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顧客を選ぶ理由

森田 隼人 もりた はやと さん モリタ空間デザイン事務所 CEO、COO

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「六花界」「初花一家」そして「クロッサムモリタ」など、ユニークな焼肉店を7店舗経営する森田隼人さん。顧客のロイヤリティを作り出し、VIP感を巧みにくすぐる独自のファンマーケティング手法、そして日本の焼肉業界を変えていくための独自の取り組みについて、紹介していく。

写真=三輪憲亮


Part.2

 

■牛丼店と焼肉店の間を取る

 

 なぜ、六花界~クロッサムモリタのユニークなビジネスモデルが成り立っているのか。それを知るには、森田さんのキャリアを理解する必要がある。もともと建築士だった父親の影響もあり、大学卒業後は建築設計事務所に勤務。そして24歳で独立。大阪で自ら設計事務所を立ち上げ、さまざまな仕事を手がけた後、東京へ。そして公務員を経て、飲食の道へ。

 

「この仕事は設計とはぜんぜん違います。僕は街のさまざまな設計を手がけていたのですが、例えば地権者と話をまとめ、それをクラッシュ&ビルドするのは基本的に5年、10年という年月がかかります。さらにエンドユーザーの生活の変化を見るまでには10年、20年が必要。その点、食はごく少ないお金で一喜一憂するんですよね。例えばある店のハイボールが380円だったら『じゃあうちは379円だ!』と、たった1円を獲りに行く。そのために死ぬ気で努力をするのです。それが、素晴らしい魅力だと思いました。

 

実は当時、僕はプロボクサーでもありました。ボクシングをやるに当たり、大事なのはハングリー精神です。当時思ったことが、頑張っているボクサーの後輩達が勝つために役に立ちたい、彼らにおいしいものを食べさせてあげたい、ということでした。じゃあ、それは魚なのか? 野菜なのか? いや違う。肉だと。肉を食べなきゃ、人を殴り倒そうなんて思えない。それなら焼肉店をやろうと思いました」

 

 

 その中で、一つのルールを定めた。大阪での設計事務所を経営していたころに蓄えたお金や人脈には手をつけず、東京に出てきて公務員として働いてもらった退職金、200万円だけでスタートしようと決めた。制約があるからこそ、面白いアイデアは生まれる。森田さんは、200万円という枠の中でいったい何ができるのかを考えた。結果、見つけたのは東京・神田のガード下にある小さな物件だった。

 

「お金が限られていますし、まずは主に自分で全部やってと考えたら、広い店は無理。その時に見つけたのが、たった2.2坪しかない元金券ショップの物件でした。これが、今の六花界です。座ると3~4席が限界なので、それではビジネスとして成立しない。それなら座席を設けず、立ち食いにするしかない。じゃあ立ち食い焼肉が当時あったかというと、どこにもなかった。その時、僕は思ったんです。『なぜ、誰も立ち食い焼肉をやっていないのだろう? 絶対に面白いし、人気が出るのに』って。

 

そりゃ、そうですよね。軽い気持ちで肉をさっと食べたくて、わざわざ焼肉店に行く人なんていない。いわゆる焼肉店は敷居が高すぎるからダメなんです。ふらりと気楽に入って、1000円、2000円払っておいしい肉を食べて帰れる店があってもいい。それがないから、牛丼店が街にたくさんあるわけです。それなら、牛丼店と焼肉店の間を取ればいい。そこで単価設定を2500円から3000円程度として、誰でも気軽に入れる店として六花界を作ったわけです。

 

大事なのはポジショニングです。焼肉業界にはピラミッドのような形、いや厳密に言えばトランプのスペードのような形をしたヒエラルキーがあります。その中で、自分はいったいどこにいるのかを、しっかり把握することが大事です。僕が大事にしたのは、安くておいしいこと。いい肉がめちゃくちゃ安くてうまければ、ニッチな立ち食いの焼肉店であろうと、流行らないわけがない」

 

 

■「必要な人」と「必要じゃない人」を分ける

 

 六花界がオープンしたのは2009年7月。立ち食いの焼肉店というユニークな業態はすぐさま話題となった。店のならわしが、新しい客が入店すると、ファーストドリンクの時に店長の音頭で全員で乾杯すること。そして店が狭いことで、お客さんが協力して奥にいる人にドリンクや料理を手渡しすることも。店の狭さを逆手に取り、コミュニケーションを生み出している。

 

六花界で僕が表したかったのがコミュニケーションです。今の時代、多くの物事は平面では成立せず、多面的かつ立体的に考える必要があります。それはコミュニケーションも同様。ソーシャルメディアでの関係性があり、リアルなつながりがある。

 

フェイスブックやツイッターなど、ソーシャルメディアはいろいろあって、どれもすごく面白い。そんなバーチャルなつながりとともに、肌に触れて恋をして結婚をしたり、仲間ができて一緒に会社を作ったり、というリアルなコミュニケーションも存在する。そこで僕は、食におけるコミュニケーションの一つの形を六花界というとても小さなお店の中で表現し、一つのソーシャルを築こうと考えたのです」

 

 店を立ち上げる際に、痛感したことがあった。それはまず、自分の中に軸を持つこと。そして、他人のアドバイスに足を引っ張られないことの大切さだった。

 

 

「人は善意で人の足を引っ張るものなんです。例えば数十年来の大親友なら、わかってくれる人もいるでしょう。でも、そこまで行っていない友達は、何かをやろうとした時に『立ち食いで焼肉なんて本当に大丈夫!?』『200万円あるならば貯金して、まともに働きなよ。そうすれば食っていけるよ』などと言って、足を引っ張る。そして彼らの言葉によって、多くの人は思いとどまってしまう。それではダメだし、そういう人が時に弊害になる。

 

僕がビジネス上で大事にしているのは、まず自分の中でワクワクしていること。次にロジックがちゃんと成り立っていること。そして、立ち位置です。僕で言えば、焼肉という大きなマーケットの中で、自分がどこにいるかを客観的に見る。そこがしっかりできていれば、人の言葉に心が揺らぐこともないはずです」

 

 そして、自分がやりたいことをやるためには、必要な人と不必要な人を選別せねばならないことも、この時に思い知ったことだった。

 

「きっかけはオープン初日のこと。早々に来て下さったお客様に、ウチは今日オープンしたばかりなんですよと言うと『おめでとう。いい時に来たなあ。じゃあお酒を一杯おごるよ』と言って乾杯して下さったんですね。その後もお客さんが3人ぐらい続けて来て下さって、全員で乾杯しました。初日のお客さんは10人ぐらいでしたが、初対面の方達にお祝いしていただき、すごく楽しかった。

 

そして翌日。また別の方が来て下さったので、昨日オープンしたので乾杯していただけますかと言ってみました。ところが今度は『あ、俺そういうのどうでもいいから。静かに飲みたいんだ』と断られてしまって…。

 

そんなことがあったので乾杯はやめて、1週間ほど経ったある日、初日の方が再びいらして『久しぶりだね! 乾杯しようよ』と。でも、ご迷惑になるので乾杯はやめたんですよ、と返すと、その方がおっしゃるんです。『何言ってるの? 俺と乾杯したいの? したくないの? お前はその客を取るの? 俺を取るの? どっち?』って。

 

 

その時、思いました。飲食店をやっていくには、お客さんを選ばなきゃいけない。やりたいことをやるには、必要な人と必要じゃない人をしっかりと分けなきゃダメなんだ、と。お客様を選ぶことがすべての店に共通する考えになったのは、この時の経験からでした」

 

 次回Part.3では、森田さんが肉とともに大切にしている日本酒、そして「初花一家」「吟花」のビジネスモデルについて、話を掘り下げていく。

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プロフィール
森田 隼人

森田 隼人 もりた はやと

モリタ空間デザイン事務所 CEO、COO

1978年大阪府生まれ。大学卒業後、建築会社の会社員を経て25歳で独立。デザイン事務所「m-crome」を設立。公務員を経て2009年、東京・神田のガード下に「六花界」をオープン。多くのメディアに取り上げられ大人気に。その後「初花一家」「吟花」「クロッサムモリタ」など計7店舗をオープン。第12代酒サムライとして日本酒の普及活動も行っている。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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