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だからこそ、明るい未来を描いた

三浦 展 みうら あつし さん (株)カルチャースタディーズ研究所 代表取締役

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高度情報化社会の実現、そして、テクノロジーの大きな進歩によって激変するコミュニケーション。2018年も大きな変化が見込まれる日本社会において、われわれは何を考え、何を目指して行動すべきなのか。80万部のベストセラーとなった「下流社会」や「第四の消費」、「中高年シングルが日本を動かす」等の著者であり、マーケティング・アナリストの三浦展さんに、これからのマーケターのあるべき姿を聞いていく。

写真=三輪憲亮


Part.4

 

■すぐさま、結果を求めない

 

 マーケターはもっと外へ出て、多くの体験をして、さまざまなものに触れるべき。三浦さんはそう繰り返す。では、どんな目線を持って外へ出て行くべきなのか。

 

目線なんてことを考えてはいけないんです。以前、自動車会社や家電メーカーの人を連れて、裏原宿の辺りを歩いたことがありますが、彼らは「この色はうちの商品のカラーリングに…」とか「デザインに…」と言って、すぐに自分の仕事と結びつけようとする。真面目すぎです(笑)。何でもすぐに役立てようとするのは間違い。『行ったからには結果を』と力むから、結局、発想が凝り固まってしまう

 

そうじゃなくて、もっと素直な目で街を見る。『みんな、何が楽しくてここに来ているんだろう』『この店はいったい何を提供しているんだろう』『何が美味しいのだろう』と、今起きていることを、取材するように好奇心を持って見る。そして『なぜだろう』と考える。『この店にはなぜこんなにたくさんの人がいるんだろう』『なぜこの商品が売れるんだろう』という疑問を、店長に聞いてみてもいい。さまざまな場所でいろいろなものを見て、自分もそれを楽しむ。そんな気持ちでいい。

 

 

だから、新聞なんて読まなくていい。確かに、世間で何が起きているかぐらいは知っておいた方がいいけれど、社説なんて読む必要なくて、事実だけ見ておけばいい。今やネット上にはいろいろな情報が流れていますが、おそらく多すぎてみんな頭が朦朧としている状態でしょう。いくつか新聞を読むだけで頭がパンパンになるのに、それ以上の情報が大量に入ってきても、処理し切れるわけがない。それならばネット断ちをして、街に出てはどうかと思います。『ネットを捨てよ、町へ出よう』です」

 

 その時に大事なのが、アウトプットだ。

 

「でも上司への報告書のような、かしこまった内容じゃダメです。ただ『行ってきました』というだけでは『時間をムダにはしていませんよ』という"アリバイレポート"に過ぎません。そうじゃなく、雑誌の記事のように面白く書く。『これがウチの会社にとって何の役に立つかわからないけれど、この店は面白い。店長はこんな仕入れをして こんなものが売れている。こんな客が来ていてみんな楽しそうだ』ということを、まずは書くべき。

 

そしてそれを、誰が読んでも面白い、自分もそこに行ってみたいと思わせるレポートにする。若い女性の派遣社員が笑って読めるような内容なら完璧ですよね。

 

 

そして、それを繰り返すことで次の発想が生まれてくるものです。でも自由な発想は、それを受け入れる企業風土があって初めて生かされる。おそらく、何十年もの歴史がある日本企業は、これからも変わらない。だから、若い会社がどんどん出てきた方がいいでしょうね」

 

 例えば、バルミューダ。2010年にが出した「GreenFan」は、少ない消費電力で心地よい風を生み出すことが話題となり、高価格帯ながらも大ヒット。「高級扇風機」という新ジャンルを開拓した。

 

「どうすれば気持ちいい風を送ることができるのか。それ自体は多くの家電メーカーがわかっていることでした。でも『今時、扇風機で儲けても仕方がない』『どうせ台湾製で安いのが出てきちゃうから』という理由で、どこも作らなかったわけです。それでも作ったのが、バルミューダ。その結果、3万円台の扇風機が大ヒットした。これは、ダイソンの掃除機も同じです。

 

バルミューダ株式会社HP(https://www.balmuda.com/jp/greenfan/)より

 

今後、バルミューダのような新しい会社にどんどん出てきてほしい。少々値段が高くても、新しくいいものが出れば買う。実はこれ、昔から当たり前のことですから。よく新聞に『高くてもいいものならば買う消費者が現れた』『最近の消費者はこだわりがあれば高いものは買う』なんて書いてありますが、そんなことは1980年代も言われました。何十年同じことを言っているんだろう、という気持ちです。高くても、新機軸があればみんなが買う。そんなことは昔から変わりません」

 

■暗いシナリオは、バカでも書ける

 

 三浦さんが2018年も注目し続けている動きが、シェアリングエコノミーだ。

 

「特に今年という話ではなく、すでに何年も前から言われていることですが、今後、シェアリングエコノミーがどこまでメジャーになるか、注目して見ています。例えばライドシェア。クルマは普通の個人が所有できる私有財産のうち、もっとも高価なものの一つでした。しかし、車はすでには私有からシェアする道具へと変わりつつあります。

 

 

Part.1でお話ししましたが、ほんの1~2年で上海中が自転車だらけになるような中国のスピード感を見ていると、果たしてシェアの流れが日本でどこまで広がるかは何とも言いにくいです。今後、いくつかの企業がライドシェア事業に乗り出すと思いますが、先日対談させていただいたモータージャーナリストの方は、街で50mおきに車両が置いてあるぐらいの状況を作らないとダメだとおっしゃっていました。街のビニール傘のようなものですよね(笑)。それはおそらく、日本では難しいと思います。

 

ただしシェアリングエコノミー自体は、これからの高齢社会や環境問題を解決する大きなソリューションになり得るもの。それがどのような形で成立していくか、大いに注目しています

 

 三浦さんは昨年11月に新刊『中高年シングルが日本を動かす』を上梓した。この本は、人口が激減する中で増え続ける中高年の単身世帯にフォーカス。彼らの消費動向を探り、ライフスタイルの変化を見ることで、この国の将来を占っている。

 

中高年シングルが日本を動かす - 人口激減社会の消費と行動 (朝日新書)

 

「『放っておいたら日本は少子高齢化が進み、人口が減っていく。これは大変だ』という暗いシナリオなんて、はっきり言って誰にでも書けます。暗いシナリオは1つしかないからです。しかし明るいシナリオは複数書けるはずです。だからこそ、私は私なりの明るいシナリオを書いた。その結果がこの本です。でも日本人は悲観論が好きだから、暗いシナリオのほうが売れるんだよね(笑)。

 

既存のトレンドの延長だけでモノを考えるのは『馬鹿な秀才』がすること。私はいつも、その逆を考えます。すると5年10年後、その考え方がメジャーになっていたりする。そんなケースって意外とありますよ」

 

 

 硬直化する企業、そして訪れる少子高齢化。ポジティブな要素が見えにくい今だからこそ描いた明るいシナリオは、三浦さんならではの多面的切り口で描かれている。多くの人の悲観的展望に対して、違った角度から光を当てる。それはまさに、自由で面白いマーケターという職業ならではの発想に違いない。

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プロフィール
三浦 展

三浦 展 みうら あつし

(株)カルチャースタディーズ研究所 代表取締役

マーケティングアナリスト。消費社会・社会デザイン研究者。株式会社カルチャースタディーズ研究所代表取締役。
1958年生まれ。一橋大学社会学部を卒業後、1982年にパルコ入社。1986年に同社のマーケティング雑誌『アクロス』編集長就任。1990年に三菱総合研究所入社。
1999年に独立し、株式会社カルチャースタディーズ研究所を設立し、代表取締役に就任。著書に『下流社会』(光文社新書刊)、『第四の消費』(朝日新聞出版刊)など多数。201711月には『中高年シングルが日本を動かす』(朝日新聞出版刊)をリリース。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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