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"靴磨き日本代表"として、持っている知識を世間に広めていく

長谷川 裕也 はせがわ ゆうや さん (株)BOOT BLACK JAPAN 代表取締役

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Part.4

 

■靴磨きというコンテンツを幅広く派生させることが、僕の使命。

 ブリフトアッシュをオープンして7年。紆余曲折あった中、昨年、テレビ番組の取材を受けたことは非常に大きな出来事だった。

 

「実は当時、売り上げがやや下がっており『これはいい起爆剤になるかも』と思い、取材を受けました。でも起爆剤どころか、すごいことになって…。放送翌日から店はパンク状態。そこから約2カ月、本当に大変でした。

正直に言うと、お客さんとの間にいくつかトラブルがありまして…。原因は、些細な言葉の問題でした。僕らのコミュニケーションの基本として『言った』『言わない』の主張に意味はない、ということがあります。大切なのはあくまで、僕らの考えがお客さんに伝わっているか。伝わっていなかったのだから、反論しても何の意味もない。それを、スタッフにあらためて徹底させました。

そしてこの2カ月で、もっと接客の精度を上げなくてはいけないと痛感しましたね。今思えば、当時は細かなことも含め、見直すべきことがたくさんありました。ある意味、ガチャガチャな状態になったことは雨降って地固まる、という意味で必要な試練だったのかもしれません。もちろん、よかった面もありますよ。一番は、番組を見て来て下さったお客さんで、リピーターになって下さった方がいらっしゃること。これは、本当にうれしい限りです」

 

また長谷川さんは現在、ブリフトアッシュの運営とイベント出店の他、企業の研修も手がけている。

 

「これは、僕がほぼ一人で担当しています。サービス業の方に身だしなみの一環として靴磨きのことを教えたり、アパレル会社のスタッフさんに接客ノウハウやシューフィッティングについてレクチャーしているんです。路上で磨いていたころを考えると、まさか自分が今、こんなことをビジネスにしているなんて想像もつきませんでしたが(笑)。

修理店などとは違い、靴磨きという仕事は靴のフィッティングや修理も、革のメンテナンスなどについても知識が必要です。研修の仕事では、それらを新たな形で生かすことができています。"靴磨き"というコンテンツを、どれだけ幅広く派生させていくか。僕はそこを、面白がりながらやっています。僕は勝手に、自分を"靴磨き日本代表"と思っていますから(笑)

 

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Brift H初オリジナル靴クリーム。革への栄養補給を第一に考え化粧品の成分で作られている。化粧品会社と共同で3年かけて開発した商品。

 

 

 

■汚れを落とす。インクを塗る。結局、仕上がりの差は基本技術から生まれる。

 

 長谷川さんが今、手がけているのはブリフトアッシュの複数店舗展開。近隣のセレクトショップ「BLOOMBRANCH」内にインショップ「THE BAR by Brift H」を構える他、今年、初のフランチャイズ店舗THE LOUNGE by Brift H」を札幌にオープン。「決して多店舗展開を考えているわけではない」と長谷川さんは語るが、今後は銀座への出店の他、FC展開も検討。東南アジアなど海外への展開も考えている状況ゆえ、急務は職人の育成だ。

 

「職人がお店に立てるようになるまでに、最低でも半年はかかります。その間は雑務から始め、店の裏で練習を重ねる日々です。朝8時に来てもらい、僕が1時間、マンツーマンでトレーニングを見る。その他にも雑務など、いろいろなことを教え込んでいきます。考え方も含め、基本技術をしっかり体得してもらいます。

職人を育てる上で大切なのは、基本を決しておろそかにさせないこと。例え磨くのが上手くても、気持ちが入っていない時は見てすぐにわかります。人間性と責任感、仕事に対する姿勢。それらがちゃんとしてないと、結局、靴の仕上がり"その人"が出てる。上手く手を抜いて磨くヤツも、時々いるんですよ。器用な奴ほどそういうことをするものですでも、そんなヤツはたいてい、そこそこ磨ける、というレベルで終わってしまう。

ウチのテーマは"毎日大掃除"。靴磨き店というと、少々汚れているイメージがありますよね。だから、ウチはとにかく店をきれいにする。靴をきれいに磨く店が汚くては、何の説得力もありませんから。掃除をきちんとできない人は、靴磨きもできません。おもてなしするこの場をとにかく清潔にして、ピシッと仕事をすることが大切です。

技術で大事なものは、とにかく基本。靴磨きというと、いかに光らせるか、というテクニックに重きを置いていると思われがち。でも実は大事なのがその手前の、インクを塗る、汚れを落とす、といった基本技術なんです。いかに汚れをきちんと落とすか、いかにきれいにインクを塗るか。90点の仕上がりと、95点の仕上がり。結局、仕上がりの差はその部分から生まれるのです。

ただ、職人の育成については僕もまだまだ勉強中です。僕がどんなに技術を持っていても、それを伝えるには別のスキルが必要。今は、自分の分身をいかにきちんと作るか、ということに注力しています。ゆくゆくはヨーロッパに店を出すのが、僕の夢なので」

 

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そんな長谷川さんが見すえる靴磨き職人としての未来、そしてマーケターとしての今後の企みとは、どのようなものだろう。

 

「自分の技術をもっと伝えていきたいですね。そして今後は、職人の協会や資格を作ることも考えています。『靴磨き職人』という資格を誰が作るの? と考えたら、僕しかいないでしょう(笑)。そのためには、靴磨きのメカニズムをしっかりと体系化させたいと思っています。なぜ、ひび割れが起こるのか。なぜ、シミができるのか。その辺はざっくりとした知識だけで成り立っているので、きちんと解明していきたいです。

そして僕としては、もっとたくさんの靴磨き店ができてほしいと思っています。もっとお店が増えないと、マーケットが大きくなりませんから。確かにブリフトアッシュを始めてから、他にもいくつか靴磨き店ができました。でも、みんな長続きせずクローズしてしまう。つまり、なかなか難しい商売なのは確か。ですから今後、新しいお店ができる時にコンサルティングをするなど、靴磨きにまつわるインフラ構築にも携わっていきたいです」

 

路上からスタートして、南青山に店を構えた。そして、今も変わらず顧客を大事にする傍ら、自らの技術を「伝えていく」というフェーズに入ったことを自覚している。「靴磨き」という未踏の分野におけるパイオニアでありたい。
そんな思いを胸に秘め、長谷川さんは今日もカウンター越しで、顧客とまっすぐに向かい合う。

 

(終わり)

 

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プロフィール
長谷川 裕也

長谷川 裕也 はせがわ ゆうや

(株)BOOT BLACK JAPAN 代表取締役

1984年千葉県出身。営業マンを経て2004年、20歳の時に、日銭稼ぎ丸の内の路上で靴磨きを始める。
1年後に品川駅前の路上へと移って徐々に顧客を増やし、2008年、南青山にBrift H(ブリフトアッシュ)を開店。
新たな靴磨きのスタイルを模索し続ける。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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