクターをこんなにも愛してくれている。その事実がすごく興味深かったし、インターネットの大きな可能性を痛感しました。メキシコのマーケットのことはほぼ何もわからないけれど、ファンさえいればキャラクタービジネスは成立する。その確信を得ました

 

 今後はスタンプに固執せず、例えばVチューバーやブロックチェーンなど、さまざまな領域でインターネット発のキャラクターを作っていくつもりだ。

 

「例えば、ブロックチェーン技術を利用してキャラクターを採掘するアプリケーション『CryptoCrystal(クリプトクリスタル)』を立ち上げたり、最近はTik Tok向けにキャラを作ったりと、新しいメディアや新しい技術にキャラクターをぶつける試みを続けています。

 

CryptoCrystal(クリプトクリスタル)

 

TikTok

 

実はキャラクター市場ではまだまだ、良くも悪くもインターネット以前のメディアが強い。少しずつネットに移り変わってはいますが、まだまだ時間がかかるでしょう。実際にやってみてわかったのですが、IT企業の思考はキャラクタービジネスの時間軸に合わないところがある。キャラクタービジネスは全体に動きが遅いし、浸透には時間がかかる。

例えば一つのキャラがマネタイズできるようになるまで、4〜5年かかったりする。実際にシュガーカブスがメキシコでマネタイズできるようになるまでには、5年かかりました。多くのIT企業はそこに耐えられず、つい見切ってしまう。でも大事なのは、そこで腹をくくって頑張ることなんです。それをすれば、キャラクタービジネスの新潮流に十分なり得る。例え時代が変わってメディアに変化があったとしても、それにしっかり合わせさえすれば、理屈上は負けないはずですし(笑)

 

 

 ただし明確な課題もある。その一つが著作権管理だ。

 

「そこは痛し痒しで…。大きな課題ですし、前を向いて進んでいるがゆえの失敗は、正直これまでもありました。僕らもキャラクターの著作権は細かく登録しているつもりですが、中国で先手を打たれてしまい、やむなくキャラの名前を変えたこともあります。でも、そこを恐れていると前に進めないのも確か。時には、割り切ることも必要かもしれません。

 

これはウチの話ではありませんが、中国では月1億2億の売り上げがあるパクリ商品も多く、それをあえて差し止めせず、正規品に変えさせてロイヤリティを取る形に変わってきているそうです。すべてを潰すのではなく、交渉して上手くやっていく。そんなやり方が増えていると聞いています」

 

■グローバルのキャラクタービジネスは、いい意味で疲弊することがない

 

 キャラクタービジネスは日本企業が世界で勝負できる貴重な事業領域であり、日本には明確な優位性がある。なぜなら、キャラクターを生み出すクリエイターの数、質ともに、日本は圧倒的な世界一だからだ。その確信のもと、クリエイターが最大限のクリエイティビティを発揮するための環境作りの一環として水野さんがここ数年こだわっているのが、クリエイターの正社員雇用だ。

 

もちろん外部のクリエイターさんとの取り組みもたくさんありますが、今は15人ほど雇用しています。理由は、クリエイティブのノウハウを社内に貯めたいから。同じ釜の飯を食うことで生まれるクリエイティビティもあると、僕は思っています。例えばヒットを出した人に刺激され、隣の席のクリエイターがヒットを出すような連鎖って、意外とあるものです。

 

 

そしてクリエイターさんに思い切り力を発揮してもらうためにも、こちらから細かな指示を出すことはありませんし、『絶対にこれ!』という決めつけもしません。もちろん皆ヒットを出したいし、多くの人に自分の作品を楽しんでもらいたい。
当たり前のことですが、そのためにも、プラットフォームごとにどんなスタンプがどう使われているか、というデータを示して議論し『こういうのを作ったら売れるよね』という感覚を皆で共有してもらいます。もちろんデータを無視して作るクリエイターもいますが、それはそれでいい。データをわかった上で無視しているのだし、想像できないことがたびたび起こるのもよく知っているからです。

 

またクリエイターの人達こそ、イベントなどの時は実際に海外に行って、現地のイメージをつかんでもらっています。ありがちですが、プロデューサーや営業の人が行くことは多いですが、クリエイターはそういう機会が少ない。最終的にアウトプットするクリエイターが現地を見ないと、コンテンツの質にフィードバックされないと思います。現地を実際に見て、現地の人達と接することで、つかめるものは多いはずです」

 

 今は優秀なクリエイターが日本に多数いるから、日本でキャラクターを作っている。だが、必ずしも日本でキャラクターを作ることにこだわりはない。

 

「今は戦略上、日本で作る方がいいと思うので、そうしています。クオンの現状の売り上げは海外7割で日本3割。ほとんどの社員は日本にいますが、日本向けのキャラは3割しか作っていないんです。だから、追いかけるのはグローバルのトレンドです。

 

 

仮に僕らが日本国内だけに目を向けているとしたら、さまざまなライバルと戦わなくてはいけません。日本で日本向けにやっていると、冷え込んでいくマーケットの中でのシェアの奪い合いになるので、疲弊せざるを得ない。でも海外で競争相手になるのは、今は基本的に現地企業だけ。そこではほぼ勝てます。なぜなら日本は、圧倒的なキャラクター先進国だから。つまりグローバルのキャラクタービジネスは、いい意味で疲弊することがない。

 

そして僕らは『日本発』にこだわるつもりはなく『日本の文化を世界に発信したい』というモチベーションもさほどありません。それは日本が嫌いだからじゃない。むしろ大好きです。でもビジネスを日本から世界に広げることに限定すると、どこかで自分の首を絞める気がするんです。

 

僕らが敬意を払う対象は国の文化ではなく、文化を創り出してきたクリエイターやチーム。だから、キャラクター産業を底上げできるのであれば、お願いするのは必ずしも日本のクリエイターに限らなくていい。将来的には中国や韓国のクリエイターのコンテンツを日本に持って来ることもあるでしょうし、僕らが外国人クリエイターを育てていく可能性もあるでしょう

 

 今目指しているのは、インターネットの力でキャラクタービジネスを底上げすること。クリエイター達に楽しいことを続けてもらうためにも、キャラクタービジネスをしっかりとグローバルで事業化していきたい。

 

世界の人気キャラクターの中で、インターネットから生まれたものはわずか1%に過ぎないそうです。つまり僕らの未来には、99%のマーケットが広がっている。今後、そこをひたすら取っていきます。もちろん99%すべてがインターネット発のキャラに代わるわけではないでしょう。でも、構成は間違いなくがらりと変わる。そこの半分でも取れたら、僕らはもっと大きくなれるはずです。

そもそも、クオンがやっていることにお手本は何もありません。収益構造や売上の海外比率で言えば、一般的な日本のキャラクター会社ともIT企業とも違う。いわばちょっと不思議なポジションにいるだけに、誰に何を教わることもなく、独自の方法でずっとやってきました。これからもきっとそうで、答えのない海をひたすら泳いでいくのでしょう(笑)

 

 キャラクタービジネスは今後間違いなく大きくなる。そしていつの日か、日本を代表する産業へと成長していく。水野さんは今、そんな確信めいた予感を抱いている。

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プロフィール
水野 和寛

水野 和寛 みずの かずひろ

(株)クオン CEO

1976年東京都出身。中央大学在学中に寺島情報企画にて、コンピューター雑誌「DMマガジン」の編集者としてキャリアをスタート。卒業後は同社に入社し、同社の事業シフトとともに徐々に着うた、デコメ、きせかえなど携帯サイトの企画・プロデュースを行う。
2009年には関連会社テクノードでスマートフォン向けのゲームアプリを手がけ、「Touch the Numbers」は累計1000万ダウンロード超。
2011年に独立し、クオンを設立。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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