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ターゲット=カフェでノートPCを開くサラリーマン

川路 武 かわじ たけし さん 三井不動産(株) ビルディング本部 ワークスタイル推進部 ワークスタイリンググループ 統括

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もっと自由で効率的な働き方を求め、多くの企業がさまざまな試みにトライしている。その一つが、サテライトオフィスの活用だろう。三井不動産が全国で展開する「ワークスタイリング」は、組織に所属するビジネスパーソンが自分に合った新しい働き方を実現するためのサテライトオフィス。今回は、この事業を手がける同社ワークスタイル推進部の川路武さんにお話をうかがう。

写真=三輪憲亮


Part.1

 

■ビジネスマンがサテライトオフィスを有効活用する時代

 

 いわゆる「働き方改革」において柔軟な働き方を模索する中、企業がサテライトオフィスの活用を視野に入れつつある。シェアオフィスのサービスが多様化する中、2017年4月、三井不動産は法人向けシェアオフィス「ワークスタイリング」を立ち上げた。さまざまな会社の社員が、場所や時間にとらわれずに利用できるこのオフィスは現在、全国30拠点で展開されている。

 

「フリーランスやベンチャー企業向けのコワーキングスペースやシェアオフィスは以前からありましたし、私達もこれまでいくつか手がけてきました。しかしながら『法人向け多拠点型シェアオフィス』というコンセプトは、これまでになかったものです。

 

いわゆるコワーキングスペースには大きめの机が並んでいて、だいたい毎日来られる会員さんがいます。またドロップインとよばれる、会員以外の方が時々、臨時で使用する、そういったサービスが多いと思います。でも『ワークスタイリングSHAREに毎日必ず出勤する人はほぼゼロです。いわば会員制のドロップイン利用の集合体とも言えます。全社員が使えたり、部署単位で登録していたりと、会社によって契約状況はさまざま。社員3000人が使うことができ、毎日そのうちの約1割ぐらいの方が全国どこかのワークスタイリング拠点を利用している、そんな会社さんもあります」

 

 

 語るのは、この事業を手がける同社ワークスタイル推進部の川路武さん。ワークスタイリングは、30人近くが入れるセミナールームや大小さまざまな会議室、多くの人がランダムに座れる大きめのテーブルや、少人数でオープンな打ち合わせができるスペース、そして集中して仕事ができる区切られた一人用の席など、用途に応じたさまざまなスペースを備えている。

 

「5年ぐらい前からでしょうか。個人やフリーランスが自宅の他に自らのオフィススペースを持つという、新しい働き方が生まれつつありました。でも、一般のスーツを着たサラリーマンが、カフェではない場所でちゃんと仕事ができる状況には、まだまだなっていなかった。朝にカフェでノートPCを開いて作業している人は、たいていはMac片手にジーパンTシャツ姿。そんな印象でした。

 

でも、この3年ぐらいでしょうか。状況が明らかに変わってきた。例えば朝に東京駅前のカフェに行くと、ダークスーツを着たビジネスマンがノートパソコンで作業されている。そんなシーンが当たり前になりつつある。つまり、会社がノートパソコンを支給し、どんどんモバイルで仕事しなさい、と奨励する時代が来つつある。そうなると、カフェでメールを返すよりも、自宅と会社以外の場所にあるサテライトオフィスを積極的に活用する時代がやって来るだろう。その確信がありましたし、何より、私達自身がもっと自由なスタイルで働きたいと思っていました。

 

 

当社社員の中にも、そういうスタイルで仕事をしたいと考えている人はたくさんいました。でも以前はスマホの貸与もなく、パソコンも持ち出せず、会社ですべてのデスクワークをこなさねばなりませんでした。例えばお客さんの会社に出かけて、そのまま帰り際に報告書を書いてしまいたい。けれども、場所がないしネット環境も整っていないから、時間のムダがあっても会社に帰らねばならなかった。発想を変えるために、カフェのような場所でリラックスして考えたい。パートナー会社とWEB会議で連絡をとりつつ、考えたことをその場で資料に落とし込める。そういった非効率な部分に対するジレンマが、以前からあったのは確かです。

 

私達は企業向けのビジネスをずっと手がけてきました。それならば企業を立脚点にして、そこで働く方々が抱えてるジレンマをビジネスに変えていくのがベストではないか。そう考えた結果、生まれたのがワークスタイリングでした。働く場所をシーンに合わせて選べるように、しっかりした環境を備えた拠点を整備していこう、となったわけです」

 

 

■働き方の変化で、ビルのあり方も変わる

 

 プロジェクトの構想段階で、日本企業の働き方をどう分析していたのか。昨年、ワークスタイリングを立ち上げた背景について、川路さんはこう語る。

 

「日本企業に限ったことでもないのですが、企業の指示命令系統は多くの場合、垂直投下型です。あるミッションに対し、指揮官がいて部下がいる。それはある意味、軍隊に似ていて、簡単に言うと『上司の前に座って、上司の前で成果を出せ』というものです。でも、そういった働き方というのは『ワークライフバランス』における『ライフ』の部分に制限がかけられる。それが今までの働き方だったように思います。ところが、インターネットテクノロジーを使うことによってライフの制限が少なくなり『上司の前にいなくても、成果が出ればそれでOK』という世の中がやって来るはずです。

 

多くの日本企業において、これまでの仕事における評価基準は働いた時間でした。そういった仕事の仕方は、シフト制の作業業務には適しているかもしれません。でも、クリエイティブな発想や時間によらない“成果”が求められる仕事については、必ずしもそうではない。今は、多くの企業が適度なバランスを探っている状態ですよね。ベストの均衡点を探りつつ、ハイパフォーマーにもっと自由に能力を発揮してもらう環境を整える。それが今、必要なことなのだと思います」

 

 

 政府は現在「働き方改革」と称し、長時間労働の削減を目指している。そして少子化の流れの中、先進国で中位以下とされる一人一人の生産性を向上させることもまた、急務となっている。

 

「労働時間の削減は、ライフの充実以上にセーフティネットという意味でも優先度の高い課題です。でも、一人一人のパフォーマンスを上げて生産性を高めよう、という段階ではそれだけでは不十分だと思います。ですから、遊びに出かけた先で仕事のことを考えた方が優れたアイデアが出るのであれば遊びに行った方がいいし、それは必ずしもオフとは呼べませんよね。つまり、仕事とプライベートの境目はどんどんなくなりつつある。ちょっと大げさな言い方ですが、遊びが仕事になり、仕事が遊びになる

 

ワークスタイリング 東京ミッドタウン(https://mf.workstyling.jp/

 

そんな風に、日本企業における働き方が変わっていく予感がひしひしとあったこと。それが、ワークスタイリングを立ち上げたもう一つの理由でもあります。なぜなら、われわれのメインの仕事はビル事業。つまり働き方の変化で、ビルのあり方も変わる可能性があるということです。その変化をいち早くつかみ、対応できれば、ビジネスは今後も続いていく。働き方というソフトの進化を理解するビルの事業者が、いち早くそれをハードに落とし込んでいくことができたら、ビルの選別が始まるかもしれないこれからの時代で、生き残ることができる。だからこそ私達も、働き方の変化をしっかりつかんでおかねばならないと思っています」

 

 次回Part.2は、ワークスタイリングの大きな特徴について。

 

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プロフィール
川路 武

川路 武 かわじ たけし

三井不動産(株) ビルディング本部 ワークスタイル推進部 ワークスタイリンググループ 統括

三井不動産株式会社 ビルディング本部ワークスタイル推進部ワークスタイリンググループ統括。
1998年三井不動産入社。官・民・学の協業による街作りプロジェクト「柏の葉スマートシティ」など、さまざまなコミュニティ作りや環境マネジメント案件に携わる。その後ブランドマネジメント業務を経て商品開発室にて新規事業の創出などを手がけ、2014年よりビルディング本部へ。
また個人としてNPO法人「日本橋フレンド」を立ち上げ、朝活イベント「アサゲ・ニホンバシ」を開催するなど、多方面で活躍するコミュニティ作りのプロ。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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