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アイデアとはストーリーを引き出すトリガー

武笠 太郎 むかさ たろう さん ザリガニワークス 代表取締役 坂本 嘉種 さかもと よしたね さん ザリガニワークス 代表取締役

part.3

 

■土下座。そこには人の「営み」がある

 

「この人、いったい何をやらかしたんだろう」。そんな想像力をかき立てられ、その奥に見える人間ドラマに共感できるものになる。

 そんな感触を得ることができた「土下座ストラップ」。彼らはその企画を「奇譚クラブ」という玩具メーカーに持ち込んだ。累計270万個を売り上げることになるヒット作品は、どのようなプロセスを経て商品化へ行き着いたのか。そして、二人の中で「面白い」と感じた企画を、彼らはいかにクライアントに伝え、共有していったのだろう。

 

 

武笠さん(以下M):企画書とサンプルのフィギュアを持ち込んだのですが、商品化は即決でした(笑)。まず、奇譚クラブさんは笑えるプロダクトを多く作っていて、僕らの姿勢に対する理解があった。その上で、僕らの中で企画の絞り込みがしっかりとできていた。絞り込めていない状態で持ち込むと、メーカーも不安なので、いろいろおまけを付けてほしい、となるんですよね。例えば「スマホで何かできるようにして下さい」とか「こういうものが流行っているから、この要素を入れてみて下さい」とか。その結果、もともとのコンセプトがぼやけてしまう可能性が出てくる。

 

坂本さん(以下S):先方からのそういった要望に対して、コンセプトが絞れていないと、こっちもその是非を判断できないんです。ノーもイエスも曖昧に受け答えしてしまう。でもしっかりと絞れていると、できたりする。「この要素を加えるならこっちの部分を削ることになるかもしれないけれど、それなら対応できます」といった対応ができ、もともとの企画の鋭さを維持することができる。だからコンセプトの絞込みは、関わる人の都合をかなえるに当たっても大事なことなんですよね。言い換えるまでもないですが、コンセプトとは判断基準なので、そこが曖昧だと、関わる人の多さにまんま比例して、商品の意義はぼやけ、最終的に正体を失ってしまい易い。アイデアが尖っている事、コンセプトにこだわる事、それだけを聞くと非常に頑なイメージですが、逆にそれが深く広い受け入れ力に繋がる大切な事なんです。

 

M:でも、確かに企画はすぐに通ったけれど、ディテールを詰めていく時は苦戦しましたね。

 

S:奇憚クラブさんの担当の方が造形については、武笠が最初に作ったゆるい感じがいいんじゃないか、と言ってくれて。で、やってみますとなりましたが、3回ぐらいやり直しましたね。緊張感のない笑える感じと物悲しさ。その両方が上手い塩梅で入ってくる感じにしたいね、となり、どういうテイストにするかよく考えましたね。『山口六平太』や『美味しんぼ』、あとはホイチョイプロダクションの漫画とかを読んで研究しました。それから、企画のまとめについては、土下座を含めた全体を表すシリーズ名を冠につけよう、ということになりました。

 

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シリーズ生きる-第一夜-土下座

 

M:「シリーズ生きる」というフレーズを提案したのは僕なんです。奇憚クラブさんで会議をしていて、例えば「人情シリーズ」とか、いろいろ考えていたんです。それである時、中座してトイレに行ったら、便器の正面に、黒澤明監督の『生きる』のポスターが貼ってある。あっ、これだ! と思いましたね。もともと『NHKスペシャル』風のシリーズ名が、なぜか頭にあった。ネガティブではない「生きる」というテーマをつけることで、含みを持たせることができた。そんな気がしています。

 

S:決して、土下座をサディスティックに笑おうということではないんです。「懸命に生きる人々の、日々の営みから切り取られた、ある瞬間」という核の部分が、「シリーズ生きる」という冠を載せることで補強された。そんなイメージです。具体的なものでなくても、見た人がそこから何となく想像を膨らませる事ができる。「生きる」という言葉から、いろいろなことを。

 

M:実は小学生の間でも、土下座ストラップの認知度は高いんです。大人がひどい目に遭わされているのが笑えるんでしょう。

 

S:「大人が必死にしている」というのが面白いんだろうね(笑)。

 

 

続以降結合タテ

 

■思わず「うれしい気持ちになる」現象をアイデアに

 

彼らがプロダクツを企画するにあたり、常に意識していることがある。それは、ユーザーの心の中にあるストーリーを巧みに引き出す、ということだ。

 

M:マーケティングという言葉にふさわしいのかわかりませんが、人の心の中にすでにあるものに対し、スイッチ、トリガーとなるものが作れないかなと、いつも思っています。僕らが作ったストーリーを知っていただくのもいいんですが、皆の、それぞれの心の中にあるストーリーを引き出す。それが僕の考えるマーケティングなのかな。例えば昨日、駅のホームで、「ああ~っ!」って偶然会った女の子同士がいたんです。ああいう状況ってすごくうれしいですよね。あと、共通の知り合いがいた、とかも盛り上がる。こういう、うれしい気持ちになる現象。それを何か形なり、サービスなりにできないかな、と思っているんですよ。

 

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「うれしい気持ちになる現象。それを何か形なり、サービスなりにできないかな、と思っているんですよ。」(武笠太郎さん)

 

S:初めて聞いたけど、それが太郎ちゃんのやりたいことだよね。駅の女の子の話は、新しい切り口への何かのヒントになるかもしれない。

 

M:僕がこういう話を坂本に投げるんです。それでいろいろやっている間に企画ができてくる。僕が考えているのはアイデアの種にもならないような、フワフワしたもの。坂本がそれを整えていくんです。

 

S:太郎ちゃんがやりたいことをここまで上手く言語化したのは、今回が初めてかもね。(笑)。

 

M:苦手なんです(笑)。だいたい僕が考えていることは、坂本が言ってくれるんで。

 

S:今、それそれ! って思ったよ。すごくワクワクした!


プロフィール
武笠 太郎

武笠 太郎 むかさ たろう

ザリガニワークス 代表取締役

坂本さんとの出会いは多摩美術大学の音楽サークル。卒業後、武笠さんは玩具メーカーの企画・デザイン職に就く。武笠さんが在職中に個人活動として「太郎商店」というシルバーアクセブランドを立ち上げ、デザインフェスタに出展したことをきっかけに、2004年設立。「コレジャナイロボ」や「自爆ボタン」「土下座ストラップ」など、玩具の企画開発・デザインを軸に、キャラクターデザインそして作詞作曲、ストーリー執筆など、ジャンルにとらわれぬ幅広いコンテンツ制作を展開する。

坂本 嘉種

坂本 嘉種 さかもと よしたね

ザリガニワークス 代表取締役

多摩美術大学を卒業後、何度か転職したのち大手ゲーム会社のキャラクターデザインを手掛けていた時に武笠さんと出会い、2004年に有限会社ザリガニワークスとして独立。「コレジャナイロボ」や「自爆ボタン」「土下座ストラップ」など、玩具の企画開発・デザインを軸に、キャラクターデザインそして作詞作曲、ストーリー執筆など、ジャンルにとらわれぬ幅広いコンテンツ制作を展開する。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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