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マーケターは『面白い人』であらねばならない
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マーケターは『面白い人』であらねばならない
高度情報化社会の実現、そして、テクノロジーの大きな進歩によって激変するコミュニケーション。2018年も大きな変化が見込まれる日本社会において、われわれは何を考え、何を目指して行動すべきなのか。80万部のベストセラーとなった「下流社会」や「第四の消費」、「中高年シングルが日本を動かす」等の著者であり、マーケティング・アナリストの三浦展さんに、これからのマーケターのあるべき姿を聞いていく。
写真=三輪憲亮
三浦さんの代表的著作の一つが、2012年にリリースした『第四の消費』だ。この本で語られているのは「消費しない消費社会」。モノを買い、所有して幸せになるのではなく、何によって幸せになれるのかを問う社会。自己本位主義から利他主義へと意識の変革が起こり、さまざまなモノやサービスをシェアする社会。この本に書かれているのは、そんな「つながり」を生み出す新たな時代についてである。
「実は今、この本が中国で多くの人に読まれており、先日も講演してきました。この本に関する講演は日本国内ですでに何十回と行ってきましたが、正直、中国の人達の方がずっと意欲的に聞いてくれます。今、中国では新しい企業がどんどん生まれ、伸びています。そして経営者もみんな若い。非常にスピーディーかつアクティブで、時代の変化にどんどん対応していこうとしています。
そのため、『第四の消費』という本が話題になれば、すぐさま『ぜひ講演してほしい』となる。そんな状況です。第四の消費とは何なのか。それを理解しようとする気持ちや、新しい時代に自分達はどうあるべきかを学ぼうという意欲は正直、日本人よりはるかに高いです。私が日本企業を相手に、第四の消費についてどれだけ話しても『そう言われても、モノが売れなきゃどうにもならないし…』といった鈍い反応ばかり。でも、彼らはまったく違う。『新しいビジネスを作ってやろう』という思いの強さは、日本人と比較になりません」
中国企業が圧倒的に優れているのが、スピード感だ。
例えば今、中国の都市部ではシェアサイクルが急速に普及。現在は「ofo」と「摩拜単車(mobike)」の大手2社がシェアの大半を握っている。このサービスが本格的に広まったのは、つい昨夏のこと。わずか1年あまりの間に、上海や北京の街中はシェアサイクルで埋め尽くされるようになったのだ。
「こうした動きによって、たった1年で社会が激変してしまうわけです。また中国はキャッシュレス化も急激に進んでいて、今や現金を持ち歩く人はほとんどいません。日本はまだクレジットカードすら普及し切っていないのに、中国では今や、屋台ですらスマホ決済が可能です。これだ! となると一気に行く。そのパワーは本当にすごい。これは本当にうかうかしていられないと思いました。
遅かれ早かれ、中国企業が日本向けに、時代に応じた新たなビジネスを作って乗り込んでくるでしょう。今までは日本企業が中国に進出していましたが、これからは中国企業が日本に進出してくる時代になります。すでに彼らは日本の土地や建物を、マンションを、リゾート地を買っていますが、これからはサービス業も展開していくでしょう。
これが第四の消費に該当するかは別として、今後は中国や韓国、そして東南アジアの国々がどんどん日本市場に入ってくる。もちろん日本に投資してくれること自体はウェルカムですが、土地も会社もビジネスも、どんどん日本のものがなくなっていく可能性がある。日本企業が日本の中で日本人にもっと売っていくビジネスを考えて、例え失敗してもいいから、すぐに実行すべきです」
三浦さんが強く問題視しているのが、日本企業のスピード感のなさだ。
「中国企業の歴史は古くても30年。日本の大企業は新しくても30年です。ソニーは70年、パナソニックは100年、伊勢丹は130年の歴史があります。そして日本では、多くの企業の組織がすでに硬直化している。その現実を踏まえて、モノを考えねばなりません。いや、考えてばかりではダメ。やること。そのためには何より、経営者自身が変わらねばなりません。
日本には"馬鹿な秀才"が多いんですよ。受験勉強の偏差値など、数字ですべてを判断されるような社会では"寄らば大樹の陰"とばかりに、儲かっている会社、成長している会社に入ろうとする人がほとんど。いつまで経っても、ビル・ゲイツもスティーブ・ジョブズも出てきません。かつての日本には本田宗一郎や松下幸之助といった優れた経営者がいましたが、果たして今、そういった人達の心を受け継ぐような人はいるのでしょうか? そうは思えません」
そんな時代の中で、マーケターはどのような思考を持って、キャリアを積み上げていけばいいのだろうか。
「マーケティングとは、企業の中で最も面白い仕事であらねばなりません。そしてマーケターは本来、面白い人でないと務まらない職なのです。でも今の若いマーケターは、データを見て作業している人ばかりで、クリエイティビティに欠ける。きっと、一般的な企業で普通に給料をもらおうと考えるような人は、面白くない人ばかりなのでしょう。
広告も昔と比べると、本当につまらないものばかり。CMも、ただ振付師が言う通りにタレントが踊っているだけ。『この商品がほしい』という気持ちをかき立てるものは、何一つありません。そう考えると正直、未来は暗い。だからこそ、マーケターがもう少し頑張らなくてはダメだと思います。
マーケターはコンサルタントではありません。コンサルタントの仕事は勝ち馬に乗り、金のなる木を見つけ、投資を呼ぶポートフォリオを考えること。
マーケターにもそういった素養は必要かもしれませんが、何より必要なのは『もう少し面白いことを考えよう』という気持ちです。これは本当に大事。新しいこと、面白い人を、もっとたくさん探すことです。マーケターにとって最も大切な仕事は、新しいスターを見つけること。そのためには、常に嗅覚を研ぎ澄ます必要があるのです」
次回Part.2では、三浦さんが考えるマーケターに必要な素養と働き方について、話を掘り下げていく。
マーケティングアナリスト。消費社会・社会デザイン研究者。株式会社カルチャースタディーズ研究所代表取締役。
1958年生まれ。一橋大学社会学部を卒業後、1982年にパルコ入社。1986年に同社のマーケティング雑誌『アクロス』編集長就任。1990年に三菱総合研究所入社。
1999年に独立し、株式会社カルチャースタディーズ研究所を設立し、代表取締役に就任。著書に『下流社会』(光文社新書刊)、『第四の消費』(朝日新聞出版刊)など多数。2017年11月には『中高年シングルが日本を動かす』(朝日新聞出版刊)をリリース。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです