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ヘビメタから着想を得たプロダクトアウト型マーケティング

長山 衛 ながやま まもる さん オリンポス16闘神 リーダー

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元ヤンインターン募集、チョウザメ養殖、メタル社歌、メタル小松菜…ユニークな取り組みで注目を集めるベジフルファーム。ここのCMOを務めるのが、ヘビーメタルバンド「オリンポス16闘神」のリーダーでギタリストの長山衛さんだ。もともとEコマースのスペシャリストでもあった長山さんが現在手がけている、さまざまな取り組みについて紹介していく。

写真=三輪憲亮


Part.1

 

■「農業=儲からない」というイメージを変えたい

 

ベジフルファームは、かつて暴走族の総長だった田中健二さんが「新しい農家のあり方」を模索し、創業した農業法人。ここのCMOとして経営企画、マーケティング、WEBデザインなど、プロモーション全般を手がけているのが長山衛さんだ。長山さんは同社の"歌えない社歌"『小松菜伐採』の制作と、それを浴びせて育てた「メタル小松菜」の販売、そしてチョウザメ養殖など、数々のユニークなプロジェクトを手がけてきた。それらの施策について聞く前に、まずは長山さんが考える、日本の農業の課題から語っていただく。

 

「まず僕がやりたいことが、『大変』『儲からない』というイメージがある、農家のステイタスの底上げです。『農業は儲かる』とまでは言いませんが、農業が職業選択肢の一つに入るぐらいまで持っていくことは、決して不可能ではないはずです。

 

現状よく言われているのは『農家が足りない』『後継者不足』といったことです。確かに今、就農されている方の平均年齢は60代後半ぐらい。それが現在、毎年一つずつ上がっている。つまり同じ人がずっとやっていて、新しい人がほとんど入ってきていない。そして、今やっている人達が死んでしまったら終わり。そんな状況です。

 

 

なぜ農業がそんなに人気がないのか。若手が増えないのか。理由はさまざまですが、まず『大変』『儲からない』というイメージがある。確かに自然に振り回される仕事ですし、それは大変と言えば大変。でも、じゃあまったく儲からないかというと、決してそんなことはない。メディアにはそれほど出ていませんが、農家として御殿を立てたり、しっかりと潤って生計を立てている人はそれなりにいます。でも、それがあまり認知されていないんです

 

 農業は儲からない、というイメージはなぜ生まれたのか。長山さんが考えるその理由の一つが「価格決定権を持ちにくい」ことだろう。日本では、農家が作った農産物は農協を通じて、または直接市場に出荷され、仲卸を通じて青果店やスーパーなどに販売される。この流れにおいて、農作物の価格決定権は市場が持つ。

 

 

「これはパワーバランスの問題もあって、今の日本では農家よりも農協や市場の方が力を持っています。そして農家はこれまで、農地法という昔ながらの法律に守られてきました。『いいものさえ作ってくれれば、市場や農協が売ってくれる』という考えのもと、長年やってきたわけです。

 

でも今の時代の産業の多様化から考えると、いいものを作ることなんて当たり前。農家がそれぞれ工夫して、売れる農作物を自ら考えて作っていかなくてはいけない。商品を作る側はもっと発言力を持つべきで、農作物だって本来は『メーカー希望小売価格』を設定できるはずなんです。

 

つまり、ウェブやソーシャルメディアによるプロモーションをしっかりやれば、農家が自分達のブランドを向上させ、価格決定権を取り戻すことができるのではないか。そう考えて、僕らは農業におけるマーケティング、ブランディングに取り組んできたわけです」

 

 

■うるさい親父がいるこだわりのラーメン店

 

 元ヤンインターン募集、チョウザメ養殖、メタル社歌…ベジフルファームはこれまで、多くのユニークな取り組みで注目を集めてきた。そのコンセプトには、長山さんがずっと続けてきたバンド活動から得たノウハウが多数、織り込まれている。長山さんは長年、ヘビーメタルバンド「オリンポス16闘神」のギタリストそしてリーダーとしても活動。さくら水産のテーマソングを制作しカラオケ化するなど、音楽家としてもキャリアを重ねてきた。

 

 

「バンド活動は中学2年生ぐらいから始めて、かれこれ30年ぐらいやっています。よくあるパターンですが、音楽で食べて行こうと思ったけれど挫折したタイプです(笑)。ヘビーメタルに限らず音楽って結局、いい曲を作れば売れる、という世界ではありませんからね。
個性であったりバンドという組織としてのブランドやキャラクター設定というものが関係してきますし、もちろん運の世界でもある。そもそもメタルやハードコアはメインストリームには決してなり得ない。そりゃ、そうですよね(笑)。

 

しかも経済的、商業的に大成するメタルバンドは稀です。それでもメタルをやるのは、商業目的だけでは無理です。少なくとも僕は自分がいいと思った曲に対し、みんなの共感を求めようなんてことは、さらさら思っていないわけですから。

 

つまりヘビーメタルは、マーケティング的には完全にプロダクトアウト。好きな人はよかったら聞いて下さい、というスタンスです。例えるならチェーン店のラーメンではなく、コテコテのうるさい親父がいるこだわりのラーメン店みたいなものです」

 

 

 音楽におけるメインストリームにはなり得ないヘビーメタル。そんな酔狂な音楽に長年のめり込んできたからこそ、さまざまなノウハウを得てきた。

 

「確かに、何もかもがプロダクトアウトでもダメ。マーケットインとプロダクトアウトのほどよいバランスが大事なのは間違いありません。でも振り返ると、これまで手がけてきた施策の半分は、マーケティング的には逆張りですね。共感を求めようとは思っていないし、商業的に成功しようとも思わずにやった取り組みがたくさんあります

 

 次回Part.2では長山さんのこれまでのキャリアとユニークな施策の原点について、お話をうかがっていく。

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プロフィール
長山 衛

長山 衛 ながやま まもる

オリンポス16闘神 リーダー

1975年1月生まれ、茨城県出身。ヘビーメタルバンド「オリンポス16闘神」のリーダー兼ギタリスト。
食品小売会社のEコマース担当を経て2008年、Eコマースのコンサルティングを手がける「ネットショップ総研」を創業(現在は顧問)。黎明期からEコマースに携わり、デザイナーとして楽天市場などで数多くの優秀賞を受賞。
2012年、株式会社ベジフルファームに参画。取締役CMOとして同社のプロモーション全般、マーケティング、ブランディング、WEB制作、チョウザメ養殖などを広範囲に担当。他にもIT企業や企画会社、運送会社など、さまざまな企業に取締役として参画中。『食品ネットショップ「10倍」売るための教科書』『マネして完成! 事業計画書』など著書多数。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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