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組織の垣根は必要なものであり、超えねばならぬもの

川西 康之 かわにし やすゆき さん freee(株) 執行役員 CMO

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国内シェア1位のクラウド会計ソフトfreeeなどを展開するfreee株式会社。2012年の創業以来、着実な成長を続ける同社のCMOが川西康之さんだ。学生時代に起業し、経営者として10年あまりのキャリアを持っていた川西さんは、freeeをどう変えていこうとしているのか。そして同社の大きな強みである綿密な情報共有のノウハウと、フラットな組織を支える大切な価値基準のあり方について、話を聞いた。

写真=矢郷桃


Part.4

 

■お互いが何をしているのかわからないから、ケンカが起こる

 

 川西さんはユーザーカンパニーCOOとして、個人事業主向けビジネスを責任者として統括。今年からはCMOを兼任。会社全体のマーケティングを横断的に見る立場となった。そんな川西さんが、CMOという立場で大切にしていることは何なのか。

 

部署の垣根を超えること。それに尽きますね。社内の縦割り組織の間にある垣根を、どんどん超えていくことです。マーケティングやセールス、プロダクトといったすべての事業部が、同じように一気通貫で日々行動できているか。すべての組織がどれだけ一致団結して同じKPIを見て、同じカスタマー像を見て、日々意思決定し、行動できるか。例えばエンジニアが書く一つのコードが、マーケターが作るリスティング広告の一文と同じ意識で書かれているか。ポイントはそこです。

 

 

部署間の連携が取れなくなる大きな原因が、お互いが何をしているのか知らないこと。だから、ケンカが起きるわけです。でも、この人達は今何を大切にしていて、何を目標にしていて、どうやって組めばお互いにメリットが生まれ、ウィンウィンの関係になるのか。それさえわかっていれば、いい大人同士です。いくらでも上手くやれるはず」

 

 ではどんな工夫をすれば、部署間の情報共有がスムーズに行えるようになるのか。freeeにおける情報共有のポイントは、大きく分けて2つあるという。

 

「まず、ウチが今活用しているのが、Googleで使われているマネジメントツールOKRです。難易度の高い目標に対し、進捗状況を確認するための手法ですね。OKR、すなわち『目標と成果指標(Objectives and Key Results)』を全社的に共有し、例えばこの事業部やチームはこの四半期において、何を目指し、どんな結果を求めているのか。それがオープンに公開されています。

 

 

2つめが、毎週必ず行われる全社共有会です。東京本社の社員全員が集まり、全国にある支社のメンバーとネットワークでつなぎ、ビデオ会議ツールで全国の各拠点にも内容を中継します。その会議では今、会社でどんなことが起きていて、事業の進捗状況はこうです、ということを、課題も含めてとにかくひたすら伝え続けます。それによって、今はどのチームが好調で、どのチームはこういう状況、ということが、例え何となくであっても見えてくる。

 

そこで共通言語として生きてくるのが、前回お話した5つの価値基準です。500人超の社員規模になると、まったく会話したことのない人もたくさんいます。彼らのバックグラウンドはバラバラ、入社年度も異なりますし年齢も違う。考え方もさまざま。でも共通言語があるので『いや、そこは理想ドリブンでしょう』『それってマジ価値じゃないですよね』というように会話できるのは大きいです」

 

 縦割り構造オンリーから脱却し、垣根を超えて横の連携を強める。そのための組織の接着剤がCMOの役割である、と考えている。

 

 

「横の連携については、私が自ら『この部署がこのことについて困っていたよ』『この組織でこれをやって上手くいってたよ』『それってこの部署と一緒に予算を出し合った方がスケール感出るよ』というように、自らこまめに情報共有することが大事だと思っています。結局、お客さんにとって組織なんてどうでもいいこと。『マジ価値』を実現するために、いかにして組織や役割を超えていくか。まだまだ道半ばですが、大事なのはそこです。

 

ただし注意しなくてはいけないのが、垣根とは日々の事業活動においては重要なものでもある、ということ。なぜなら、組織間の垣根が何もなければ、人はどう動けばいいのかわからなくなってしまうから。『あなたの役割はこれで、ここを目指さなきゃいけません』という示唆がなければ、多くの人は動けないものです。つまりパラドキシカルなことなのですが、垣根は存在しなくてはいけないものであり、超えなきゃいけないものでもある。そもそも、存在しないものは超えられませんからね。垣根があることを知りつつ、それを超えていくことが大事なんです」

 

■クラウド型ERPの社会的価値は、さらに見直されていく

 

 クラウド会計ソフトとして現在シェア1位を誇り、着実な成長を続けるfreeeは今後、どのような展開を模索していくのか。

 

 

「個人事業主向けには、引き続きモバイルがキーワードになると思います。まだまだパソコンで確定申告をしている方が圧倒的に多いですし、もっと言えばまだ手作業で行っている人もかなりいらっしゃります。そこは絶対にfreeeを使う方が速い。そして今後は電子申請まで含めて、確定申告をスマートフォンで完結できるようにしたいですね。

 

ウチは個人事業主向けからスタートして、だんだんと中小の法人そして上場企業までビジネスを広げてきました。弊社のプロダクトは今、より大きな会社の方にも使っていただけるように進化発展しています。もちろんセグメントごとにさまざまな施策を考えているのですが、今後はその方向性をさらに強めていくことになると思います。そして全社的なマーケティングの責任者としては、このターゲットの拡大という方向性を、どう全社最適化させていくかを考えることが仕事だと思っています。

 

全体戦略をマクロで見ると、少子高齢化に伴う生産性の向上は、働き方改革という言葉に象徴されるように、今後の大きなキーワード。バックオフィスにしっかり投資し、業務効率化を図っていく会社が勝つはずです。マクロで見ると会社は徐々に小さくなり、事業が代替わりしていきます。例えば創業数十年の会社が若い経営者に切り替わっていくタイミングで、基幹となる会計や人事労務のソフトウェアを替えようとなった時、確実に選ばれる存在になっていたい。そこを取らなければ成長はない。今後、日本でマーケットは大きくならないわけですから。

 

 

そしてミクロでは、今は元号の変更と消費税の改定を控えています。会計サービスをクラウドで提供する弊社にとっては、非常に重要な業務です。今後、クラウド型ERP(Enterprise Resource Planning=基幹系情報システム)の社会的価値は、さらに見直されていくと思います。この元号と消費税率の変更は、本物のクラウドサービスとはどういうもので、いかに有効なのかを、より多くの方に知っていただくチャンス。パッケージ型の会計ソフトとの違いをより多くの方に知っていただく、大きな機会となるはずです」

 

 会計ソフトや人事労務ソフトをクラウドで提供することにより、会社経営のあり方や働き方を変えていく。それが、freeeが描くストーリー。その中心で、かつて起業家だった異色のキャリアを生かし、日本企業の働き方を変え、この国に一人でも多くのチャレンジャーが誕生する手助けをする。それが川西さんの大きな望みだ。

 

 

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プロフィール
川西 康之

川西 康之 かわにし やすゆき

freee(株) 執行役員 CMO

1983年富山県生まれ。東京大学在学中に友人とウェブマーケティング会社を起業。並行して他社取締役としての業務や一般社団法人の設立・運営なども行い、10年以上にわたって経営に従事。
20165月よりfreeeに参画し、個人事業主向け事業とともに、全社のマーケティング戦略を統括。2018年1月、CMOに就任。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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