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絵文字→デコメ→スタンプという正常進化
ソーシャルメディアでのスタンプ展開を中心に、IP(知的財産)ビジネスをグローバルで展開するクオン。クリエイティブとマーケティング力を兼ね備え、世界に通用するキャラクターを生み出す同社のスタンプは、これまで26億ダウンロードを達成。2019年2月には4億円の資金調達を実施し、ビジネスサイドの採用を加速させ、さらなる事業拡大を狙う。今回は同社の代表・水野和寛さんに、クオンが展開する「勝てるグローバル・マーケティング」の手法をうかがっていく。
写真=三輪憲亮
LINEやfacebookメッセンジャー、WeChatやカカオトークといったチャットアプリのコミュニケーションで使われるスタンプ。クオンは「うさぎゅーん」「ベタックマ」「シュガーカブス」といった個性的なキャラクターのスタンプを、グローバルで配信中だ。世界の主要チャットアプリすべてと提携し、無料スタンプで26億ダウンロード、有料スタンプで400万ダウンロードを達成している。
「キャラ事業の売上は65~70%が海外向けになります。向け先は韓国、中国、台湾、香港、タイなど、アジアが中心になります。そして2016年からはキャラクターのライセンスビジネスを、国内外で20社以上のパートナーさんと展開。そしてライセンスビジネスのマーケティング拠点として、タイと中国には現地法人を設立。アジアでの展開を進めています」
語るのはクオンのCEO、水野和寛さん。水野さんがクオンを設立したのは2011年のこと。当時はスマートフォンが徐々に普及し、LINEなどのメッセージアプリが出始めたころだった。
「LINEは2011年6月、日本でサービスローンチされました。その当時、スタンプ機能はありませんでした。確かベッキーさんのテレビCMを打つタイミングで、スタンプが始まったのかな。2011年の終わりごろに出て、一般に広がったのは2012から2013年にかけてのことだったと思います。
日本人はガラケー時代からすでに絵文字やデコメに慣れていて、テキスト以外のコミュニケーションが発達していました。だからスタンプに対する抵抗感はなく、すぐ爆発的にヒットしました。ベースとなる文化がすでにあったことが大きかったと思います。もちろん、文字を打つよりもスタンプを押す方が相手に早く伝わる、という利便性も大きい。
今思えば絵文字→デコメ→スタンプというのは、すごい正常進化です。日本においてはLINEさんがその進化を上手くとらえてパッケージ売りしたりと、上手くハマった印象があります。2011年当時、日本にもLINE以外のチャットアプリはいろいろありましたが、今はLINEの一人勝ち状態。スタンプがそのトリガーになったのも確かです」
そもそもLINEがローンチされた2011年当時、欧米ではやっと「EMOJI」が使われ始めたところ。ケイティ・ペリーのPVに絵文字が登場したのが2013年で、本格的なブームになったのが2015年ごろだった。日本で絵文字が流行り始めたのは2001年ごろで、欧米の人達が絵文字によるコミュニケーションの楽しさを知った時、日本人はすでにスタンプにシフトしていた。スタンプというカルチャーについては、日本そしてアジアが、世界を圧倒的にリードしているのが現状だ。
水野さんは大学在学中に出版社で、コンピュータで音楽を作る人に向けた雑誌の編集者としてキャリアをスタート。卒業後も会社にとどまり、会社の業態の変化とともに、徐々に携帯サイトの企画・プロデュースを行うようになっていった。
「11年間で100サイトぐらい作ったと思います。占いとかダイエットサイトとかいろいろやりました。当時大きな成果を上げたのはデコメサイト。2008年ごろに、日本で一番大きなサイトになりました。当時デコメだけで年間20億円ぐらい売り上げがありましたから、思えば『ガラケーよき時代』でした。当時のデコメの経験が、今につながっていると思います。
その後2009年ぐらいだったかな。今度は子会社でゲームアプリを手がけました。僕がやった中で一番ヒットしたのが『Touch the Numbers』というゲーム。1から25番までの番号を早押しして消し、誰が一番速いかを競うものです。あれは確か1000万ダウンロードぐらい行った覚えがあります」
その後、スマホの台頭によってガラケーのビジネスが落ち始めた。ガラケービジネスを支えるため会社に残るか、それとも独立してスマホで新たなグローバルビジネスを作るか。二択で考えたが、日本国内のガラケービジネスはやりきった感があった。そこで次はグローバル向けにコンテンツを作ろうと、2011年にクオンを起業。まずリリースしたのは『ラウンジ』というチャットアプリだった。
「当時はLINEが本格的に日本に入ってきたころ。カカオトークはすでに入ってきていて、僕らも意識していました。そして、ちょうど起業するかしないかぐらいの時にLINEが出た。当時は正直『カカオトークっぽいのがもう一つ出たなあ』程度の印象でしかありませんでした。でも、そこから想像以上に伸びていった。
起爆剤はおそらくテレビCMです。僕らはまったく想定していなかったですね。1円も儲かっていない段階でCMを打つのは今でこそ当たり前ですが、当時は非常に斬新でした。
日本では今でこそ、チャットアプリはLINEの一人勝ち状態。でも当時はグリーとかDeNAとか、ベンチャーが何社も出していたんです。僕らもその中の1社だったわけですが、ラウンジを立ち上げたころは、LINEと2番手3番手ぐらいは生き残るイメージがあった。実際に2年ぐらいやって、タイではLINEを抜いたりしたこともあったんです。
でもトータルでは厳しかったですね。そもそもチャットアプリは最初からマネタイズできるものじゃない。ひたすら無料で配って、ユーザー数がある程度増えないと、ビジネスもできません。だから、2年ほどやって諦めました」
チャットアプリがLINEの一人勝ち状態になったことで、水野さんはスタンプに専念する決意を固めた。
「デコメをやっていたので、スタンプには以前から着目していました。スタンプはLINEにもありましたし、もともとラウンジにもスタンプ機能は入れていましたし。そしてスタンプは、日本人以外も使うだろうことは予感していた。そこで、もしかすると日本以外のチャットアプリにもスタンプは流行るかもしれない、という気もあった。それなら、すべてのチャットアプリをスタンプという横串で刺してみよう、と思ったわけです」
次回Part.2では、facebookやWeChatという巨大プラットフォームに対するクオンの取り組みについて、話を聞いていく。