今の時代ならでは♡ LUXのキャンペーン“Dear Me Letter”がエモい理由(わけ)
迷える女子号泣の「Lux “Dear Me Letter”」にミレニアルズ以降の日本人マインドの変遷を感じる
女性向け消費財ブランドが世相を反映し共感を得るべく展開する、“エモい”ブランドキャンペーン。こと女性消費財ブランドにおいては、ブランド戦略の中でも大きな予算を投じる重要施策として位置付けられていることが多いです。
昭和ウーマンリブをそのまま引きずって氷河期をサーバイブしてきた“ド”がつくロスジェネ世代の私としても、各社の作品が発表されるたびに号泣・鼻水ダラダラで動画を拝見していますが、本年のLUXのブランド日本上陸30周年プロジェクトの一環で展開中の“Dear Me Letter”プロジェクトがまた期待通りの“エモさ”なのでここにご紹介します。そして、“今の時代ならでは”感の発見も。
LUX は、ブランド日本上陸30周年ということで、“Shine with No Limits – 私の輝き方は、私が決める”という新たなブランドメッセージとともに、すべての女性の限りない輝きと活躍を、ブランド活動を通して盛り上げていくという。 その一環である“Dear Me Letter”プロジェクトでは、過去または未来の自分に宛てて手紙を書く、という行為を通して、自分らしく輝くための気づきを得ることを呼びかけています。
それぞれ個性的な活躍を成し遂げている著名女性による“Dear Me Letter”
コンテンツの内容は、元ミュージシャンで不遇な日々を過ごした後、「卵と乳」などの代表作を持つ作家として成功した小説家 川上 未映子さん、元AKB48メンバーでありアパレルブランドを立ち上げた経営者でもある川崎希さん、DJでありクリエイティブディレクターでもある植野 有砂さん、「女子学生にエベレスト制覇など無理だ」と揶揄されながらもそれを達成した登山家の南谷 真鈴さんと、多方面で活躍し、自分らしく輝いている女性たちが挑戦初期や迷いの只中にあった過去の自分たちに向けて、手書きのラブレターを書くというコンテンツ。
“Dear Me Letter”特設サイト
http://www.lux.co.jp/campaign/dear-me-letter/
それぞれの苦しみや打開はもちろん異なるのですが、全ての方が当時の迷える自分に「大丈夫、あなたが思っているより上手くいく、安心してほしい」という主旨のメッセージを贈っているところが非常に印象的です。
ここで気になったのが、「かつての“エモ”施策と違って、自己肯定感が自家発電されている!」ということ。
何が言いたいかというと、例えば、過去の名作“エモ”キャンペーンと対比してみます。
例えば、過去に大旋風を巻き起こしたダヴの動画キャンペーン、「リアルビューティー スケッチ −あなたは自分が思うよりもずっと美しい」キャンペーンでは、今まで頑張っていきたけれども自分を評価できない、そんな年齢的にも曲がり角を迎えている女性数名が「自分像」を非常に謙虚に、聞いていると心が痛くなるほど自虐的な評価も交えながら話ります。
その間、スケッチのプロがその女性の肖像をスケッチするのですが、その女性像の仕上がりが、彼女たち本人が述べるような“取るに足らない、欠点ばかり”な女性とは全く違う、実に生き生きとした美しい女性像であることに本人たちが驚愕するという仕立て。「自己評価よりも客観的な評価はもっと高くて素晴らしい、だから自信を持って」というメッセージを非常にドラマティックに可視化しています。
しかし、そこにあるのはあくまで「客観的評価」なんですよね。他者から見た姿が素晴らしいということが、女性の素晴らしさである。(それだけではないですが)少なくとも受け取る消費者が、なんだかんだ言って「客観的評価を受けてナンボ」と思っていることを見込んでのアウトプットだと言えます。
Dove リアルビューティー スケッチ | あなたは自分が思うよりもずっと美しい
また、それよりもうちょっと後の、これはSKⅡの「#changedestiny(運命を変えよう)」プロジェクトの動画では、日本・中国・韓国の女性たちが、それはもうAIガールズ?みたいに、腕の内側に生年月日コードのような数字が印字されていて、仕事したり夜遊びしたりするときもその年齢コードを気にしたり、ジムで男性と目があったり婚活ディナーをするときも相手男性にその「年齢コード」をチラ見さることを気にしたり。要は未婚のキャリアウーマンが日常で「結婚してないと、なんでも完璧じゃないと30歳になっちゃいけないの?」と悲しくなる瞬間などが切り取られているのです。
最後は彼女たちが決意し、年齢という足枷と決別することを決心すると腕の年齢コードが消える、という、これまた大人女子向けエモ作品なのです。
そしてここでも、フォーカスされているのが「他者評価」なんですよね。
この流れの別のシリーズで、中国の熾烈な「親が参加する」公演での婚活を、娘たちの綺麗なお写真と「私は独りでも幸せ、自由に生きたい」的なメッセージの展示が乗っ取り、親たちの理解を得るといったストーリーのものもあり、それもとても“エモ”いのですが、やはりここで「そうだよね〜…」と思うのが、「やっぱ私たち、“他者評価をひっくり返さないと”自己肯定できないのね」、という点。
SKⅡ #changedestiny
対し、2019年のLUXの“Dear Me Letter”が「いいな♡」と思ったのは、「他者評価」概念がスパッと抜けてるんですよね。そもそもが「いま頑張った貴女を○○年後の私は評価しているよ!」という、評価者=自分で完結しているのです。
新しくないですか!?
なんとうか、そこに、あんまり「くっそーこの恨み、いつか果たさん!」な他者に対する負の感情がないんですよね。正直10年前とかの“エモ”女子コンテンツには、これが沸沸と煮えたぎっていたし、それが共感を呼んだと思うのです。むしろそれがコアであることも多かったですよね。
「頑張っている私をわかってよ!」が
「うん、もう、私は私。大丈夫」になるためにどうしても
「頑張っている貴女をわかっているよ!今までわかってあげられずごめんね!」という
“他者による享受・承認”が必須だったというか。
だから、正直初見ではこの“Dear Me Letter”を見たときに、客観評価的な要素が一切ないところに一抹の「なんかコミュニケーション工程が抜けてないか?」感を感じたのですが、それは間違いだな、とすぐに思い直しました。(そしてそう思ってしまう私のその感覚がまさにロスジェネ感なんですね)
ミレニアルズ以降の女性たちは、自己肯定の自家醸成ができる精神力があるんですよね。時代がそうなっているというか、グローバルスタンダード化というのか、「私は私のままで大丈夫」というポジティブな自己肯定感が身についている世代だと思います。極端な“謙虚・謙遜”という名の“自己否定”の美徳はもう日本からなくなっていく、その途中にあるのだと思います。その感覚をいち早く察知し、長年行われてきた“エモ”施策の不動のメッセージを、今の女性に響くカタチ、すなわち、「一番評価されたい人=“自分”に肯定されること」にストレートに転換できているLUXブランドはある意味勇気があり、先進的で、やはり世界のLUXだな〜と一人ひっそり膝を叩くのでした。
自分にラブレター、古くて新しい♡
特設サイトの末尾に、なんと自分でも手書きレターが書けるオリジナル便箋のダウンロードも付いています。女性の皆様、ぜひ、一筆!
”Dear Me Letter” プロジェクト概要
開始日:2019 年 2 月 28 日
特設サイトURL:http://www.lux.co.jp/campaign/dear-me-letter/
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