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シンプルで明確なパーパスを持ち、社会を変えていく

Justin Lee じゃすてぃん りー さん エスエムオー(株) パーパスマネジメントコンサルタント

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今回お話をうかがうのは、近年、米国を中心にニーズが高まっている「パーパス・ドリブン・マネジメント」の専門家・ジャスティン・リーさんである。昨今、新たな概念として少しずつ日本にも浸透しつつあるのが「パーパス」という概念。今回はリーさんが日本のコンサルティングカンパニーSMOで啓蒙を行っている「パーパス・ドリブン・ブランディング」について、実際の導入事例も含めて紹介していく。

写真=三輪憲亮


Part.2

 

■"ミッション・ビジョン経営"から"パーパス経営"へ

 

リーさんが提案する「パーパス・ドリブン・ブランディング」において問われることは「これをやりたい」「こうありたい、あるべきだ」ではなく「私達は、何のために存在しているのか」だ。そして「パーパス」は社外に示していくものでありつつ、社内に向けたメッセージでもある。

 

日本の多くの企業やブランドは、ビジネスで成功するためには理念や価値観が重要であることを知っています。でも実際には、理念に基づいて経営戦略を作り、ブランド価値を高めることがまだまだできていない。

 

それに対し世界の優れた企業やブランドは、一貫した考えのもとで経営戦略から販売戦略、商品コンセプトを設計しています。なぜ、それができているか。その答えの一つとして、自らの存在理由=パーパスを明確にしていることがあります。なぜなら、今の若い人の心に響くのは、企業の『ビジョン』や『ミッション』ではなく、パーパスであるからです」

 

日本の多くの企業が掲げる「ビジョン」や「ミッション」。「パーパス」はそれらと何が異なるのだろう。

 

パーパスは、ビジョンやミッションの根幹ある概念です。ビジョンは、組織の『何年か後にこうありたい』という未来像のこと。長期スパンでビジネスを見通した上で作成されることがほとんどです。そしてミッションは、その組織のビジネスが今どこにあり、何を目指しているのかを表し、ビジョンを具体化したものに近い。

 

 

それに対してパーパスは、社員やスタッフによりよい仕事をしてもらうために、組織が顧客に対して何ができるのかを、明確に表したものです。これからの企業は、きちんとパーパスを示さねばならない。なぜなら成熟社会においては、たくさんのライバル企業がいる中で違いを見せることで、生き残りを目指していくからです。

 

簡単に言うと、ミッションやビジョンは少々ビジネスライク。固いですよね。だから若い人や子供には、やや理解しにくい。それに対しパーパスは、誰にでもわかるシンプルな言葉で表します。そして時間軸で考えると、ミッションやビジョンが未来のことであるのに対し、パーパスは現在のことです。
世の中には情報がたくさんあふれている中で、人はどんどん、よりシンプルなものを求めるようになった。そして不透明な時代の中、明日何があるかわからない。大きな災害があるかもしれないし、事件に巻き込まれるかもしれない。だから、大切なのはよく見えない未来よりも今。特に若い人ほど、今を大切に考える傾向が強い

 

そしてたくさんの情報がある中で、人はわかりやすいもの、シンプルなものにひかれていきます。製品でいえば、iPhoneのユーザビリティが典型ですよね。そして若い人ほど、パーパスというシンプルな概念に共感しやすい。そのことに気づいたグローバル企業は今、経営のフレームワークを変えつつある。これまでの"ミッション経営""ビジョン経営"から"パーパス経営"へとシフトしているのです」

 

■ミレニアル世代は『なぜ、これをするのか』が見えないと動かない

 

ミッション・ビジョン経営からパーパス経営へ。
その考え方のシフトチェンジの背景には、ミレニアル世代(2000年代に成人あるいは社会人になる世代。1980年代から2000年代初頭までに生まれた人。ベビーブーマーの子世代にあたるY世代やデジタルネイティブとも呼ばれ、インターネットが普及した環境で育った最初の世代。多様な価値観を受け入れ、仲間とのつながりを大切にするといわれる)の出現がある。

例えばPart.1で紹介したマーク・ザッカーバーグの演説を聞いているハーバード大の卒業生はミレニアル世代である。なぜ今、パーパスなのか。その答えを理解するためには今後、今、消費者の中心となりつつある彼らの考え方を知る必要がある。

 

今の若い人は常に『なぜ、これをするのか=パーパス』がはっきりしていないと、動きません。そして、いくらやっても何も変わらないような仕事では、今の若い人は続ける意味がないと感じてしまう。これは日本でも欧米でも、先進国に共通する現象です。

 

時代が成熟していく中で、人間の欲求は変わっていきます。マズローの欲求階段(人間の欲求を5段階のピラミッド型の階段で表したもの。第一階層は「生理的欲求」、第二階層は「安全欲求」、第三階層は「社会的欲求」、第四階層は「尊厳欲求(承認欲求)」、第五階層が「自己実現欲求」)でわかるように、人間は衣食住に困らなくなれば仲間がほしくなり、彼らから認めてほしくなり、自己実現を目指します。成熟した先進国に暮らす人達は今、そのような状況を迎えている

 

 

そんな社会の中、『ミレニアル世代』は皆、『自らのパーパスを見つけねばならない』と考えています。一人一人が社会という共同体の一部であることを自覚し、必要とされ、その思いに応えるために日々頑張ることが、本当の幸せをもたらすと考えています

 

実はほんの少し前まで、多くの人の考えは違った。例えば昔のシリコンバレーの企業は、みんな、早く成長してよりお金を稼ぐことばかりを考えていた。でもリーマンショックなどにより、ただ利益だけを追い求めることの虚しさに気づいてしまった。

 

今のシリコンバレーの企業家達は、お金を得たいというより『世の中を変えていきたい』と考えています。例えばAirBnBはしっかりとしたパーパスに基づいてビジネスを拡大していますし、Uberはライドシェアという新しい概念を生み出しました。Uberの競合のLyftはしっかりした方向性を持っていますよね。
そしてTeslaのイーロン・マスクも、すごく高い志を持っている。みんな、どうやって今の社会をよりよく変えていくかを考えている。そして、そこに企業の価値がある。だからこそ、ビジョンやミッションに加えてパーパスを考える。ビジョンとミッションに『Why=なぜ』を加えることで、"グッドカンパニー"は"グレートカンパニー"になるのです。

 

実際、今のアメリカのベンチャー企業は、起業したばかり3~4人ぐらいの段階でパーパスを考えます。面倒な作業ですから、ついつい後回しにしてしまうこともある。でも、本当に大事なことです。

 

そして、パーパスは時代に合わせて変化する。一度決めたら永遠、ではなく、どんどん変えて構わない。なぜなら時代によって、組織の強みは変わるから。例えばアスリートも、年を取ったら引退して、コーチ側にシフトしていきますよね。それと同じです。一度作れば終わりではなく、時代の流れに応じて表現の仕方を変えていい。なぜなら今の時代、組織は常に進化し続けねばならないから。そして時代に応じて進化し続けるためには、パーパスはシンプルであることが大事。複雑なものだと、変えにくいですからね。シンプルであればあるほど、時代の動きにより早く対応できるのです」

 

次回Part.3では、経営にパーパスの概念を持ち込んだ企業の実例を紹介していく。

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プロフィール
Justin Lee

Justin Lee じゃすてぃん りー

エスエムオー(株) パーパスマネジメントコンサルタント

エスエムオー株式会社パーパスマネジメントコンサルタント。1978年台湾生まれ。カリフォルニア大学バークレー校卒業(在学中に一橋大学に留学)後、シリコンバレーのベンチャーにてマーケティング効果測定サービスを担当後、日本のプライスウォーターハウスクーパースにコンサルタントとして勤務。ブランディング及びマーケティング、海外市場参入戦略を担当。
2012年ロサンゼルスに戻り、パーパス主導企業になるノウハウを伝えるため米国ではThe Purpose Project, Inc.を設立。ビジネスとマーケティングにおけるパーパスの重要性について定期的に講演を行う一方、企業や組織のパーパスを見つけ、ムーブメントを起こす活動を支援。英語、日本語、中国語が堪能。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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