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すべてにつながるノウハウを確立した2年間

田中 亮大 たなか りょうだい さん タクセル(株) 代表取締役

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MAツール「KAIGAN」をリリースし、中小企業のBtoBマーケティング支援事業を手がけるタクセル株式会社。KAIGANはツール使用料金を無料化し、MAアシスタントによる運用代行をリーズナブルな価格で提供。中小企業のBtoBマーケティングというブルーオーシャンを切り拓くとともに、地方在住者に向けてMAアシスタントという新たな職を創出する。そんなタクセル株式会社の代表取締役・田中亮大さんの企みをお聞きする。

写真=三輪憲亮


Part.3

 

■説明会をベースにナーチャリングする

 

 田中さんは、インサイドセールスについて多くの人が誤解している点を、こう指摘する。

 

インサイドセールスとは決して『訪問しない』ものではありません。フィールドセールスにトスする前の、マーケティングにおける一つの人的な活動。それがインサイドセールスだと考えています。かつてはそれが"ルート営業"だったということ。つまり昔の営業マンは、訪問することでインサイドセールスの役割を果たしていたわけです」

 田中さんが今に至るインサイドセールスのスタイルを確立したベースは、かつて独立して、教材のセールスを行っていた2年間にある。そして、実はKAIGANとは、この当時の営業ノウハウをシステム化したものだという。

 

 

「大学卒業後に新卒で入った会社での経験が、インサイドセールスやマーケティングと出合う最初のきっかけになりました。僕は外資系の製薬会社のMR(営業職)でした。ご存じの通り薬の価格は決まっていて、値引きはできません。しかも人の生死にかかわる部分があるので、調子のいいことは決して言えません。

 

だから最後は接待になるのですが、それもまた限界がありますよね。でも僕は日本一こそ無理だったものの、支店では一番売りました。どうして売れたかというと、1対1のセールスや接待よりも、説明会を幾度となく開いて集客したことでした。この経験によって、自分の一つのセールスやマーケティングの基礎的な形ができた。値引きはしない、過剰なことを言わない、1対1よりも多くの人を相手にナーチャリング(見込み客育成)する、ということです。

 

製薬会社は1年で辞めたのですが、この後の2年間が最も今に生きています。当時はスマホもなければ営業はすべて腕っぷし頼みという時代。ご多分に漏れず私もそういう道で、いわば何でも屋のようにいろいろなものを売っていました。
その中で一番売れたのが、120万円する自己啓発系のCDと本のセット。それを製作しているアメリカの会社の代理店になったことがきっかけなのですが、まるで売れなくて(笑)」

 

 

 なぜ高額な本とCDのセットを売ろうと思ったか。何を隠そう、自身が大学時代にそのセットを買ったことで、MRとして好成績を残せたからだ。

 

「書いてあるのは当たり前のことが中心。『目標を決めてちゃんと頑張れ』ということが、ひたすら300ページぐらい書いてある(笑)。でも、すごくいいんです。ただし自分が売ることになったら、まるでダメ。アポイントを取っても飛び込みで行っても、23の若造なんて誰も相手にしません。そこで、まずはターゲットを同世代に絞りました。自分が影響力を出すことができるのは、同世代の個人だと考えたわけです。

 

それでも、ぜんぜん売れない。当時、24時間営業のTSUTAYAに行って、自己啓発書を読んでいる人を見つけては声をかけ、セットを売り込む。それが私の仕事でした(笑)。その結果、TSUTAYA3店舗ぐらいで出入り禁止になりました(笑)。もう本当にお金なくって、後輩を家に住まわせて家賃をもらったり、食事をパンの耳だけにしてしのいだり、という日々でした」

 

■セールス先のランクは、情報の充実度で決める

 

 このまま行っても売れない。そう思い、それまで行っていた営業活動をすべてやめた。

 

当時ソーシャルメディアのmixiがよく使われていたので、それを利用したやり方に変えました。まず、20代限定の起業家志望の人だけが入れるコミュニティを作り、そこに人を集めていきました。mixiには当時『足あと』という機能がありました。アカウントに対してアクセスしてきた人が誰だかわかるという、非常に便利な機能です。この機能を使って、対象となる人を、1. 足跡を残してコミュニティに入る人、2. 足跡は残すけれども入らない人、3. 足跡を残さない人、という3パターンに分けました。

 

 

この分類はまさに、アナログのマーケティングオートメーションです。入った人はOK。足跡をつけたけれども入らなかった人には、あらかじめ用意した次のメッセージを2日後に送る。足跡もつかなかった人には、用意した別のメッセージを3日後に送る。そんなアナログのシナリオ設計を、人数がトータル1000人になるまでひたすら行いました

 

 加えて毎週、夢の持ち方や目標の立て方についてのセミナーを開いた。ここでもいっさい本とCDのプッシュ営業はせず、目標を立て、翌週も来た人は進捗をチェックするなどして、徐々にナーチャリングしていった。

 

もう一つ大事なことが、名刺管理。交換した名刺に書いてあるのは、大切なプロフィール情報です。ただしそこに、将来どうしたいか、とか、どれぐらい貯金があるか、などは書いてありません。だから聞くしかない。そこでそれらを聞き、そのデータを名刺と一緒にクリップで挟んで管理し、情報の充実度によって顧客をA・B・Cランクに分けていました

 

僕らのデータ管理はすべて、情報の充実度で決まります。ところが多くの会社が『ここは商談に出かけたからA』『ここは見積もりを提出したからA』というように、営業マンのアクションをベースにランク分けをしています。これ、ダメですよね。だって商談に何回行ったって、買わない人は買いませんから。要は、ランクの付け方が最初から間違っている。こういうケースは多くあります。

 

 

僕は当時、すべての顧客管理を名刺ボックスで行っていました。まず、名刺交換をしたばかりの顧客はほぼ全員、Cランクです。仮に名刺交換をしたのが8月とすると、そのCランクの名刺を、11月の電話対象のケースに入れ、放っておきます。そして11月に『その後いかがですか? 最近セミナーに来てもらっていませんが、ぜひ来て下さい』という電話をする。これを毎月繰り返し、1年を回していく。僕はこれを、リードローテーションと勝手に名付けました。そうやってぐるぐると回していくわけです。

 

要は、今で言うCRM(顧客管理)ですよね。ちなみに僕は当時から、Aランク以外と商談をしないと決めていました。だって、心が折れますから。情報収集が進みAランクになった人のみ『そろそろ私達のプレゼンを聞いてみませんか?』という感じで、具体的な商談に入っていく。そしてBランク、Cランクの顧客も、例えどんなに断られても、3カ月に一度、必ずコンタクトを取ります。

 

ちなみに、このリードローテーションはCRM(顧客管理)の最大の肝です。今までコンサルティングをしてきた企業さんには、口を酸っぱくして言いました。『一つこれだけは守って下さい。一度接点を持ったお客さんとは、先方にもうやめてくれと言われるまで接点を持ち続けて下さい。そして、その企業に対する向こう1年分の行動計画を作成して下さい』と。

 

 

なぜかというと、企業は年に一度、予算組みがあります。だから、仮に一度断られても、絶対にもう一度チャンスは来ますし、担当者やその上司が代わって、考え方が変わるかもしれない。ある時に一人の担当者に断られたからといって、それがすべてではない。だから、一度始めたら接点をずっと持ち続けねばならないんです」

 

 結局、最初の3カ月まったく売れなかった教材は飛ぶように売れ、田中さんは日本一のセールスを記録するとともに、現在に続くノウハウを積み上げていく。最終回となるPart.4では、その後の田中さんのキャリアと、タクセルのこれからについて話を聞く。

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プロフィール
田中 亮大

田中 亮大 たなか りょうだい

タクセル(株) 代表取締役

1985年山口県出身。大学卒業後、外資系製薬企業に入社するも2009年に独立。アメリカの能力開発プログラムの販売員として独立。プッシュ型セールスを行わない独自のマーケティング手法で日本一の販売実績を挙げる。
2011年に日本最大の経営者動画メディア「社長.tv」を運営する福岡のベンチャー企業に役員として参画。インサイドセールスにて、5000社以上のクライアントを新規開拓する。
2015年には、インサイドセールス専用ウェブ会議システム「ベルフェイス」の開発会社を共同設立。販売会社の社長に就任。
2016年にタクセル株式会社を設立。MAツール「KAIGAN」をリリースし、中小企業のBtoBマーケティングとセールスの支援を行う。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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