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「面白くすること」に集中を

三浦 展 みうら あつし さん (株)カルチャースタディーズ研究所 代表取締役

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高度情報化社会の実現、そして、テクノロジーの大きな進歩によって激変するコミュニケーション。2018年も大きな変化が見込まれる日本社会において、われわれは何を考え、何を目指して行動すべきなのか。80万部のベストセラーとなった「下流社会」や「第四の消費」、「中高年シングルが日本を動かす」等の著者であり、マーケティング・アナリストの三浦展さんに、これからのマーケターのあるべき姿を聞いていく。

写真=三輪憲亮


Part.2

 

■マーケターは専門職であるべき

 

「右も左もわからない人がうろうろしているのが、日本のマーケティングの現状。企業内マーケターは皆、素人ばかりです」

 

 三浦さんはそう語り、マーケターのあり方について苦言を呈する。

 

「そもそも今の日本に、マーケターという専門職はないようなもの。『30歳まで営業をやっていました』『研究職でした』という人が、33~34歳になってマーケティングの部署に配属、といったケースがほとんど。つまり、彼らは『たまたまマーケティングの部署に配属された人』に過ぎません。

 

本来、マーケターは専門職であるべきです。そして税理士や会計士のようなスペシャリストとして、ふさわしい給料をもらうべき。でも日本の会社では、多くの場合『社長を目指す』『部長を目指す』というように、目標とするのは社内における役職であって、マーケターのような専門職種ではない。それは、スペシャリストの専門的能力に対してお金を払う土壌が、そもそもないからです」

 

 でも、マーケターは本当に面白い仕事である。それもまた本当のことだ。

 

何をしてもそれが仕事になる。こんなにいい仕事はありません。でもその反面、上司から言われたことをただやっているような人ができる仕事ではないと思います。

 

 

マーケターは『賢くなる職種』だと思います。優れたマーケターになるには、たくさんの知識が必要です。国勢調査など各種統計データ、今人気のある商品、店舗、デザイナー、本や海外のトレンド、街の中から感じ取る情報、まさに何でも知っていなければなりませんからね。

 

優れたマーケターと評されるぐらい物事を知れば、社長だってバカに見えますよ。そこがまさに問題で、企業が自社の専門職としてマーケターを育てないのは、社長をバカにする人が育つからです(笑)。『社長、何をそんな根拠のないことを言っているのですか?』という感じでね。

 

だから、スペシャリストとして能力が高いマーケターは、マネジメントよりマーケティングが好きになるはずです。優れたテレビ番組のディレクターや人気雑誌の編集者と同じですよね。彼らはテレビ局の解説委員や出版社の社長には、なりたがらない。それは現場にいたいからで、マネジメントがしたくてその会社に入ったわけじゃありませんから。マーケターも同じです」

 

■『モノ作りの国』『おもてなし』という考えが生産性を下げる

 

 また三浦さんは、いわゆる『モノ作りの国』『おもてなし』といった考え方がこの国の生産性を著しく下げている、と語る。

 

「そろそろ『日本=真面目なモノ作りの国』という考えを重視しすぎない方がいい。確かに、それは大事だが、そこに固執することで、時代のスピードについていけなくなっている。

 

 

ビジネスにおいては『いかに楽をして儲けるか』を考えるのは当然のことです。頭のいい人ほど、それを実行していますよね。確かに学者のように、どんなに苦しくても、まるでお金にならなくても研究したい、という職業はある。でも私達は学者じゃない。極論すれば、人の10倍仕事が早ければ、1日1時間だけ働いて、あとは遊んでいればいいわけです。でも日本人は、なかなかそう考えられない。『遊んでいる=悪いこと』と、生真面目にとらえてしまう

 

 確かに日本人には、ハイスペックな商品を生み出す能力も技術もある。だが、その商品が売れるかどうかはまた別の話。売れる商品=スペックが高い商品ではないからだ。

 

「つまり、日本のモノ作りの発想は永遠にプロダクトアウトで、マーケットインではない、ということです。例えば、日本の自動車メーカーに商品企画の部署ができたのは、たかだか20年足らず前のこと。それまで商品企画をつかさどっていたのは、技術本部や営業本部です。商品企画の部署を作ろう、という発想自体なかったわけです。そして今も当時の発想を引きずっていて『よけいなものを作りましたが、どうしたら売れますかね?』という感覚が抜けていない。

 

 

『おもてなし』という言葉も同じです。老舗旅館の女将のような仕事はともかく、一般的なビジネスでおもてなしを意識し始めたらキリがない。会議の座席表とか弁当の手配までホワイトカラーが考えている。パワポできれいな図をつくるために残業する。それが生産性を下げてしまうわけです。そういうたぐいのおもてなしはやめるべきだ。もっとスピードを上げて、本質的なことだけに集中すべき。大事なのは、走りながら考えるような感覚です。

 

日本人の仕事は明らかに過剰品質だと思います。100ページの資料のうち、必要な部分はたった10ページ、いらない部分が90ページで誰も読まないような資料を作るために、徹夜をする。そんなことは、あまりにもバカげている。パワポづくりで残業する時間があったら街に出ろ、と言いたいです。資料作りはそれが上手な人に任せて、マーケターは『面白いこと』を見つけることに集中すべきで、『作業』は今すぐやめねばなりません。机に張りついてパソコンをこちょこちょといじることが仕事だと思わないでほしい」

 

 Part.3では引き続き、三浦さんの考えるマーケターの働き方について掘り下げていく。

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プロフィール
三浦 展

三浦 展 みうら あつし

(株)カルチャースタディーズ研究所 代表取締役

マーケティングアナリスト。消費社会・社会デザイン研究者。株式会社カルチャースタディーズ研究所代表取締役。
1958年生まれ。一橋大学社会学部を卒業後、1982年にパルコ入社。1986年に同社のマーケティング雑誌『アクロス』編集長就任。1990年に三菱総合研究所入社。
1999年に独立し、株式会社カルチャースタディーズ研究所を設立し、代表取締役に就任。著書に『下流社会』(光文社新書刊)、『第四の消費』(朝日新聞出版刊)など多数。201711月には『中高年シングルが日本を動かす』(朝日新聞出版刊)をリリース。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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