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マニアを引き寄せる“ディープ”オーシャン戦略とは?

広畑 雅彦 ひろはた まさひこ さん (株)ディスクユニオン 代表取締役


音楽ソフトの小売から制作、オーディオ機器販売、そして出版事業と専門書店の運営を手がけるディスクユニオン。メインとなる音楽ソフトの小売においては関東圏で計37店舗を展開する大手だが、音楽ソフトの市場が、全盛期の約半分に落ち込むなど厳しい状況の中、マニア層をメイン顧客に据えるエッジの利いた戦略で生き残りを図っている。今回は代表取締役、広畑雅彦さんに、同社の掲げる“ディープ”オーシャン戦略、そして今後の事業展開について、お話を聞かせていただいた。

文=前田成彦(Office221) 写真=三輪憲亮


Part.1

 

■実際に深い穴を掘ったこと、ありますか(笑)?

 

 同社の歴史は古く、戦前に創業されたタクシー、中古車の売買を行うユニオン自動車をルーツとし、ラジオ、家電販売店を経て’60年代後半、レコードの取り扱いを開始。'そして70 年代から新宿などに多数の店舗を展開し、今に至る。現在は「コアな知識を持つスタッフによる、音楽マニアのためのエッジの利いたCDショップ」というイメージで捉えられる同社の現在の核となる考えが、"レッド"でも"ブルー"でもない"ディープ"オーシャン戦略。レッドオーシャン(=競争の激しい既存市場)を避け、ブルーオーシャン(=競争のない領域)を進むのでもなく、コアな"ディープオーシャン"を潜行していく、という意味の、現在の同社の基軸となる考え方だ。しかし広畑さんは「最初から尖った一点を目指していたわけではない」と強調する。

 

「正直、私達には、これがディスクユニオンのスタンスだ、という意識はあまりないんですよ。"ディープオーシャン"戦略という言葉も、たまたま話の中で『ユニオンのやり方はいわば、ディープオーシャン戦略だね』となっただけのこと。あくまで結果としてこうなったわけで、掘って掘って深いところにいるというのは最初から狙ったことではない。一つのことをコツコツとやってきて、紆余曲折を経て専門分野が確立された、ということに過ぎないんです。

確かに銀行さんなんかにも、よく言われますよ。『ユニオンさんはニッチなところばかりを攻めますね』って。

でも僕からすると、ニッチとはぜんぜん違う。大手が狙わない隙間を、最初から『ここは大手は来ないだろう』と狙うことが、ニッチ。そういう、せせこましい考えではありません

 

確かに音楽ソフトを含む全体のマーケットは世界規模であり、決して小さなものではない。そして、それぞれのジャンルに長く深い歴史があり、これまで、多くの人がそれを支えてきた。その中でディスクユニオンは、ロック、ジャズ、ソウル…とさまざまな分野を一つ一つ掘り下げることで、深みのある大きな市場を作り出していったのである。

「実際に深い穴を掘ったこと、ありますか(笑)? 実はやってみると難しくて、最初から細く一直線には掘れないんです。本当に深く掘るためには、隣接の分野に立ち入りながら、だんだん幅を広げていかねばならない。深さに比例して幅が必要になる。つまり真の専門化とは深いだけでなくある程度広さを持たなければいけないし、それだけ試行錯誤をしながら、長い時間をかけてやってきた、ということなんですよね」

 

■例え古いものであっても、進化すれば生き残れる。

 

 しかし、ディスクユニオンを取り巻く環境が厳しいのは確かだ。音楽ソフトでいえばCDの国内生産は、ピークの'98年の半分に縮小。ハイエンドオーディオ機器の市場は全盛期の9割減。出版事業も含め、右肩上がりの市場では決してない。

 

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「でも逆に聞きますが、右肩上がりの市場なんてありますか(笑)? 要は、どう捉えるかだと思うんです、右肩下がりだから、縮小しているからダメだ、と考えてしまったら、そこで思考はストップしてしまいます。

私の考えのベースになっているのは、実はヘーゲルの弁証法なんです。いや、それ自体はとても難しいし、僕もヘーゲルのことなんてほとんどわかりません(笑)。これはある方が書いた本がヒントになっていて、ヘーゲルの言う『螺旋的発展』※という言葉こそが、僕らに当てはまると思っています。新たなものが生まれる時、古いものはなくなるわけではない。古いものでも進化すれば、役割分担しながら生き残っていける、ということです。

 

つまり『レコード店、CDショップなんでもうダメでしょ!』と簡単に考えるのではなく、ネットショップはそれはそれでいいし、リアルの店舗も同じく取扱商品や販促内容、サービスを進化発展していけば、生き残る形はある、ということ。その考えの元で私達は事業をやっています。『マーケットがこんな状況で、大丈夫なんですか!?』という業界の既存企業でも、生き残る策はたくさんあると思います。

じゃあ新しく生まれ変わるために、何をしたらいいのか。その答えを毎日探しているわけです。進化するという前提のもと、なるべく多くのチャレンジをする機会を得て、一つでも二つでも当てていく、ということだと思うんですよ」

 

では、広畑さんの掲げる「ディープオーシャン戦略」とは、具体的にどのようなものなのだろう。
次回からそれを見ていくとしよう。

 


『螺旋的発展』※
ドイツの哲学者ゲオルグ・ヘーゲルの唱えた「弁証法」にある「事物の螺旋的発展の法則」のこと。「物事が進歩発展する時は、直線的に発展していくのではない。あたかも螺旋階段を登るように発展していく」という意味。「古いものが消え、新たなものが生まれることによって発展していく」というのは誤解であり、世界はあたかも螺旋階段を登るように、復古を繰り返しながら発展していく。ただし復古の際、ただ元の位置に戻るのではなく、必ず一段、高い位置に上がっている、という考え。


プロフィール
広畑 雅彦

広畑 雅彦 ひろはた まさひこ

(株)ディスクユニオン 代表取締役

1965年生まれ。
’87年にソニー入社。間もなく、第二次ビデオ戦争まっただ中に8ミリビデオの国内営業を手がけ、その後は系列店の新業態開発や、プレイステーションの立ち上げ、ポケモンセンターのプロデュースなどに携わるなど、キャリアの大半を新規事業開拓に費やす。
’95年にディスクユニオン入社。
2002年に代表取締役社長就任。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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