本当に効くマーケティングは、誰がやる?

堂下 ナツコ [記事一覧]

職業:外資系中堅フードチェーンCMO。一言:マーケターになりたい、とも、マーケティングの仕事をしよう、とも思ったことがないはずなのに、気が付けば15年間、時にエージェンシーで、時に事業会社で、「マーケティング」に携わり、さまざまな企業の「マーケティング部」と関わってきました。 経歴:国内大手情報出版社 / 戦略的Webベンチャー / 外資系広告代理店 / 世界最大手ファーストフードチェーン

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Vol.3
「自覚なきCMOが思う<ニッポン【究極】のマーケティング部!>」

 

あなたの会社の「マーケティング部」は何をしていますか?

この問いに答えられるマーケティング部以外の従業員は、実は少ない。

たいていの場合、マーケティング部は「商品カレンダー決めたり、キャンペーン考えたり、広告やPOP作ったり、リサーチやデータ分析したり、会員組織を運営したり」しているわけで、これをまとめると「より売れる商品を考え、より売れる方法を考え、結果を出すのに必要な方法やツールを作る」といったところだが、他部署の人間にとっては「やたら予算をいっぱい使って、大して売上に結び付かないくせに現場に負荷がかかることを、わちゃわちゃ企画したり作ったりするところ」にうつるのである。

 

 ■営業との違いは何なのか?

 

マーケティング部に対して、特に「それほどお金をかけなくても、同じ結果もしくはもっといい結果が出せるのでは?」と思っているのが営業部である。 小売店をもつビジネスの場合、本部で上記の「業務」を行っているのがマーケティング部、店舗で直接お客様にモノを売るチームが営業部である。

両者の性格の違いは例えばこんなところに現れる。
商品別の売上やら会員の購買履歴を見て、マーケティング部は思う。

「コーヒーのMサイズが売れていない。コーヒーのリピート率は高い。」

「SサイズよりMサイズがもっと売れれば月のセールスがあがる。」

そこで「コーヒーM推しキャンペーン」を企画する。
メニューやPOPにはMサイズしか載せない。いつもSサイズを飲んでいる会員にメールをうつ。

「今、コーヒーMにするとオマケがついてきます!」

サンプリングもやるべきだと考える。
コーヒーの味が「悪くない」ことを知ってもらい、ついでにMサイズの割引券を配るのだ。

味を知る→オトク感があるので購入する→リピートする。ばっちりだ。

1か月間のコーヒーM推しキャンペーンは成功した。Mサイズ購入者が増え、コーヒーの売上は確かにあがった。
しかし、営業部は言うのである。

「なぜメニューやPOPにMサイズだけ載せたのか。全サイズ載っているからこそ、お客様に『真ん中のサイズ』を薦められるのだ」と。

POPを作り直したり、オマケをつけたり、ディスカウントなどしなくても、ドリンクを頼まれたお客様に全店員が意識して「真ん中のサイズでよろしいですねー」と言うだけで、同じくらいMサイズ購入者を増やすことはできたのに、と。

マーケティング部はしょんぼりする。じゃあ次は営業部の意見を先に聞くよ、と。

 

■「夏だからアイス」はうまくいくか!?

 

この小売店は冬はよく売れるのだが、夏場はあまり売れない商品を扱っている。
営業部はマーケティング部に言う。毎年、同じ失敗を繰り返すのだ。同じ商品ではダメだ、いくらフレーバーを変えても、クーポンを配っても、新しいお客様はとれない。夏なんだから、やっぱりアイスクリームを売ろう!他の店を見てごらんよ、夏にはやってるのはアイス屋さんだけだし、コーヒーショップだって全店アイスをのせた商品を売ってる。
今回は営業もがんばって「アイス推し」しますよ!

自信を喪失しがちなマーケティング部は考える。結局何をやるにも、直接お客様に接する「営業」がその気になってくれないとうまくいかないのだ。夏だからアイス、安直な気もするが、それぐらいのシンプルさがないとお客様にも伝わらないのかもしれない。POPもシンプルに、クーポンもなし。「夏だからアイスキャンペーン」悪くない。

結果として1か月間の「夏だからアイスキャンペーン」は失敗した。

マーケティング部はすっかり忘れていたのだ。夏にアイスの競合がいかに多いかということも、そもそもアイスクリームを買いにうちに来る人はいないということも、アイスクリームを提供するために新しい機材を入れねばならず、またクルーにもオペレーションの方法を教えねばならず、その結果コストがかかり、売価を安く設定できないことも。
営業部を前にして、マーケティング部は涙ながらに言うのである。

「そもそもうちのお客様は9割がテイクアウトです。しかも買ってすぐ食べるのではなく、平均1-2時間もちあるく商品です。そういうお店で、夏に溶けるものは売れませんっ」

 

■本当に効くマーケティングは誰がやっている?

 

先日、地元の個人商店に靴を買いにいった。ぼんやり思い描いていた条件(着脱しやすくて、歩きやすくて、かわいい)に合いそうなものがいくつかあり、試着しようとしたところ、まず同性の店員さんが近寄ってきた。
この時点で私は、見た目のかわいさは気に入っており、「着脱しやすさと歩きやすさ」をはかろうと思っている段階である。そしてまだ、そういう条件を店員さんには話していない。

店員さんは開口一番、言うのである。「この白いほう、実は私も持ってるんです。めちゃめちゃ歩きやすいんですよー!」まてまて落ち着け、靴を買うのに「歩きやすさ」は絶対条件のはずだ。誰に対してもいったんは言うのであろう、ただし「私も持ってる」はポイントが高い。

確かに試しに店内を歩いてみると歩きやすい。着脱のベルトがしかし、ちょっと硬いかな?とぐずぐず
いじっていると、店員さんは言う。「あ、これベルトはずさないで、そのままはけますよ!」
もう決まりである。思い描いた条件にぴったりだ。するとそこへ顔なじみの店長さんが通りかかる。

「あ!その靴、オススメだよ!いいよ、20%OFFで!」

間髪いれずに女性店員さんがつぶやく。「え!?社割より安い…」

 

さて、ここで究極の質問。本当に効くマーケティングをやっているのは誰?

A. マーケティング部
B. 営業部
C. 店員さん
D. 店長さん

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