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目指すのはハイエンド層の金融リテラシー向上
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目指すのはハイエンド層の金融リテラシー向上
今月お話をうかがうのは、「『金融×IT』で時価総額100兆円を超える世界一の企業を目指す」と宣言する株式会社ZUU代 表・冨田和成さん。資産3000万円以上のハイエンド層に向け、お金にまつわるさまざまなコンテンツを 10のメディアから発信。インターネットを通じた顧客と資産アドバイザーのマッチングビジネスを目指す。彼らが実践するコンテンツマーケティング の中身、そして冨田さんの「企み」とは。
文=前田成彦(Office221) 写真=三輪憲亮
「私達が手がけていることは一般的に『オウンドメディアマーケティング』『コンテンツマーケティング』などと呼ばれています。マーケティングとは、とても深い言葉だと思います。私は学生時代にソーシャルマーケティングで起業した経験があり、卒業して入った大手証券会社で営業職からキャリアをスタート。さまざまな経験を積んでこの会社を作りました。そこからマーケティングって何だろう? と考えた時、野村證券時代の、扱う金融商品をいかに売っていくか、という戦略を始め、これまでやってきた営業活動はまさしくマーケティングでした。他にも、投資家に向けて会社のバリューを測るなど、僕は多様な方向性で、長年にわたってマーケティングを手がけてきたと思っています」
語るのは株式会社ZUUの代表取締役・冨田和成さん。彼が今、手がけているビジネスのベースとなっているものを、彼らは「フィナンシャルメディアプラットフォーム事業」と呼ぶ。現在、合計10のネットメディアを同時並行的に運営。一つ目のメディアを立ち上げてから約2年が経つ今、記事提供先のエキサイトやヤフーニュースといったメディア経由を含め、月間1000万を超えるPVと、約150万人のユニークユーザーを集める。
「それぞれのカテゴリーの属性ごとに展開しているのですが、基本的にはお金に関わる情報を発信しています。私達のターゲットユーザーである資産3000万~5億円を所有する約1000万世帯のハイエンド層にとって、お金は常に大きなテーマ。彼らに対するコンテンツを提供するメディアを運営しています。
まず最初に立ち上げたのが『ZUU online』。そこからNISAや為替、不動産といったように、当初は毎月一つぐらいメディアを立ち上げていました。まずは世の中のニーズがあり、それに対するメディアを作り、反応を見る。そして工数を主力メディアやニーズの高いメディアに集中させていく。そんな風にして徐々にメディアの数を増やし、ユーザーを集めていきました」
ZUUの全メディアに共通する基本的な考え。それが「わかりやすさを追求する」ことだ。
「読みやすさを常に意識し、タイトルも内容もキャッチーにしています。身近なものと組み合わさることで興味を持たせたり、わかりやすくしたりすることが重要で、それを企画作りやタイトル、本文の中に反映させています。
例えばサッカーのワールドカップに合わせて株式市場がどう動くか、というトピック。あとは極端な例ですが、『妖怪ウォッチ』の流行をテーマに、ハピネットという会社の株価の動きを語る、といった話ですね。こういった話を読むと、お金という一見取っつきにくそうなテーマを、より身近に感じることができる。
そもそも、お金の話はカタくなりがち。ですから、いかにも『お金の専門サイトですよ』というタイトルや体裁だと、皆さんなかなかクリックしてくれない。お金は学ばなくても生きていけるけれど、学べばもっと生活がよくなる、という質のものです。だからカタいタイトルだと、アクセスを集めるのはどうしても厳しくなる」
ただし、記事の内容は決して表層的なものではない。ポイントは高い専門性。現在抱えるライターは約600名で、全員が金融のプロフェッショナル。ZUUは彼ら専門家による質の高い記事を毎日約30本、月間約1000本近くアップしているのである。
■資産3千万~5億円。このゾーンが、ぽっかりと空いていた。
冨田さんは大学時代、ソーシャルマーケティング分野で起業。卒業後は2013年まで野村證券に勤務した。そのキャリアの中で、明確な目標が見えた。
「学生時代にIT業界で起業した後、金融の世界へ飛び込みました。そこでいろいろな営業実務を経験してから、ビジネススクールで金融商品や理論を勉強。海外経験も積み、経営戦略も学びました。
その中で徐々に業界構造が見えたことで、発見した課題。それはリテール金融にありました。要は、個人の金融資産に対するアドバイス業務。銀行、証券、信託、保険、不動産…それらにおいて、多くの顧客が金融機関の食い物にされている現実があった。なぜそれがなくならないか。その答えが、彼らの金融リテラシーが低いから。そこで私達がZUUを立ち上げるに当たり、掲げた目標。それが顧客の金融リテラシー向上でした。そして、その目標のために選んだ手段が、メディア構築だったのです」
ただし、一般層向けの金融メディアはすでに多数存在していた。その中でZUUが手がけるプラットフォームは、既存メディアとのいかなる差別化を目指したものなのか。そして、そのターゲットとは…?
「例えば『ダイヤモンド・ザイ』や『オールアバウト』は、マス層に向けたコンテンツが主体。世帯資産3千万円以下のマス層に向け、例えば気軽な『節約術』や『株主優待生活を送るには?』といったテーマを軸とした記事が主体です。それに対し私達のターゲットは、もう一つ上の層。世帯資産3千万円~5億円の層に向け、資産管理や相続・事業承継、不動産経営、そして最新経済動向といったコンテンツを発信しています。
いわゆる富裕層ピラミッドを思い浮かべて下さい。頂点が資産5億円以上の超富裕層です。そして2番目が、資産1億円~5億円の層。3番目が資産5千万円~1億円の層。そしてその次が、資産3千万円~5千万円の層。そして資産3千万円未満と続きます。
このうち一番上の層の資産管理には、金融機関の担当者が複数付いてくれます。そして資産3千万円未満のマス層は、金融機関にとってはなかなかよい顧客にはなりにくいのが実際です。ところがその間の、資産3千万円~5億円の、超富裕層とは違う層。ここが最も金融機関からないがしろにされている。担当者が何人も付くことはないので、資産管理が難しいのです。このゾーンがぽっかりと空いていた。そこに大きな課題があることに目をつけ、この層をしっかりと囲っていくことで、差別化しようと考えたのです」
金融リテラシーの向上とともに、冨田さんが目指すのは、個人が専門家を自由に探せる時代。その実現のためには、金融のプロを集めるプラットフォームが必要だと考えた。
「金融への理解が低いと、金融機関の担当者の出来が今一つ、とか、金融機関に搾取されている、といったことがわからない。金融リテラシーはやはり、大きな壁。個人が金融の専門家を自由に探すことのできる時代が来るべきだと、私は思っています。そういう意味でもメディアという、資産管理全体に関心の高いさまざまな人が集まり、つながっていくハブ的存在を構築することには、大きな意味があるのです。
実は一般のハイエンド層と向き合う一方、私達はプロフェッショナル向けの顔も持っているんです。今、月間2万人以上の金融プロが訪れる『ZUU Advisors Support』というメディアも運営しており、そこには彼らによって、金融業界の最新動向などがリアルタイムでもたらされます。
彼らによる、金融業界の最前線の情報。それを私達が吸い上げ、編集部の中に蓄積し、企画として練り上げ、記事にする。要は、リアルタイムで業界のプロフェッショナルから得た情報を、ターゲットとなるハイエンド層に提供できるのです。これもまた、私達のメディアが掲げる差別化方針なのです」
次回は冨田さんが手がける各媒体の収益構造とオペレーションシステム、そして、それを支える独自のPDCAサイクルなどについて、話を聞いていく。