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明確な特色と戦略を打ち出すことで、少子化時代を生き残る
大谷学長のユニークな発想のもと、八戸学院大はこれまで、さまざまな取り組みを行ってきた。前回取り上げた起業家養成講座の他、「農業経営プログラム」もまた、同大の看板の一つである。
「ウチの創り出せる新たな特徴は何だろう? それを考えた時、農業は欠かせないと思いました。青森は農業立県ですからね。そして農業は、日本全体としても解決せねばならない社会課題の一つであり、これからの産業でもある。
ただし現状、農業を商売として教えている大学はありません。農学部のカリキュラムの一部として農業経営学を教えている場合はあっても、『ビジネスとしての農業』を教えている大学は日本にない。その点、ウチはもともと商学部から誕生した大学。ウチこそが『農業の儲け方』を教えるべきだ。そう考えて作ったプログラムです」
現状、農業で収益を上げるには、従来のJAの流通に乗っていては厳しい、といわれているが…。
「自主流通の仕組みを作る、もしくはインターネットを活用するしかないでしょう。実は、起業家養成講座の一期生がそこに着目しましてね。曲がっているなど形が悪い、小さすぎる、色が悪い、といった理由で農協から返品されてくる野菜があります。今まですべて畑に捨てていたこれらの野菜のうち、トマトとニンニクに特化して現金で買い取り、東京都内のイタリアンレストランにトマトソース加工用として直接販売しているのです。東京には宅配便で送れば翌日に着きますので、鮮度はむしろ高い。
このレベルまでビジネスモデル化できれば、収益を上げることができます。青森県は食糧自給率は100%を超えていますし、非常に多くの種類の野菜や果物を作っていますからね。こういった例でわかるように、日本の農業はまだまだ無限の可能性がある。そこに着目しました」
そして今年度から開講しているのが「デジタルハリウッド大学」との提携。多くの卒業生が第一線で活躍を続けるデジタルクリエイター養成校と提携することで、八戸にいながらにして、最先端のデジタルコンテンツ制作技術を学ぶことができる、というものだ。
「これもアライアンス戦略の一つで、お互いの思惑が一致した結果でもあります。ウチとしては、デジタル系に興味のある子には、高校卒業後も青森に残ってほしい。でも、青森には勉強できる学校がない。すると札幌や東京の学校に行くしか選択肢がないわけです。そういった人材を八戸に引き留めたいと考えましたが、僕らがあのレベルの教員を集め、プログラムを構築するのは、膨大な時間とコストがかかる。
その一方、デジハリさんは通信教育事業を展開しており、ひと県に1校、オンライン教育のライセンスを与えています。それを今回、青森県ではわれわれが取得しました。ウチではEラーニングのシステムを利用し、東京のデジハリさんと同じ教材を使って学習することができるのです。実は高校生だけでなく、八戸在住の社会人の方々からぜひ受講したいというお話をいただいており、門戸を広く開放することも考えています。もしかすると、受講生のメインは社会人になってくるかもしれませんね」
現在、スポーツイベントによる街の活性化にも尽力している。中でも自転車関連のイベントについては、大谷学長自身が愛好家であることも手伝い、積極的に協力してきた。
「自転車に関しては『毎年のイベントカレンダーにインプットできるイベントをやりましょう』と、ずっと県に提案していたんですね。願いかなって、今年から、県も『青森を自転車の聖地に』と積極的に動いてくれるようになりました。県の観光戦略に、自転車が組み込まれたわけです」
ちなみに同大の自転車競技部では現在、実にユニークな試みが行われている。それは、人間健康学部とコラボしたダイエットコンテンツの開発だ。
「うちの自転車競技部は復部したばかりで、予算がありません。そこで考えた策です。実は、着て寝ると代謝が2.9%アップするという、アメリカ発の機能性ウェアがあります。これを毎日着て、ウチの科学トレーニングラボ考案の生活習慣や食事指導を守り、そして、朝の10分間で行うエクササイズプログラムを動画で公開しています。このプログラムに機能性ウェアが2枚付録でついて一つの「ハチガク式ウエルネスプログラム(koar.jp)」というパッケージになっており、売り上げの一定額が大学に寄付される、という仕組みです。ウチの自転車競技部は"稼ぐ部活"なんですよ(笑)。
確かにスポーツやダイエットはマーケットが大きいのでわかりやすい事例ですが、前向きに考えれば、大学の生き残り方は他にもたくさんあります。そもそも大学はコンテンツだらけ。いくらでも、お金は作れ筈です」
ただし今後の少子化の流れの中、地方都市の過疎化、そして私立大学の経営難は避けられないのも確かだ。
「おそらく、東京の魅力は今後ますます減っていく。情報はすでに均一化。全国どこでも、時間差なしで同じニュースを得られますし、発信もできる。東京と地方の情報格差なんて、すでに昔のものです。しかも地方には、東京にはない圧倒的な暮らしやすさがある。だからこそ、戦略が大事なんです。これからは、衰退していく地方都市と戦略的に生き残る地方都市の、勝ち組と負け組が明確に分かれていきますからね。
そして、私立大学の経営もどんどん苦しくなるでしょう。しかし最初にも言いましたが、八戸はとても恵まれた土地。僕が生まれ育ったという思い入れを外して考えても、人口もそれなりに多いし、インフラも充実している。そして海あり山ありで、豊富な地域資源が眠っている。だからこそ、戦略の立て方と工夫次第で、まだまだたくさんの学生に来てもらえる。そう信じています」
大谷学長が考える八戸学院大の一番大きな特徴。それは「常に変化し続けること」だ。
「時代に合わせて姿を変えつつ、常にワクワクを感じさせる大学でありたい。そして今、親御さんを始め多くの方が、そこに期待して下さっている実感があります。今、青森県の18歳の人数は、昨年から7百人減っている。それでもウチの大学は、僕が学長になってから毎年、学生数を増やし続けていますから。
今後は大都市圏の有名なマンモス校であっても、規模が大きい分、他大学との差別化ができず、少子化の影響をもろに受けるでしょう。その点、ウチのように明確に特色を打ち出している大学の方が、たとえ地方であっても、規模が小さくても勝負していける。何といっても私は元ベンチャー企業経営者。お金をかけない戦い方は、熟知していますしね」
そう言って笑う大谷学長。変化への高い期待のもと、"ジーパン学長"が仕掛ける新たな革命とは、どのようなものになるのか。今後も目が離せない。
(終わり)