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日本の圧倒的な強みは、非言語コミュニケーションである

水野 和寛 みずの かずひろ さん (株)クオン CEO

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ソーシャルメディアでのスタンプ展開を中心に、IP(知的財産)ビジネスをグローバルで展開するクオン。クリエイティブとマーケティング力を兼ね備え、世界に通用するキャラクターを生み出す同社のスタンプは、これまで26億ダウンロードを達成。2019年2月には4億円の資金調達を実施し、ビジネスサイドの採用を加速させ、さらなる事業拡大を狙う。今回は同社の代表・水野和寛さんに、クオンが展開する「勝てるグローバル・マーケティング」の手法をうかがっていく。

写真=三輪憲亮


Part.3

 

■無料も有料も関係なく、まずはたくさん作る

 

チャットアプリを断念し、キャラクタービジネスへと舵を切ったクオン。スタンプのキャラクターをグローバル展開したい、という水野さんの考えの原体験は学生時代にある。

 

「僕はもともとキャラクターが大好きというわけではありません。学生時代はテクノが好きで、コンピュータでDTM(Desk Top Music)を作っていました。その当時から、自分が作ったコンテンツを世界に向けて発信・展開していくことに興味を持っていて、海外のレーベルに曲を送ったりしていました。そんな経験からグローバル向けのコンテンツに興味があって、その後はデコメやらチャットアプリやらをやってきた結果、行き着いたのがキャラクタービジネスだった、ということです」

 

 キャラクタービジネスはさらにグローバルで成長する。不安もありながら、水野さんはその確信とともに、クオンの事業内容をキャラクタービジネスへと絞り込んでいった。

 

いわゆるキャラクタービジネスにおいて大事なのは、まずキャラを認知してもらうこと。そしてそれを育て、最後にマネタイズする。それが一般的な流れです。では最小単位のコンテンツであり、すべてがネット上で完結するスタンプはいったいどうやってキャラの認知を広げ、育てていけばいいのか。最初はそれが見えず、不安もありました。
そんな時に、すごく参考になる先輩がいらっしゃった。サンリオさんです。この5年ほど、サンリオさんのビジネスモデルをかなり研究させていただきました。

 

 

キティちゃんやマイメロディといったキャラクターは、漫画やアニメから出てきたものではありません。バックボーンのストーリーは特になく、純粋にキャラクターからスタートして、世界的に大成功した。
そこでサンリオさんを研究してみると、いろいろなことがわかりました。例えば、サンリオさんの有名なキャラクターを誰がデザインしたのかは、あまり知られていません。サンリオのキャラをデザインしたクリエイターが個人的に表に出る機会がそれほどないのは、チームでの制作を徹底しているからです。

 

もちろん、最初のデザインを作るクリエイターさんはいらっしゃるのですが、基本的に一つのキャラに対し、数名でチームを組んで作り上げていく。なぜかというとキャラクターは生き物で、時代とともに変わっていくものだから。チームを組んでいれば、そこを柔軟にキャッチアップできる。特に海外展開になると、一人のクリエイターでは到底、対応できませんからね。例えばそういった体制作りなどを参考にさせていただきました。

 

他にはグローバル展開のノウハウですね。サンリオさんの海外展開に関する考え方はすごく進んでいる。過去のグローバル展開をよく調べて研究し、海外拠点やエージェントによる販売網の作り方なども非常に勉強になりました。そしてサンリオさんのおかげで『自分達もキャラクターで世界と戦っていける』という確信を得られた気がします」

 

 

 ポイントは、キャラクターを「作ったらすぐに出す」こと。そしてダウンロード状況をデータで見て、この国ではどんなものがウケるのか、という判断をしていく。そのスピード感を何より大切にしている。

 

まずはとにかく、スタンプをたくさん作って出す。無料でも有料でも関係なく、まず大量に作る。そこから、どの国でどういったキャラクターがウケるのか、というデータを貯めていく。そしてデータを参考に再びキャラを作り、各国の市場に投入してデータを取る。それをひたすら繰り返します。

 

キャラクターが生まれる場所は、メディアの変遷とともに変わります。例えばサンリオさんはもともと雑貨店で、キャラが徐々に独り立ちして、かわいいもの、人気のあるものが生き残っていきました。
そのように、これまでのキャラクタービジネスにおける人気の測定基準は、雑貨の売り上げや映画の売り上げ、番組の視聴率など、要素が多すぎる。そのため、何のどこが刺さってどこが刺さらなかったのか、分析が難しく、人気の有無を判断する指標が、どこかふわっとしたものになっていた。

 

その点、僕らが今扱っているのは、すべてがインターネットで完結する最小単位のコンテンツ。一般的なキャラクターと比べて、指標がとてもシンプルです。どのスタンプがどこの国で、どれぐらい使われているか、数字がはっきりと出る。もちろんプラットフォームによってデータの取り方に若干の違いはありますが、どこの国でどんな動物がウケるのか、どんな色、どんな造形が流行っているのかなど、いろいろなデータが取れる。
例えばWeChatであれば、ダウンロードした人の性別、年齢、居住地域までわかります。だから分析が容易で、出た結果をすぐさま新しいキャラ作りに生かせる。

 

 

ひと昔前だったら、僕らもグローバル展開する国に行き、そこで暮らす人達が何をしているのか、何が好きなのかなどを見ながら生活を想像し、テストマーケティングをして、キャラクターを作っていたのかもしれない。でも今、僕らにその必要はない。事前にマーケットリサーチもテストマーケティングもせずに、作ったらすぐ出しちゃう(笑)。その上で、マーケットからのフィードバックを元に改良していくわけです。

 

もちろん、どういうキャラを作るか、という議論は社内でしますが、少なくとも、できたものを出さない理由はない。だからとにかく、すぐに出す。そして、どうすればヒットするかというノウハウが蓄積され、徐々に打率が上がっていく。既存のキャラクタービジネスに比べると明らかに有利というか、やりやすいのは間違いありません

 

 

■白い抽象的なキャラをかわいいと思える、リテラシーの高さ

 

 またグローバル展開に当たって、スタンプの人気に明らかな傾向などはあるのだろうか。

 

「ありますね。例えばアジア、特に日本や韓国、台湾などでは、白くて抽象化されたキャラクターが人気があります。例えば少し前にゆるキャラって流行りましたよね。あれは、いわゆるかわいいキャラの形が少し崩れて、ゆるい形になっていったものです。ああいったキャラを見て『かわいい』と思えるかどうか。その感覚を得るには、過去からの蓄積がないと難しい。

 

その点アジアの人達は『キャラクターリテラシー』がすごく高い。今までいろいろなキャラクターをたくさん見てきたからこそ、白い抽象化されたおかしなキャラであっても、かわいいと言えるわけです。例えばふなっしーを見てテンションを上げられる人は、かなりリテラシーが高い。

 

 

 

日本人がスタンプを送る時、いわゆる『ザ・キャラクター』的なものは、少し恥ずかしいと敬遠しがちです。定番のキャラを薄めて、色が徐々になくなっていった白っぽいキャラは、よく知らない人が見るとどれも似たような感じに思えます。でもそんな中で、ちょっとした表情の違いや顔の動きを楽しむような感覚が、日本やアジアの人達にはある。

 

つまりアジアの人達、特に日本人はキャラクターリテラシーにおいてかなり高度な領域にいる。その点は欧米とまったく違います。
例えば日本人は対話をしながら、表情からごく薄い感情を読み取れる。そこはオーバーリアクションな欧米人とは明確に異なる。日本を含め、アジアには相手の顔色を読み、間合いを読み、ニュアンスを理解するハイコンテキストカルチャーがあるんです。

 

それに対し、アメリカのような多民族国家ではニュアンス=リスク。言葉でなくニュアンスで伝えたことが、あとで大きな問題になったりする。だから欧米では言語がすべて。言語に対する意識はとても高い。だからこそ、最近まで絵文字が流行らなかった。

 

そのため、アメリカでウケているキャラは日本とはまったく違います。確かにアメリカでもディズニーやサンリオのキャラもポピュラーですが、ウチのスタンプでいえば人気があるのは、例えばビジネスフィッシュのような人間と同じ4頭身のキャラです。

 

また、日本向けと欧米向けの違いで大きいのはシチュエーションですね。例えば日本だとお辞儀のスタンプがよく使われます。それに対してアメリカ人は『I love you』をよく使います。これは僕の仮説なのですが、日本人がお礼や挨拶、謝罪などいろいろな状況で頭を下げるのと同じように、アメリカ人はI love youをいろいろな状況で使っているのだと思います。『愛しています』という意味以外にも、例えば同性同士の挨拶や日常のお礼のような軽い意味合いでも使うのでしょう。この文化の差は本当に面白いですね」

 

 ことキャラクタービジネスにおいて、グローバルでは欧米よりもアジアに優位性がある、と水野さんは断言する。

 

「例えばITビジネスにおいて、ほとんどのテクノロジーやイノベーションはシリコンバレーから入ってくる。それを日本の会社がモディファイしたりローカライズするのがセオリーです。それはマーケティングも同じかもしれませんね。そういった"ロジックの世界"では、欧米が圧倒的に強い。ところが、非言語コミュニケーションやキャラクターリテラシーといったロジカルとはいえない世界になると、アジアの方がずっとレベルが高い。中でも日本はダントツで一番。その次がアジア、だいぶ遅れて欧米。そんなイメージです。

 

最近は欧米でも、絵文字などのハイコンテキストカルチャーに対する関心が高まりつつありますし、最近ネットフリックスでこんまりさんこと近藤麻理恵さんが人気になっているのも、同じような傾向だと思います。そういったロジカルとはいえないコミュニケーションの領域では、アジアに圧倒的な強みがある。そして欧米の人達も、そこに関心を寄せ始めている。

 

 

ただし、この非言語コミュニケーションの領域をビジネスにしようと考える人は、日本にはまだまだ少ない。日本にはクリエイティブなキャラクターやスタンプを作る会社がたくさんありますが、それをグローバルビジネスにしようと考える会社はほぼ皆無。むしろ中国や韓国に、僕らがライバル視する会社が出てきているのが現状です」

 

 最終回となるPart.4では、クオンの今後のグローバル戦略について話を掘り下げていく。

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プロフィール
水野 和寛

水野 和寛 みずの かずひろ

(株)クオン CEO

1976年東京都出身。中央大学在学中に寺島情報企画にて、コンピューター雑誌「DMマガジン」の編集者としてキャリアをスタート。卒業後は同社に入社し、同社の事業シフトとともに徐々に着うた、デコメ、きせかえなど携帯サイトの企画・プロデュースを行う。
2009年には関連会社テクノードでスマートフォン向けのゲームアプリを手がけ、「Touch the Numbers」は累計1000万ダウンロード超。
2011年に独立し、クオンを設立。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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