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優れた商品は、自力で歩行していく
テレビショッピングや店頭で、商品を実際に使いながら口上を並べる実演販売士。1日で2億円近い売上を記録したこともあり、最近はバラエティ番組にも進出しているレジェンド松下さん。彼はどのようにして、テレビ視聴者や通りがかりの人達の「買いたい気持ち」を作っているのだろう。
写真=三輪憲亮
実演販売において、商品の魅力をどのように伝えていくか。まず大切なのは「実際に使う」ことだ。使ってみて『これはよさそうだ』となれば、そこから実演での見せ方を考えていく。
「今、主流になっているテレビショッピングは、短ければ1分。長くても3分程度です。それを知った上で、まずは商品を使い倒します。例えば先日リリースした『ミルフィーユファイバークロス』という商品。吸油力と吸水力に優れ、拭き跡が残りにくい掃除用のクロスです。この商品はマイクロファイバーとスポンジが三層になっており、汚れをきれいに拭き取ることができます。その仕組みを『ミルフィーユ』というキャッチーな言葉に例えていきました。
また、昨年リリースした『あにはからんや』というシミ抜き剤があります。これ、名前を聞いても謎ですよね(笑)。『あにはからんや』とは昔の言葉で『まったく想像もしないぐらいびっくりした』という意味です。実は大昔の実演販売士が使っていた言葉で、僕も意味をよく知らずに『面白い言葉だなあ』と思っていました。業務用の洗剤を作っているメーカーさんの商品で、ある時、何をつけても落ちなかった厄介な油性ペンのシミをきれいに落とすことができたんです。この時『まさに"あにはからんや"じゃん!』と驚かされるとともに、ネーミングに採用しました。
この商品名は、実演販売用の商品でないと決して成立しません。そもそも言葉自体が、ターゲットの感覚から遠い言葉ですから。でも、私達のアプローチはあくまで実演販売。例えばテレビショッピングで実際に話をしながら、タレントさん達に商品の素晴らしさを見てもらい、本当に驚いてもらう。びっくりするぐらい汚れが落ちた時、みんなに『あにはからんや!』と言わせる。そんな振りができるのです。
つまり、商品名からタレントさんのリアクションまで、すべてがパッケージになって成立している。実演販売が前提で、商品名をつけているわけです。モノを売るのが上手なメーカーはたくさんありますが、実演販売を前提として商品開発を行っているのは、きっとウチぐらいでしょうね」
実演販売の経験を重ねるほど「売れる」「売れない」の判断がしっかりとできるようになる。その線引きはもちろん大事だが、時として固定観念が邪魔をすることもある。例えば『パルスイクロス』というふきん。約5年前にリリースし、トータルで600万枚近くを売るヒット商品となり、テレビショッピングでは1日で1億8000万円近くを売り上げた。
「実はこの商品は、その以前にも実演販売で扱ったことがあり、当時はそれほどヒットしなかったんです。でも僕はそれを知らなくて、使ってみたらすごくよかった。これをもう一度売ってみようと考えた時、当時、社内は『今さらもう売れないだろう』という諦めムードでした。でも僕は『見せ方を工夫すればイケる』と思っていました。そして特にターゲットや用途を変えずに売ってみたところ、大ヒットしました。つまり売れなかったものでも、タイミングが変われば売れることもある。これには注意せねばなりません。
例えば若い人が『これは売れると思います』と言ったことに対して、どうしても『それ、ちょっと前に流行っちゃったんだよね』『たぶん売れないよ』などと言ってしまうことがある。そうやって頭ごなしに否定するばかりじゃなく『売れないかもしれないけれど、やってみたら?』と言って、やる選択肢を残すことが大事です。自分だけで売れる売れないを判断せず、例えば歴史をぜんぜん知らない若い社員などと一緒に商品開発を行うことを心がけています。
そして売れる商品ほど、僕の手を離れて独り歩きしていくものです。知らないところでユーチューバーが実演してくれたり、タレントさんがブログで紹介してくれたりと、何もせずとも商品が独り歩きしていく。そうなれば、しめたものです」
またコパ・コーポレーションの大きな特徴が、商品化までのスピードの速さ。最近のヒット商品である『スパイダージェル』というカビ取り剤は、メーカーによる商品の持ち込みからバラエティ番組の実演販売までわずか1週間、という異例の短さだった。
「お風呂のカビを取るカビ取り剤なのですが、業務用ボンドの製造メーカーが飛び込みで持ってきたものでした。飛び込み営業って実は珍しいのですが、使ってみるとすごく落ちる。これはいい、ということですぐに番組に乗せてみたら、2週間ぐらいで完売。今もバカ売れしています。売れると思ったら、すぐに商品化する。その速さはうちの会社のよさですね。商品化までによけいなプロセスがないことは、大きな強みです」
最終回となるPart.4では、松下さんの「今後の企み」について、話を聞いていく。