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今までにない価値が生まれる「場」を作る

内沼 晋太郎 うちぬま しんたろう さん NUMABOOKS 代表

Part.4

 

■本と生活の間には、実はいろいろな道具が存在している。

選書や書店作りの他にも、内沼さんはさまざまなプロジェクトを手がけている。代表的なものが、ディスクユニオンとともに作った読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC(ビブリオフィリック)。このプロジェクトは、ディスクユニオンの広畑雅彦社長とのブレストがヒントになって生まれた。

 

Bibliophilic 3
BIBLIOPHILIC Webサイト(http://diskunion.net/bibliophilic/

 

「広畑社長との出会いは、ディスクユニオンさんが世界最大級のジャズ専門館『diskunion Jazz TOKYO』を作る時に、本の売り場のディレクションをご依頼いただいたことがきっかけでした。その後『bookunion』の立ち上げも行い、ひと段落したある時、広畑さんと『音楽には例えばレコード袋やCDクリーナー、レコードプレイヤー用の針などの"道具"があるけれど、読書にはそういったものはないのだろうか?』という話になったんです。

 

ディスクユニオンさんは既に『ディスクユニオン新宿CD・レコードアクセサリー館』という専門店をやられていたので、それがイメージにあったのだと思います。ただ、本に同じような市場があるかというと、まだない。音楽はプレイヤーによって、ソフトを楽しむのが一般的ですが、紙の本に再生するプレイヤーはなく、最初からそれ自体がソフトでありプレイヤーです。だからそうした、プレイヤーとソフトの間に介在するような、こだわりだすと必須になってくるようなタイプの道具はない。でもよく考えると、例えばブックカバーやブックスタンド、本棚といったように、本と人との間、本のある生活の間には、既にいろいろなアイテムが存在しています

 

ただしそれらはバラバラで、まとまってはいません。例えばブックカバーは、カバンやポーチなどの延長でアパレルや雑貨屋などで売られているものもあれば、手帳カバーなどの延長で文具店で売られているものもある。一方、本棚は、家具としてインテリアショップなどで売られている。それぞれ、属しているカテゴリーが違います。でも、それを本の道具=読書用品という切り口でまとめて考えることができるのではないか。それが、広畑社長と僕のブレストで出てきたことでした。

 

とはいえ、いまはまだ存在しないカテゴリーをつくるわけです。『読書用品店に行こう』と考える人はいない。ただまとめて取り扱うだけではだめで、ひとつのブランドとしてきちんと存在感を出して、カテゴリーごと認知を高めていかなければいけないと考えました。」

 

bibliofilicまとめ
左上:マスクマンをイメージしたマスク型ブックカバー「BOOK MASK」、左下:BOOK MASKとカモフラージュ柄ブックカバー、右上:スエードブックカバー、右中:文庫や単行本がピッタリ入るブックコンテナ、右下:ブックコンテナ・ハーフサイズ

 

 

同時に「書店に自信を持って提案できる副商材を開発したい」という気持ちもあった。

「今、本以外の商材を扱う書店も増えています。しかし、何でもかんでも売ればいいのではない。本の周辺にある雑貨や文具が、一番親和性が高いわけです。でも、ポリシーを持って作った質の高いアイテムをまとめて取り扱い、書店に副商材として提案している会社はありませんでした。例えばブックカバーなども、書店のレジ横に何となく売られているものは確かにある。でも正直ノベルティのようなレベルで、クオリティは高くない。『これしかないなら、まあ、これでもいいかな』というレベルのものです。

 

しかし、読書というのはもはや、限られた人の趣味になっています。「形から入る」という言葉がありますが、たとえば実際はヘビーユーザー向けに作られた本格派の商品でも、『あのテント、カッコいいな』とモノが入口になって、それを買うことをきっかけにキャンプが趣味になっていく人がいる。それと同じように、本好きも納得し、かつ『あのブックカバーがかわいい、欲しい』と思ってもらえるようなクオリティの高いプロダクトをつくれば、それまで本を読む習慣がなかった人に文庫本を手に取ってもらえるきっかけになるかもしれない。ひとつのブックカバーがヒットすることが、読書人口を増やすことだってあるかもしれない。そう考えました。

 

前回も言いましたが、書店というビジネスは今、非常に厳しくなっています。そのため、書店にきちんと卸ができ、利益率の高い商品ができればいいなと、かねてから思っていました。広畑社長と行ったブレストとその思いが、上手くつながった面もあります」

 

★店内画像2015
BIBLIOPHILIC&bookunion新宿(東京都新宿区新宿3-17-5 カワセビル3F TEL:03-5312-2635)

 

 

■リアルな「場」に集まった人達のつながりが、新たな価値へと変わる。

 

 また、昨年横浜市にオープンしたシェアスペース「BUKATSUDO」。ここには会員制のワークラウンジや「部室」と呼ばれるメンバーの活動場所、時間貸しのキッチンやスタジオ、ホールなどを備え、大人が日常を豊かなものにするための「部活」が展開される。内沼さんはこの場所のクリエイティブディレクションや、講座の企画立案などを手がけている。

 

BUKATSUDO1F
BUKATSUDO Webサイト(http://www.bukatsu-do.jp/

 

 

「例えば一般的なカルチャースクールにもさまざまな講座がありますが、全~回という講座が終わったら、それで解散です。でも、受講生は近しい関心を持ち、同じ講座で、同じことを学んでいる。なにか活動をはじめるなら、一緒にやったほうがいいことがあるわけです。ここではそれを『部活』と呼び、ここを拠点に活動を続けたい人は、それを登録したり、『部室』を借りることができる仕組みになっています。つまり習い終わったことがゴールではなく、スタートになるわけです。

 

メーカーなどの企業もこの場所に興味を持っています。企業が『部室』を借りて特定の『部活』を立ち上げ、それに興味を持つ一般の人たちに自由な活動の場を与える。つまり『部活』に企業が協賛する形で、新たなコミュニティや、それに付随するコンテンツを生み出していこうというわけです。このように一般の方の活動に企業が協賛し、それが場所という形で可視化されるケースは、これまでほとんどなかったと思います。

 

シェアスペースという場を介してたくさんの人が集まり、その人達がリアルな場とネットの両方でつながっていく。そしてそれを企業対個人のビジネスへと結びつけるのではなく、集まった人同士のつながりを新たな価値へと変えていく。それはまだ、誰にもできていないことです。きっと今後、そういったケースがいろいろと生まれるでしょう。その流れを、非常に興味深く見ています」

 

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現在、多くの企業がブランドイメージの構築、そして、いかにして自分達の考えを世間に向けて発信し、浸透させていくかに苦心している。今後育っていくであろう「部活」を企業と結びつけることで、斬新なアイデア、イノベーションが生まれる可能性も大いにある。

 

多くの企業が、ウェブサイトとSNSで情報を届けるだけでなく、実際に人が集まる『場』といかに連携するかを考えています。自前のウェブメディアとリアルな場の相互関係を作りながら、ブランディング、マーケティング、プロモーションを仕掛けていこう、という方向性です。

 

ブランディングという考え方は、基本的にはマスメディアの時代に作られたもの。ブランドイメージ構築のための情報発信は、基本的に一方通行のメディアを前提に考えられたことを元に行われてきました。だからインターネットで誰でも情報を発信できるようになり、新たなSNSが流行しては消えていくいま、ブランディングの手法も同時に変わり続けています。まだ、体系化される段階ではない。これからもさまざまなサービスが生まれ、それに合わせたさまざまなやり方がこれからも生まれていくと思います。

 

インターネットは匿名性が高いので、人の根深い欲望にはタッチしやすい。それに対してリアルな場には、そういった欲望は出てこない。まともな人が集まるほど、そこからはそうした欲望の生々しさが削がれるので、インターネットと比べるとほどほどに落ち着いた、いい感じの場所にはなりやすい。でもそこでは、人が心の中で本当は何を思っているのかまでは、わからない。しかし、多くの人が実際に電車やクルマに乗ってわざわざそのリアルな場所に来る、という事実がもたらす力が、果てしなく大きなものになり得るのも確か。

 

要はインターネットとリアルな場はどちらも非常に大切で、相互補完し合う関係のもの。僕はその"つなぎ目"であったり、もう少し""に近いリアルな場作りという視点から、面白いものを生み出していけたらと思っています

 

現在は他にも、都内に今秋完成予定の大型書店のクリエイティブディレクションや、「本のまち八戸」を目指して青森県八戸市と取り組む「八戸ブックセンター()」事業などにも携わる。
本屋B&Bの立ち上げで培った魅力ある場作りのノウハウを携え、内沼さんは活動の領域を着実に広げつつある。

 

(終わり)


プロフィール
内沼 晋太郎

内沼 晋太郎 うちぬま しんたろう

NUMABOOKS 代表

ブック・コーディネーター/クリエイティブ・ディレクター。
1980年生まれ。一橋大商学部卒業後、企業勤務を経て東京・千駄木の「往来堂書店」に勤務。
2003年、本と人の出会いをプロデュースする「ブックピックオーケストラ」代表となる。
’06に自身のレーベル「numabooks」を設立。
2011年には読書用ブランド「BIBLIOPHILIC」のプロジェクトメンバーとして立ち上げに携わり、’12年には博報堂ケトルとの協業で、下北沢に「本屋B&B」を開業。
他にも数々の本にまつわる企画や、横浜のシェアスペース「BUKATSUDO」などのクリエイティブ・ディレクションを手がけている。著書に『本の逆襲』(朝日出版社)など。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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