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共感を呼ぶ出来事をパッケージできれば

武笠 太郎 むかさ たろう さん ザリガニワークス 代表取締役 坂本 嘉種 さかもと よしたね さん ザリガニワークス 代表取締役

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「コレジャナイロボ」や「自爆ボタン」「土下座ストラップ」など、ユニークな玩具の企画開発・デザインを軸に、幅広いコンテンツ制作を展開するザリガニワークス。武笠太郎さんと坂本嘉種さんの二人が作るおもちゃは、決して凝った作りではないが、常にユーザーの想像力を刺激する仕掛けがなされ、思わずクスッと笑ってしまう温かみを醸し出す。彼らの作品はなぜ、多くの人に愛され続けているのだろう。その理由を探ってみた。

文=前田成彦(Office221) 写真=武石佑太


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■ロボットアニメ世代の親は、子供が好きなものに関心が少ない。

 

 独特なセンスのおもちゃを始めとするユニークで笑えるコンテンツを作り続けるザリガニワークス。彼らがこれまで手がけた中で、最もポピュラーな看板商品の一つが「コレジャナイロボ」。楽しみにしていたクリスマス、お父さんからのプレゼントを開けた子供が「ほしかったのはコレじゃない!」と叫ぶ。モチーフは、そんなシュールでどこか共感できるシチュエーションだ。まずはこの代表作のコンセプトと、製作プロセスについて聞いてみた。

 

武笠さん(以下M):最初にアイデアが生まれたのは2001年です。松本大洋さんの『花男』という漫画に、玩具店にディスプレイされた超合金のロボットを眺める貧乏な家の息子に、お父さんが手作りの木製ロボットをプレゼントする、というエピソードがあり、それにインスパイアされました。こういう、ちょっとがっかりするような経験って、特に僕らの世代って誰でも一度はしている気がしたんです。これを実際の形にすれば、ユーザーが共感して、ネタにしてくれるんじゃないか。そう思ったのがきっかけです。

 

坂本さん(以下S):僕らはロボットアニメ世代で、親が、子供が好きなものにあまり関心を持っていないんですよね。実は、それが大きい。

 

M:今の親御さんて詳しいですからね。昔、自分も例えばウルトラマンを見ているから、子供に『ウルトラマン買ってきて』と言われたらまず間違えない。でも僕ら世代の親は、ウルトラマンといっても「ヒーロー」程度のくくりでしか考えていなくて、頭の中でいろいろなものがごっちゃになっちゃっていた。だから「何でもいいだろう」と買ってきちゃって、事件が起こる(笑)。その状況には、単純に「違う!」という以外に多くの情報が含まれていて、もらった子供にも複雑な感情が渦巻く。そういった出来事自体をパッケージングできたら、お客さんと盛り上がれるんじゃないか、と。そこで「コレジャナイロボ」というタイトルが浮かび、坂本に電話して話したんです。そうしたら「いらないものをマジで売るの!? でも面白いかもしれないから、会議にかけてみよう」となって…。

 

S:すごく面白いアイデアだと思いました。でも、ただ「コレジャナイロボです」と言って売り出すだけでは、なかなか上手く伝わらない。だから、手作り感たっぷりのカッコ悪いロボットにユーザーが理解しやすいように説明文を付け、そこに「ガッカリさせることで子供に人生の真理を教える"情操教育玩具"」というコンセプトをうたいました。それによって、商品として成立させようと考えたわけです。

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M:デザインに関しては、ほぼ最初のアイデアのままです。お父さんがホームセンターで買える範囲のもので作り、組み立てました。

 

S:あまり珍しいものを使わず、専用のパーツを作らない。そこを貫くのはすごく大事でしたね。デザインに関し、二人の考えはほぼ一致していました。鼻と口があって右手がドリル(笑)。唯一僕から「背中に車輪を付けよう」と提案し、最初は3つか4つ、背中に車輪が付いていました。当時、昔のおもちゃには「とにかく車輪が付いてりゃいいだろ」みたいなノリがあった。でも「こんなにたくさん車輪はいらないだろ」と言ったら、武笠が急に「そうじゃないとちゃんと走らない」と言って、なぜかモノ作りの正義を急に主張してきた(笑)。そこは「ちゃんと走らなくていいと思う」と言って、2つにしました。

コレジャナイロボ

こうして誕生した「コレジャナイロボ」は、リリースから約3年後の2004年、ネットショップでの販売を機にブレイク。2008年にはグッドデザイン賞を受賞し、彼らの代表作となっていった。

 

■送り手都合と受け手都合。二人それぞれのバランス感覚

 

 ところで、ザリガニワークスの二人はなぜ、コンビを組んで製作を続けるのか。設立から9年。独特のユルさと笑いを生み出すための、チームワークと役割分担とは? そんな質問に対し、坂本さんは言う。「例えばモノ作りを登山とするなら、彼らは同じ頂上を目指すとしても、まったく違う場所からスタートし、違うルートを通り、最終的に頂上で出会うんです」と。強固なチームワークの根底には、共通する目標への真逆のアプローチがある。

 

M:役割分担はもともと経験してきた仕事の流れで、製作面で言えば僕が立体担当、坂本が平面担当、という感じですね。でも最近、仕事の幅が広がるにつれ、それが逆になったりすることも出てきましたが(笑)。

 

S:一緒にやっているうちにモノの考え方の得意不得意がはっきりしてきたので、企画面では明確に住み分けしています。ざっくりと言えば、武笠は送り手都合の思考が得意。僕は受け手都合の思考が得意。武笠がアイデアを出し、それを僕が世の中につながる形にアレンジするイメージですね。

 

M:まったく同じ役割を二人でする、というやり方も確かにあると思うんです。ただ、僕らはそれができない。一般のマーケターなりプランナーなりデザイナーの方が一人でやっていることを、二人で一人分しかできないんです(笑)。

 

S:そうなんだよね。それぞれがしていることが、お互いまったくできないという(笑)。

 

M:最近さらに、自分ができない部分をお互いに強く求めるようになってきて…。「あ、そっちは俺やんないから」みたいな(笑)。よく言えば、信頼関係ができ上がっている、ということだと思いますが。

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S:武笠が突飛な面白いことを考えて、僕がそれを世の中に通るようアレンジする。そう言ってしまうとキッチリ分業しているように思えるでしょうが、あくまで「一緒に考えていこう」というスタンスです。それと実は武笠って、ただ面白いことを考えるだけでなく、どうすれば僕らと一緒に仕事をする人が喜ぶか、というアイデアを出すのも得意。「こういう人と手を組んだらこういう仕掛けができて、この人達はこの点がすごくうれしいだろう」という発想ですね。そこに対して僕が「いい話だけどユーザーさんはそれでうれしいの? 能動的にそこに参加できるの?」という部分を詰めて、必要なエッセンスを加えていく。そんな面もあります。いずれにせよ、発想から形になるまで、みんながその都度幸せになるように、というのが基本的な考えです。

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プロフィール
武笠 太郎

武笠 太郎 むかさ たろう

ザリガニワークス 代表取締役

坂本さんとの出会いは多摩美術大学の音楽サークル。卒業後、武笠さんは玩具メーカーの企画・デザイン職に就く。武笠さんが在職中に個人活動として「太郎商店」というシルバーアクセブランドを立ち上げ、デザインフェスタに出展したことをきっかけに、2004年設立。「コレジャナイロボ」や「自爆ボタン」「土下座ストラップ」など、玩具の企画開発・デザインを軸に、キャラクターデザインそして作詞作曲、ストーリー執筆など、ジャンルにとらわれぬ幅広いコンテンツ制作を展開する。

坂本 嘉種

坂本 嘉種 さかもと よしたね

ザリガニワークス 代表取締役

多摩美術大学を卒業後、何度か転職したのち大手ゲーム会社のキャラクターデザインを手掛けていた時に武笠さんと出会い、2004年に有限会社ザリガニワークスとして独立。「コレジャナイロボ」や「自爆ボタン」「土下座ストラップ」など、玩具の企画開発・デザインを軸に、キャラクターデザインそして作詞作曲、ストーリー執筆など、ジャンルにとらわれぬ幅広いコンテンツ制作を展開する。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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