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“経営レイヤー”からすべてを俯瞰する
多くの企業のブランディングや新規事業開発を手がけ、現在は大手企業のリブランディングや新規事業の創出を行う大畑慎治さん。戦略とクリエイティブを起点としたブランドコンサルティングにおける大切な考え方、そして自らプロデュースする新規事業創出プロジェクト「Social Out Tokyo’18」について、お話をうかがう。
写真=三輪憲亮
ブランドコンサルティングファームAM/Dの事業プロデューサーとしてこれまでを振り返ると、役に立っている経験の一つは「MBAの中で培った視座」だと語る。
「今の時代、MBAは価値はあるのか? と言う方もいます。僕自身も、フレームワークや手法などは、自分でビジネス書で学べば良いと考えていますが、一つ、すごく役に立っているのが、経営レイヤーの視座を持てるようになった事です。ビジネスを捉える目線が、視点、視野、視座の3つがあるとしたら、その視座の部分。経営全体における目線の高さですね。
僕が学んだMBAの教授陣は、学者畑の方はほとんどおらず、実務家教員の集まりでした。大手企業でマーケティングやブランディングのTOPとして活躍していた方々。それら教授の方々と日々議論を繰り返していく中で培った視座が、現在、クライアント企業の経営者の方と話す中での信頼につながっているのは間違いない。
もともとAM/Dのクリエイティブは、質も信頼も高い。それをさらに高めていくにも、経営レイヤーの目線でクライアントと向き合うことは欠かせません。今後、会社にとって大きな価値になるのは、質の高いクリエイティブに至るまでの設計や戦略。そのためには経営レイヤーから、すべてを俯瞰し、物事を進めていくことです」
そしてもう一つ大事なのが"戦略的鈍感力"だ。
「そもそも僕自身が元々鈍感な方なんですが、時と場合によっては、戦略的にさらに鈍感になることもあります。例えば色んな業界のメンバーを集めたSOCIAL OUT TOKYOでは、お互いに殻を脱ぎ捨てた方がいい。 そういう時には、少し馴れ馴れしいかな? ということでもあえて率先して言いながら、メンバー間の関係性を崩してもらうことに努めたりします。これは自分自身のキャラでもあるのですが、フレンドリーかつ戦略的に、人の懐にズカズカと入っていく。ただし、僕は基本的にいじられキャラでもあるので、偉そうにモノを言っても、ズカズカと入っていっても、どのみち結局いじられてしまう(笑)。上から目線といじられ具合のバランスも大事かも知れませんね。
これは最初に申し上げた『ワクワク感マーケティング』という言葉にもつながっていくのですが、何だかよくわからないけれど面白そうだな、という空気がないと、発想が豊かにならない。特にSOCIAL OUT TOKYOのように、場をファシリテートする時は、そういう空気になるように場を作っていきますし、雰囲気を見ながら臨機応変に進めています。やはり、いいものは生真面目な予定調和の中からは生まれませんから。
そして、プロジェクトマネジメントにおいてもう一つ大事な力が"巻き込み力"です。『あいつ、何かよくわからないけれど面白そうにやっているし、手伝ってやるか』。そんな風に思わせることが大事。コーポレートブランディングでも新規事業でもそうです。その人にとって大したメリットはないかもしれない。でも一人でも多くの人に『何か面白そうだし、頑張っているから手伝ってあげよう』と思わせる。その力を持っている人は強いですね」
そんな大畑さんは、自らのキャリアを10年×4つのタームで考えている。これまで、そして今後について、彼はこう語る。
「社会人として最初の10年は、化学の知識で会社に貢献しながら、徐々にマーケティング分野にシフトし、新規事業開発までを手がける。そして2つ目のタームでは、事業開発とブランド開発の実績をしっかりと積み上げていく。今はここですね。
3つ目のタームでは、産業と学術の両方にまたがるポジションで社会に貢献したい。ビジネス領域で培ったノウハウや考え方を体系立て、それを学術領域で多くの人に伝えていきたい。そして、その内容を、また自らのビジネスにもフィードバックさせていく。そんなサイクルを上手く回せたらいいですね。
そのための準備として以前は大学の外部講師をしていました。今も、ある大学の先生と親しくさせていただいていて、また来年から新たな展開もあるかも知れません。そのように、3つ目の10年に向けた準備を今、並行して行っています。
そして最後のタームは、継承がテーマ。それまで学んできたことを次世代に継承していきたい。正直、この部分はまだまだふわっとした部分も多いですけれど、そんなことを考えています。まぁ人生100年時代になりつつある今、もしかするとあと1ターム必要かもしれませんが(笑)」
戦略的鈍感力と巻き込み力を駆使し、時にはいじられながら、経営レイヤーで物事を考え、適切なソリューションを提示する。研究者としての目線と、事業プランナーとしての目線。その二つを巧みにミックスさせて得たノウハウは、きっとこれからも大きな独自の価値を生み出し続けるに違いない。