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この働き方がメジャーになれば、きっと仕組みはついてくる

小島 英揮 おじま ひでき さん パラレルマーケター、エバンジェリスト


日本最大規模のクラウドユーザーコミュニティ「JAWS-UG」の設計者であり、コミュニティマーケティングを考える「CMC_Meetup」の発起人である小島英揮さん。かつてAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)の日本国内マーケティングを統括。現在はABEJAのマーケティングディレクター、Stripe Japanのエバンジェリスト、ヌーラボの非業務執行取締役、MOONGIFTでのコミュニティアドバイザーなど、コミュニティマーケティングを軸としたパラレルキャリアを実践する。
今回はマスマーケティングの先にあるコミュニティマーケティングという考え方、そして小島さんが実践するパラレルキャリアという二つのテーマで話をうかがった。

写真=三輪憲亮


Part.4

 

■"中のヒト"として働くからこそ、良質なフィードバックを得られる

 

 小島さんは2016年にAWSを退職。2017年より、国内外のさまざまなスタートアップでパラレルキャリアをスタートさせた。

 

「フリーの身になった時に考えていたのが、クラウドというエコシステムの次に来る大きな流れの中で、インプットとアウトプットを増やし、マーケティングのスキルを上げたいということ。そして、それをパラレルキャリアで行っていきたい、ということでした。

 

具体的にはオンライン決済や、AI、コラボレーションの分野などで、それぞれの会社の名刺を持って活動しています。どの会社も何曜日の何時から何時まで出勤というような、固定的なルールはなく、顔合わせが必要なミーティングがある時に都度、その会社に行くというスタイルです。もちろん、出先から電話やWebミーティングの場合もありますし、クライアントに直接出かけることもあるので、特定のオフィスに長くいるということは少ないですね。出勤について、曜日の取り決めやタイムカードはありません。ですが、オフラインで会うということも重要なので、福岡が本社のヌーラボの場合は、福岡にも行くようにしています。」

 

 もちろん『さまざまな会社に同時に勤めて、仕事は本当に回るのか?』と、聞かれることは多いようだ。

 

 

「意外と回りますよ(笑)。実は今の状態って、昔とそれほど変わっていないんですね。AWS時代も複数のイベントをやり、個々の製品のローンチやキャンペーンがあり、コミュニティの活動があり、とすべてパラレルで、それぞれステークホルダーも別でした。
だから、自分の中ではあまり変わっていない。しかも今は、例えばコミュニティマーケティングのように、自分の能力が認められているエリアに仕事が寄っており、類似性も高い。だから意外なほど、しっちゃかめっちゃかにはなっていません」

 

 小島さんはいずれの会社でも、基本的に"中のヒト"として活動する。だからこそ、得られるものが多くあるという。

 

名刺を渡せば、会った人は私を"その会社の人"と考えます。そして私自身も"中のヒト"の気持ちで働く。だからこそ、良質なフィードバックを得られるのです。これがすごく大事なことなんですね。コンサルタントとしてその会社に行っても、結局、得られるものが少なく、面白くない。

 

“外のヒト"やアドバイザーは、書けとか作れとかアウトプットを多く求められますが、そのフィードバックがちゃんと戻ってこないことが多い。そうじゃなく、もっと"反応がほしい"じゃないですか。やってみた結果はどうだったか、どこがよかったのか、それともダメだったのか。ユーザーが何に反応したのか、などを社内のデータでしっかりと見て、検証したい。それができれば、次はさらにいいソリューションを作れるかもしれません。そして、中にいるからこそ自分ゴト化できるし、その分、責任も重くなります

 

 

正直コンテンツやメッセージ作りは、経営やビジネスの現場が見える所にいないと難しいと思います。例えば広告を外注制作する時、難しいのは、発注側と制作側が「一心同体」になりづらいこと。もともと社内に制作能力がないから外注するわけですが、"外のヒト"には『なぜその商品を売りたいのか』という本当の理由、そして会社の経営課題が見えないことが多い。その結果、生み出されたアウトプットを見ても人の心が揺さぶられることはなく、コンバージョンに結びつかない。そんな傾向があるように思います」

 

 実際は社会保険制度などを考慮し、小島さんはStill Day One合同会社の代表社員として、各社と契約する形を取っている。

 

『それって要はフリーランスじゃないの?』という指摘もありますが、マインドがまったく違って、私は複数の会社に勤めていると考えています。そもそも自分の会社の名刺を使うことはありませんし、決して起業したいわけでも、社長になりたいわけでもない。複数の会社で働くための合理的な方法として、自分の会社という"器"が必要だから一応持っている、ということです。
理由は、社会保険制度がそのようになっていないから。複数の会社で正社員として働き、時間や給与に応じて彼らが私の保険料などを分担するようなことはできません。『ある1社が雇用主にならなきゃいけない』というのは、いわゆる正業/副業の考え方で、古い。でも今後、この働き方がメジャーになれば、きっと仕組みはついてくる。だから、まずはやってみることだと思います」

 

 

■つまり「タレントをシェアする」ということ

 

 特にどんな仕事が、パラレルキャリアに向いているのか。小島さんは「専門性の高い職種ほど適している」と語る。

 

「専門分野の人材をフルタイムで抱えることができない場合もあるわけです。例えばPRをアウトソースしている会社。彼らは広報を抱えきれない。でも、その重要性は理解している。パラレルキャリアであればPRマンは、その企業の広報として名刺を持ちつつ、他の会社でもPRの仕事ができる。

 

要は人材(タレント)のシェアリングですよね。そもそも専門知識を持ってるエキスパートが自体が少ない。それならばいろいろな会社で人材をシェアすればいいし、会社にとってもリスクヘッジになる。専門知識を持つ人の流動性が高いほど、多くの会社がその人の持ってるタレントを利用しやすくなる

 

 

だから、こういう働き方は今後さらに増えていくと思いますね。
1社のためにやってほしい、と言われてフルタイムの社員になる場合、なるべく以前の会社と同じ待遇がほしい。でも給与体系は会社によってさまざま。その点パラレルキャリアならば、必ずしも1社が払える額にこだわる必要はない。上手くやれば、非常にお互いにリーズナブルなやり方かもしれない

 

また、基本的に契約関係ですから、受け入れ側が満足しなければ解除も可能です。これもまた、フルタイムの雇用では難しいこと。パラレルマーケター側としては、1カテゴリー1社の原則をちゃんと守るなど、会社との強い信頼関係を築く。その上で2社より3社、3社より4社ぐらいで働けば、リスクヘッジになりやすい。マクロ視点で見ればフルタイム雇用が減るリスクはありますが、多くの企業にメリットがありますし、新たな働き方になるはずです」

 

 では受け入れる側は、パラレルキャリアをどのように評価していけばいいのだろうか。

 

「まず前提として、いろんなツールがクラウド化され、マルチアカウントでの利用も簡単になってきました。それにより時間と場所を選ばずに仕事ができるようになったことで、パラレルキャリアが実現しやすい環境ができてきました。

 

イベントに参加のため、フェリーで移動中の仕事風景

 

先ほども言いましたが、私にとってこの状態は、AWS時代とさほど変わらない。でも受け入れる側にとっては初めての雇用形態。チャレンジするのはむしろ企業側なんです。

 

課題は、受け入れ側の期待値コントロールだと思います。彼らからすると、パラレルマーケターがよそで何をしているのかが見えづらい。だから、社内で『あの人は何をやっているんだろう?』みたいな疑問が生まれてしまったら、厳しいですよね。事情をよく知っている人しかいない会社であるなら、いいんです。でも組織が大きくなると、たまにふらりと来て、何となくデスクワークや打ち合わせをして帰っていく人に対し、理解を求めるのは厳しいかもしれない。

 

また、私は自分の会社を持つことで保険関係の問題をクリアしましたが、果たしてみんなそこまでやるのか、という問題もあります。みんなパラレルに経験を積みたいのであって、なぜ会社を作って自分で自分を雇用しなきゃいけないんだ、と。やはり、ハードルは高いですよね。他にも名刺入れをどうするかなど、細かい問題はたくさんあります」

 

 

 そんな中で今、小島さんのすべきことは何か。それは、パラレルキャリアは本当に実践できるのか、という疑問に対する一つの答えを示すことだ。

 

「『小島さんは面白そうなことをしていますね、私もぜひ、そういう働き方をしてみたいです。でも、どうやって働く先を見つければいいのかわからない』とおっしゃるマーケターの方に、最近よく会うんです。
今はまだ、ほとんどの会社がフルタイム、フルコミットでしか人を雇っていない。だから、私がやっていることが一つのロールモデルになってほしい。世間に『パラレルキャリア歓迎。週に1~2日、プロとして仕事に参加してください』という求人が出た時、自分が実践してきたパラレルキャリアが本当の意味で認知されたことになるのでしょうね。まだまだ、これからです」

 

 いつか"元AWSのコミュニティマーケター"ではなく"新時代のパラレルマーケター”と呼ばれるようになった時、小島さんのキャリアトランジションは本当の意味で成功したといえるのだろう。


プロフィール
小島 英揮

小島 英揮 おじま ひでき

パラレルマーケター、エバンジェリスト

Still Day One合同会社代表社員、パラレルマーケターエバンジェリスト
196923日生まれ 高知県出身。明治大学卒業後、PFU、アドビシステムズを経て、2009年より2016年までAWSで日本のマーケティングを統括。
2016年にコミュニティマーケティングを考える「CMC_Meetup」を立ち上げ。2017年より、決済、AIVR、コラボレーションツールなど国内外のさまざまなスタートアップで、マーケティング、エバンジェリスト業務を「中のヒト」としてパラレルに推進中。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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