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テクノロジーと企業の経営課題。そこにあるギャップを埋める

武下 真典 たけした まさのり さん (株)エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役

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今、徐々に認知されつつあるIoT(Internet of Things=モノのインターネット)という言葉。今や世界中に張り巡らされたインターネットは、パソコンのみならず、あらゆる"モノ"を通じた情報伝送路へと進化しつつある。急速なテクノロジーの発展により、かつてSF漫画に出てきたような未来社会が実現しつつある今、マーケターはIoTという新たな時代のうねりと、どのように向き合っていくべきなのか。今回は、さまざまなIoTインテグレーション事業を手がける株式会社エスキュービズム取締役・武下真典さんに、お話をうかがっていく。

文=前田成彦(Office221) 写真=三輪憲亮


Part.1

 

■例えばこれからは、街全体がIoT化されていく時代。

「ちょっと先の未来の話をします。例えば街の所々にあるのは、タッチパネル型のデジタルサイネージ。触れるだけでさまざまな情報にアクセスでき、もちろん多言語に対応。例えば海外から来た人が、お土産に何を買おうか悩んでいたら、お勧め商品のデータがスマホに入ってきます。それはもちろんEコマースと連動しており、クリックしてすぐに購入。ホテルに帰れば、その商品はすでに届けられています。

ショッピングモールの免税店にあるのはセルフレジ。ショップにとって面倒な免税処理は、パスポートリーダーを備えたこの無人レジがすべて行ってくれます。だから日本語がわからない外国人観光客が、言葉のストレスを感じることはない。

 
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ストレスを感じないのはもちろん、外国人観光客だけではありません。ショッピングモールの駐車場には、車番認識カメラとセンサーを内蔵したポールが設置されています。スマホアプリを通じて空き状況を確認できるので、事前に予約しておけばいい。もちろんアプリから決済もできるから、駐車場が満車で、周辺をぐるぐる回って空きを待つようなこともありません。

モールに隣接するホテルのフロントに、スタッフはほとんどいません。なぜなら予約からチェックイン、部屋の解錠、さらには決済までを、すべてアプリで行えるからです。そしてお酒を飲みに行けば、コースターにグラスを置くだけで、おかわりを自動でエントリー。店員を呼ぶことなく、何杯だって飲めてしまいます」

語るのは、現在さまざまなIoTインテグレーション事業を手がける株式会社エスキュービズム取締役・武下真典さん。テクノロジーの発達とともに訪れる近未来。驚くべきは、想定された未来が決して10年後、20年後ではないということ。これらのテクノロジーは、東京オリンピックを迎える4年後、2020年には、確実に実現するものばかりだ。そのキーワードはご存じ、IoT(Internet of Things=モノのインターネット)。IoTによるこういったソリューションが街中のあらゆるシーンで利用されるようになるのは、ほんの数年後である

「IoTとは従来、パソコンやサーバー、プリンタといった専用のIT機器が接続されていたインターネットに、生活の中で使われるさまざまな"モノ"をつなぐということ。簡単に言えば『モノがインターネットにつながる』ということで、これまではロボットやAI(人工知能)、ビッグデータ解析などの実験的テクノロジーに用いられることはあっても、一般の人達が接する機会はまだ少なかった。でもそれは、まさに変わりつつあります」

 

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とはいえ、実際の身近な取り組みにまで落とし込まれたIoTの実例は、まだまだ知られていないのも確か。そんな中で、われわれマーケターはIoTという新たな時代のうねりと、どのように向き合っていくべきなのか。

「例えばこれからは、街全体がIoT化されていくような時代です。あらゆる場所にフリーWi-Fiが飛び、日本人も外国人も、スマホで何でも簡単に決済できるようになる。もちろんEコマースだけでなく、実際の店舗で、そういうシチュエーションがどんどん増えていきます。今後、実際の紙幣や硬貨を使う場面はどんどん減っていくでしょう。そして上記の他にも、さまざまなIoTによるソリューションが、世の中の多くの課題を解決していきます」

■消費者のニーズと企業の効率化。この二つが合致するポイントを探る。

今現在、IoTはわれわれの生活においてどのように運用されているのか。まずは、同社が手がけるIoTインテグレーション事業の実例から紹介していこう。

「例えば現在はインターネット通販の普及と、一人暮らしや共働き世帯の増加によって、宅配便の再配達依頼件数が増加しています。そこで私達が開発した『スマート宅配BOX』は、宅配ボックスがインターネットにつながったらどうなるか、というもの。簡単に言えば、スマホアプリが鍵になる宅配ボックス。不在時に荷物が配達されるとメールで通知があり、ボックスの開閉はスマホをかざすだけ。一軒家を始めマンションやオフィス、駅や空港といった公共施設でも設置が可能です。

これを実際にカスタマイズしたものが、羽田空港で実際に採用されています。「グローバルWi-Fi」で知られる株式会社ビジョンさんとのプロジェクトで、海外用Wi-Fiルーターの受け渡しをスマート宅配BOXで行っています。海外で使えるWi-Fiルーターは従来、空港の国際線ターミナルで、出国前にカウンターに並んで借ります。でも、ハイシーズンには長蛇の列ができてしまい、出国時間を気にしながら並ばねばなりません。これは大きなストレスです。

そこで、ネットで事前予約をしてルーターをボックスに入れておいてもらえば、スマートフォンをかざすだけでルーターをピックアップできます。旅行する人は並ぶストレスを感じることがありませんし、ビジョンさんも、カウンターでの接客に従業員を割り当てる必要がない。人件費を削減でき、消費者の満足度も上がる。メリットは大きいでしょう」

 

「グローバルWiFi」の「スマートピックアップ」
「グローバルWiFi」の「スマートピックアップ」

 

もう一つの例が、冒頭でも紹介した「eCoPA」という駐車場システム。車番認識カメラとセンサーを内蔵したポールを駐車場に設置することで、駐車の空き状況の確認と予約、決済までをスマホで行うことができる。

「多くのコインパーキングは、車を停める時に上がるフラップ板と精算機を備えています。まず思ったのは、今の時代みんなスマホを持っているので、精算機は必要ないのでは、ということ。しかも、このフラップ板があると駐車しにくい。そこで、車を停めるスペースの後ろにカメラとセンサーを内蔵したポールを立てれば、車がいるかどうかわかる。そして、ナンバープレートも認識できる。そしてスマホ上で予約ができ、決済まで行うことができればいいよね、ということで考えたシステムです。

今は大阪市が営む駐車場で使われています。大阪の御堂筋で観光バスの一時停車がじゃまで問題になっていたのですが、そこで、予約できるバスの駐車場を作ろう、という話から始まっています」

 

ecopa(エコパ)
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彼らのビジネスの根底にある考えは、消費者のニーズと企業の効率化が合致するポイントを探る、ということ。それらが上手く合ったポイントがIoTだった、というイメージであり、モノよりもソリューションを売る面が大きいという。

「今はIoTという言葉だけが盛り上がっていて、モノがニュースで取り上げられたりすることもよくあります。その影響で、とにかく何でもセンサーを付けろ、というような風潮があるのも確か。でも冷静に考えると、それって意味があるのかな? というモノも多い。

企業はそもそも何らかの経営課題を解決したいわけであり、ただ単にモノにセンサーを付けたいわけではありません。ですから実際にコストダウンや顧客サービスのクオリティアップにつながるのかを、しっかりと見定めねばならない。優れたテクノロジーに満足しているだけでは、ビジネスとして成立しません。

僕らが掲げているのは『Usable IoT』というコンセプト。大事なのは、使う人が今までできなかった何かを、新たにできるようになることです。テクノロジーと企業の経営課題。そこにあるギャップを埋めていくのが、僕らの仕事です」

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プロフィール
武下 真典

武下 真典 たけした まさのり

(株)エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役

1979年大阪府出身。大学卒業後、フューチャーアーキテクトを経て2008年に株式会社エスキュービズムへ。
2014年にEコマースの開発、店舗タブレットソリューションの「EC-Orange」シリーズを軸に事業を展開する株式会社エスキュービズム・テクノロジーを設立し、代表取締役就任。今年10月、組織統合によってエスキュービズムの取締役となる。
著書に『はじめてのIoTプロジェクトの教科書』(クロスメディア・パブリッシング刊 武下真典/幸田フミ 共著)。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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