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感じた何かを言葉にして掘り下げる
武笠さんが考えるアイデアを坂本さんがユーザー目線で検証しながら、ともに具現化していく。たまに例外こそあれ、それが彼らのモノ作りの基本スタンスだ。では二人は、頭に浮かんだ荒削りはアイデアを、どのようにしっかりとした骨格のコンセプトへと絞り込み、アウトプットまで持っていくのか。まず大切なのが二人の意思疎通と、クライアントとのコンセプト共有だろう。そこには、彼ら独特のスタイルがある。
坂本さん(以下S):武笠の出したアイデアを検討していく時は、いつもカウンセリングみたいな形になります。いつもの会議風景で言うと、こんなものを作ろう、というのが前提として何となくある中、武笠が具体的なアイデアを持ってきたりその場で出したりします。その時、アイデアとして出すからには面白いんだろう、と僕は思っています。でも、どのように面白いのかはっきりとわからない。検討はそこから始まります。「漠然と面白さは伝わってくるんだけど、Aみたいな面白さとBみたいな面白さとCみたいな面白さがあると思う。その中でどれを感じているの?」とか「ユーザーに何をしてほしい?」などと聞きながら、武笠の本心をだんだんクリアにしていくんです。そこからいろいろとヒアリングしつつ「じゃあ、こういうのが付いているのってノイズじゃない?」と突っ込んだりとか、そういうのをやっていくんです。もしかすると、アウトプットはまったく姿が変わってしまうかもしれない。でも、もともとやりたかったことに沿っていれば、実はその方が切れ味鋭いものが生まれたり、ということもある。
武笠さん(以下M):基本的には、そうして最初のそもそもの動機に近いアウトプットの仕方を見つけ、それが商品の形になる、というケースが多いです。
S:アイデアのよけいな部分を削ぎ落とし、コンセプトを絞り込むために、これは本にも書いたんですが、日常的に何かを感じたら、その理由を考え、言葉にしています。ああ、今こう感じた、って思ったことを掘り下げて考え、それをいくつかの言葉にすると、次のさらに深い階層がぼんやりと見えてくるんです。こう思ったのはなぜか。そこにはこういう理由があって、と、もう一つ下の階層の存在を感じられて、そこを考えるとさらにもう一つ下がったりして。そうやって、ああ、ここがスタート地点か、というものが見つかるまで、いちいち考えますね。そうやって見つかった動機とそれを見つけたプロセスが、その後にものを考える時の大切なピースになる。あの時こういう構造が存在したな、こういう感情が引っかかったな、という「素材」が手に入るわけです。
M:でもそれだけでは、まだユーザーが「これほしいな」と思う理由にはならない。到達点が見つかったら、そこへ向かう道を作る作業をさらに話し合いながらしていくんです。「このモチーフで、ユーザーがそこに頼まれもしないのに行きたくなるのは、どういう道順なんだろうね」と。説明が十分であるということと、ユーザーにとってわかりやすいということは全く関係ない。そこは常に意識していますね。
S:メーカーとの関係性においてもそういった作業をします。その時は、メーカーの方が発言した言葉の最終形態はあまり当てにしないことが多い。むしろ会議において、あの人はあの時、なぜこう言ってたのだろう? と、発言のプロセスをよく探るようにしています。そこから発言のもともとの動機を導き出すことを意識して、コミュニケーションを図っているんです。
コンセプトメイクを行い、アイデアを絞り込んでいくにあたって坂本さんが心がけていること。それは、実際のターゲットに感情移入して考えることだ。
S:なりきるといっても所詮は僕なんですが(笑)、ターゲットの具体的な生活までをイメージしますね。自分が例えばこんなアーティストに共感する人ならば、今、世界はどんな風に見えているのだろうと想像します。そして、ここの部分はもっと優しくしてほしいな、ここの部分はぼかしておかないと、といったことを、自分をターゲットに当たる一人物に置き換えて感情移入して考えるんです。その時想定されている商品に感情移入した自分が触れるのと、素の自分が触れるのとでは、手触りが違って思えたりして。具体的には、例えば好きなアーティストとか、職種とか、軸を一つ立ててから人格を作っていく。憧れはこういう世界かな、恋愛観はこうかな、と。
僕は、ターゲットを「群」で考えるのは危険だと思うんです。群で考えると、企画は観念的な方向に行ってしまう気がする。「これなら僕らの言いたいことは届くよね」というやり方と、ユーザーが直感的に好きだと共感できるモノの伝え方は違う。企画って、会議で十分な説明ができたところで満足しちゃうんですよね。ああ、これで定食の形になったじゃん。うまいしいいもの使ってるから絶対大丈夫だよ、ってなるんですが、ふと食べる側の感情でものを見た時、これいらない、となる場合があるんです。だから、大丈夫、これなら実際に食べたいと思う人がいるから、と思うために、なりきる作業をするんです。作る側の都合で気持ちよく考えちゃうと、本当に危ない時がありますね。
M:入念なマーケットリサーチを経て出てきた商品って、意外とダメだったりする。ヒット商品って、あっそうそう! それがほしかったんだよね! というものが多い気がします。僕らのやっている玩具や遊びというものは、そもそもいらない物であったり、無かった価値観を作ることだったり。だから、もしかしたらそういったリサーチとはそもそも無縁なのかもしれない。
S:マーケティングというものに対する誠実な見方ではかもしれませんが、データはデータにしか過ぎず、それが必ずしもヒットにつながらないケースも多い。でもデータがそろっていれば、企画は通ってしまいやすい。そこで大枠として固まりつつあるプロジェクトと、実際に消費者の現場に響くアウトプットの差を埋める。そんな作業も必要だし、実際に僕らは仕事でその係をさせて頂く事が多いです。だから正直、一般的な意味でのマーケターとは違った思考で仕事をしているのかな、と思います。今こういったことに注目している、というアンテナは、実はいち消費者の視点でしか張っていない。むしろ、今コレが遊んでて楽しいんだよ! というノリで、日々楽しく暮らす。僕らはいつも、それを意識していますね。
(終わり)