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日本の農業技術を世界へ
元ヤンインターン募集、チョウザメ養殖、メタル社歌、メタル小松菜…ユニークな取り組みで注目を集めるベジフルファーム。ここのCMOを務めるのが、ヘビーメタルバンド「オリンポス16闘神」のリーダーでギタリストの長山衛さんだ。もともとEコマースのスペシャリストでもあった長山さんが現在手がけている、さまざまな取り組みについて紹介していく。
写真=三輪憲亮
今後、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)によって、海外から安い野菜がどんどん入ってくる。だが、まったく恐れる必要はないと考えている。そして、これからに向けて考えていることの一つが、海外への輸出だ。
「TPPで入ってくるものについては、買う側が良し悪しをしっかりと判断すればいいと思います。もしも海外産がいいと思うならば、それはそれで立派な正解なので。そして僕らもこの流れを上手く利用して、農作物をどんどん海外に売っていきたいと考えています。
一過性のことかもしれませんが、日本の果物はドバイや香港ではすごく高い値段で取引されています。例えば日本ではイチゴは1パック500~600円ですが、香港では3000~4000円で買ってもらえるのだそうです。もちろん空輸する分コストがかかるのは当然ですが、その値段でも買い求める富裕層がたくさんいらっしゃるのだそうです。
その点僕らは富裕層だけにフォーカスせず、もっと一般的な方達にも食べてもらえるようなコスト感や品質を出していきたい。そしてターゲットは基本的にアジア全域ですが、今後リードタイムをもっと短くできたり、温度管理をもっと厳密にできるようになったら、欧米も視野に入れられたらと思っています」
加えて、日本の農業が持つ技術やノウハウも世界に出していきたいと考えている。実は世界的に見ても、日本の農業技術はトップクラスなのだそう。
「例えばオランダは、古くから農業大国と言われています。でも正直、日本の方がずっと上です。日本の大きな強みが、生産管理と品質の安定性。そこはぶっちぎりだと思います。例えば海外で行われる農業の展示会などに日本の果物を出すと、あまりの甘さとおいしさに驚かれます。そして、どれを食べても安定的に同じ味が出る。このすごさをもっと知ってほしいし、日本の技術を世界に出していきたい。
それと、実は今、外国人技能研修生としてベトナムの方をたくさん受け入れているんですよ。元ヤンの一方で(笑)。研修生達は日本で何年か頑張って技術を覚え、国に戻ります。その時に一緒に行って、現地に農業法人を作ることを計画しています。
今後は果物を中心に輸出を手がけつつ、海外での現地生産も行っていきたい。これは、日本の農業が今後生き延びる一つの形だと思います。今までのやり方をただなぞっているだけならば、日本の農業は間違いなく消滅します。そもそも、僕らが超若手といわれるぐらいですからね…。でも農業が廃れてしまう寂しさの一方、先人達が培った技術は本当にすごい。それを残しながら、世界に広げていきたいです」
日本の農業の大問題は何といっても就農人口の減少だ。日本で、農業を仕事にする人を増やしていく。そこには、いくつかの障壁があるという。
「定年後に農業をやってみたい、という人は確かに多くいます。でもそれ、まず無理です。だって、農業はめちゃくちゃ体力を使いますから。『でも、農家のおじいちゃんおばあちゃんはやれているでしょ?』と疑問を持つ人は多いと思います。彼らがやれているのは、昔から農業で使う筋肉を使いまくっているから。そう、慣れです。しかも農家のおじいさんと一緒にサウナに行くと、実は背筋バキバキだったり(笑)。甘く見てはいけません。
だから、30代や40代の人がやりたいと思ったら、すぐにできる環境を作ってあげたい。でも農業法人を設立するのは手間がかかるし、条件もいろいろある。個人事業主として農家はできますが、そもそも農業は初期投資が莫大。機材を買うにしても大きなお金がかかります。そこで今考えているのが、僕らが農業法人として場所や機材を提供すること。新しい働き方の一つの選択肢として、もっと多くの人に農業を選んでほしい。まずは副業として、若い人に農業を選んでもらうのもいいと思います。
あとは作業の難易度によっても変わりますが、障害を持っている方にも可能性は大いにあります。以前に知的障害のある方に働いていただいたことがありましたが、しっかりとやってくれましたし問題もありませんでした。
また以前は、うつ病を持った引きこもりの人を受け入れたことがありました。農業はどうしても外で作業しなくてはいけませんが、毎日太陽の光を浴びて土をいじっているうちに、うつが少し治ったと言ってくれました。もちろん度合いにもよるのですが、人によっては、非常に高い集中力を発揮してくれることもあります。ある意味、ヤンキーよりもずっとよかったです(笑)。そういった試みを増やして、農業を仕事にする人が増えたらいいですね」
さまざまな境遇の人達に働く場を提供し、就農人口の減少を少しでも食い止めていきたい。そのためにも長山さんはプロダクトアウトとマーケットインの感覚を行き来しながら、ユニークなアイデアを頭に巡らせ続けるのだ。
1975年1月生まれ、茨城県出身。ヘビーメタルバンド「オリンポス16闘神」のリーダー兼ギタリスト。
食品小売会社のEコマース担当を経て2008年、Eコマースのコンサルティングを手がける「ネットショップ総研」を創業(現在は顧問)。黎明期からEコマースに携わり、デザイナーとして楽天市場などで数多くの優秀賞を受賞。
2012年、株式会社ベジフルファームに参画。取締役CMOとして同社のプロモーション全般、マーケティング、ブランディング、WEB制作、チョウザメ養殖などを広範囲に担当。他にもIT企業や企画会社、運送会社など、さまざまな企業に取締役として参画中。『食品ネットショップ「10倍」売るための教科書』『マネして完成! 事業計画書』など著書多数。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです