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情報を「自分ゴト」として受け取った時、行動変容は起こる

小島 英揮 おじま ひでき さん パラレルマーケター、エバンジェリスト


日本最大規模のクラウドユーザーコミュニティ「JAWS-UG」の設計者であり、コミュニティマーケティングを考える「CMC_Meetup」の発起人である小島英揮さん。かつてAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)の日本国内マーケティングを統括。現在はABEJAのマーケティングディレクター、Stripe Japanのエバンジェリスト、ヌーラボの非業務執行取締役、MOONGIFTでのコミュニティアドバイザーなど、コミュニティマーケティングを軸としたパラレルキャリアを実践する。
今回はマスマーケティングの先にあるコミュニティマーケティングという考え方、そして小島さんが実践するパラレルキャリアという二つのテーマで話をうかがった。

写真=三輪憲亮


Part.1

 

■マスマーケティングの限界

 

 「コミュニティ」という言葉を聞いて、何を想像するだろうか。「コミュニティマーケティング」とは文字通り、コミュニティを用いたマーケティング手法のことである。

 

「まず大前提として、これからお話するコミュニティとは『マーケティングとマッチングのいいコミュニティ』のこと。『どんどん新しい人を巻き込み、コンテンツを生み出す仕組み』をいいます。
そもそもコミュニティは、限られた人だけのクローズなもの、地域に根差すものなど、さまざまな種類があります。ここで言うコミュニティはそれらとは違い、企業や商品、ブランドを利用する消費者同士の結びつきのことです。そして、そこには新たな消費者がどんどん集まってきます」

 

 

 小島英揮さんは2009年より世界最大のクラウドコンピューティングサービス「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」の日本国内におけるマーケティングを統括。国内最大規模のクラウドユーザーコミュニティ「JAWS-UG」を育て上げた実績を持つ。
2016年にAWSを退職後は、コミュニティマーケティングについて考える「CMC_Meetup」の発起人を務め、5つの会社の名刺を持つパラレルマーケターとして活躍中だ。小島さんのパラレルマーケターとしての考え方については後半でうかがうとして、まずはコミュニティマーケティングという手法について語っていただく。

 

「最初に、既存のマスマーケティングの限界からお話すると、わかりやすいと思います。マスマーケティングとは簡単に言えば『リーチするための技術』なんです。つまり、ターゲットに広くリーチすることはできるけれど、興味を引くコンテンツを生み出す仕組みではない

 

例えば女性に『フェラーリを知っていますか?』と聞けば、たいていの人は『知っている』と答えるでしょう。では『フェラーリがほしいですか?』と聞いてみると、多くの女性は『いや、別に…』となる。男性に『シャネルを知っていますか?』と聞いた時も同じですよね。
これが『アウェアネス(=認知)』と『デマンド(=需要)』の違いといえます。つまり『知っていること』と『自分ゴトにすること』の間には明確な開きがあり、リーチ後の行動変容は非常に難しい

 

その点コミュニティマーケティングは、既存のマスマーケティングの逆を行くものです。例えば、女性はフェラーリを買いたいとは思わないかもしれない。でも、例えば親しい間柄同士が集まった女子会で『フェラーリブランドのシャンパンが流行っている』と聞いたら、それが自分ゴトになる可能性は一気に増えます。つまり情報を『自分に関係すること=自分ゴト』として受け取った時、行動変容は起こる

 

 

属性の似た人が集まるコミュニティを作り、そこに商品の情報や、実際に使っているユーザーの声などを提供する。すると、単にリーチするだけではなく『使ってみてよかった』『これいまいちだと思ってやってみたけどすごいいい』『そんなにいいって言うなら、ちょっと触ってみようか』といった信用性の高いコンテンツが、自発的に生まれていくようになるわけですね。もしこれをベンダーが言えば、単なる広告になってしまいます。つまり、リーチはするけれども消費者に振り向いてはもらえない」

 

 小島さんはAWS時代の2010年、アマゾン・ウェブ・サービスのコミュニティ「JAWS-UG」を立ち上げ、現在は全国で50以上の支部を持つ大きなコミュニティに成長させた。日本におけるクラウドビジネスの拡大でJAWS-UGという世界最大規模の「コミュニティ作り」が大きく貢献したことは間違いない。

 

「コミュニティマーケティングはイケる。明確にそう言える事例の一つが、AWSが年に一度アメリカで行っている『Re:Invent』という大きなイベントの時でした。日本からも記者をお招きして記事を書いてもらうのですが、これは多くのITベンダーも行っていること。昨年は約20本の記事が出ました。決して悪い数字ではありません。でもその一方、イベントには日本から600人近い方が実際に行っていて、私がカウントした範囲だけで120本近い数のブログが上がっていました。

 

 

ベンダーの情報をもとにメディアが書く記事と、AWSに興味を持っている人や、実際のユーザー達が自ら上げたブログ。
例えばAWSに関するキーワード検索をした際、"Google先生"がどう判断するかというと、ユーザーのコンテンツを上位に置くことが多いのです。Googleはいろいろな形でコンテンツのランキングを見ていて、みんなが参照して「いい」と思っているコンテンツを優先して表示します。

 

そこから考えると、オフィシャルのコンテンツよりもユーザー自ら書いたコンテンツが有効である、ということ。つまり数でも質でも、コミュニティが作り出した情報の方が高い威力を持っているのです。
実は多くの人が必要とする情報は、ベンダーから出にくいもの。なぜならベンダーはどうしてもスペックなどの情報を正確に伝えようとしますし、自ら『使ってよかった。これは最高の製品です』と言うのは陳腐ですよね。でも実際に使っているユーザーが『これ、神だわ!』と言うことには、大きな説得力がある

 

もちろん『明日までに10万人に知らせたい』という事情があれば、マスマーケティングは大きな威力がありますが、その後に行動変容したかどうかはわからない。でも時間をもう少しいただいてコミュニティを作っていけば、例えばリーチが10万に達した時、それは単なるリーチ数ではなくなる。自分ゴト化している人が10万人いる、という強い意味を持つことになるのです」

 

■リーチよりもコンバージョン

 

 コミュニティマーケティングにおける大切な考え方が「Sell Through the Community」。「コミュニティに売り込む」ではなく「コミュニティを通じて情報を拡散させ、より多くの人に売る」ことだ。

 

 

「ボウリングに例えるとわかりやすいのですが、手前の1番ピンにちゃんと当たれば、たくさんのピンが倒れます。それと同じことです。今までのマスマーケティングの手法とは、1番ピンに当てるというより、10本のピンを倒すために10個の球を投げることでした。そして『端っこのピンを狙って投げたけど外れた。でも大丈夫。まだ球はある』と…。

 

「予算はある」というのは、こういう状態ですよね。ひたすらたくさんの人にリーチし、アウェアネスを得るための方法を探っていたわけです。これは広告代理店からすれば決して悪くない構図で『これだけの人にリーチするにはこれだけの予算が必要なので、お願いします』という社内稟議書も書きやすい。でも、実はその後のコンバージョンに対する確信は誰にもないし、実際のところ、思いのほか低いと言わざるを得ません。

 

 

多くの方々はマーケティングにおいて『入り口を大きくすること』にとらわれ過ぎている気がします。皆さん例えばカスタマージャーニーの分析など、さまざまな施策を行います。でも基本的な考え方は、あくまでリーチしてもらうこと。そこに価値があると考えられています
確かに『入り口が大きいからたくさんの人が入れて、出口からも出られる』という理屈が間違っているとは思いません。でも実際は、情報の質が悪ければ出口はごく小さなものでしかなくなる。これ、実は見過ごされがちです。つまりマスマーケティングは『より多くの人に知ってもらってさえいれば、買う人の数も増える』という短絡的な設計図になっているのです。

 

私が重視しているのはそれよりも『どれだけの人に自分ゴト化してもらうか』。100人に認知してもらうことと、彼らがいくら買ってくれるかはまったく別のことだと思います。その点コミュニティマーケティングとは、単にアウェアネスを上げる手法ではありません。大事なことは、コミュニティに属する人がどれぐらい拡散してくれるか。『これいいよ』という声をコミュニティの内外に広げてもらうことで、情報をより多くの人にとっての自分ゴトにしていく手法なのです。

 

コミュニティマーケティングの大きな特徴が、コミュニティの中にいる人を、商品やサービスを買う前に"温まった”状態にできること。『商品のいろいろな評判を聞いて、使ってみたいから話を聞こう』と思う人と『なぜかクーポンが来たから、とりあえずイベントに行ってみるかな』という人では、商品への耳の傾け方がぜんぜん違います。
逆に、コミュニティマーケティングの施策だけをやれば勝手に売れるものでもありません。コミュニティの中で"温まった"状態になった人に商品をちゃんと使ってもらうためのセミナーや、クラウドだったらハンズオン、ミートアップとか、さまざまな活動が必要です」

 

 

 また、コストがかからないのも大きな特徴だ。実はマスマーケティングにおいて、リーチ数を増やそうとするほどお金もかかるものだ。

 

「もちろんコミュニティマーケティングにおいても、最初の『火をおこす』段階で人的、時間的な投資は必要。でもそこから先は、みんなが純粋にいいと思って拡散させていくので、お金はそれほどかからない。そのため、コスト効率がいいのも大きな特徴です。

 

マーケティングにおいて、ブランドロイヤルティが高いのはいい顧客とされています。どんな本を読んでもそう書いてある。でも、ブランドロイヤルティの高い顧客を作り出す方法は、どこにも書いていない。
リーチの仕方は教えてくれても、自分ゴトにさせるコンテンツの作り方も教えてもらえません。そんな、自分の中で長年わからなかったミッシングピースをはっきりと埋めてくれたものが、コミュニティマーケティングだったのです」

 

 次回Part.2では、コミュニティ作りを実際に初めていく上でのポイントについて、話をうかがっていく。


プロフィール
小島 英揮

小島 英揮 おじま ひでき

パラレルマーケター、エバンジェリスト

Still Day One合同会社代表社員、パラレルマーケターエバンジェリスト
196923日生まれ 高知県出身。明治大学卒業後、PFU、アドビシステムズを経て、2009年より2016年までAWSで日本のマーケティングを統括。
2016年にコミュニティマーケティングを考える「CMC_Meetup」を立ち上げ。2017年より、決済、AIVR、コラボレーションツールなど国内外のさまざまなスタートアップで、マーケティング、エバンジェリスト業務を「中のヒト」としてパラレルに推進中。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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