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monomyのスキームを1つ確立し、横展開していく
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monomyのスキームを1つ確立し、横展開していく
素材を組み合わせるだけで誰もがアクセサリーを作ることができ、購入や販売もできるサービス「monomy」が人気を集めている。企画したのは、株式会社FUN UP代表取締役の山口絵里さん。「モノづくり×IT」で日本の製造業をリプレイスしようと考える彼女の「企み」をうかがう。
写真=三輪憲亮
2016年にローンチされたmonomy。山口さんはこのシステムをアクセサリー以外に横展開することで、日本の製造業の川上にいる人達に大きなメリットを与えられると考えている。
「monomyのビジネスモデルはアクセサリーの他、スニーカーや眼鏡、靴、カバン、財布、傘…何にでも応用できます。ですから正直に言うと、早く他のプロダクトに横展開していきたい気持ちがあります。アクセサリーだけでは、男性にはまだまだ理解していただきにくいですし。
例えば家具は、もともと考えていたアイデアです。今座っているこの椅子がほしいとすると、デザインはこのままでも部分的に色や素材を好きに変更して、自由に自分だけの椅子を作ることが可能です。他にも、傘なんていいですよね。もとの型さえあれば、好きに色を選んだり金具を変えたりすることもできます。あとは、デザインや革の種類を好きに選んで財布をオーダーしたり。いろいろなモノに展開できます」
大切なのは、monomy上でモノを作ると、日本の川上にいる製造の人達に必ず注文が入る、という仕組みだ。
「今、展開しているアクセサリーは、自社ですべてのスキームを構築するため、パーツの用意から工房を持ち製作、発送までこちらで行っていますが、今後他のものに展開していく場合、製造そのものを川上にいる人達に託すことになります。そこまで行ければ、ユーザーさんは作ったり試着したり、作ったモノをほめられたりを楽しむ。そして作り手も、楽しんでいいモノを作る。そんな関係性が生まれると思います。
今後、VRのテクノロジーを融合させたら、さらに面白くなるでしょう。家具であれば、自分の好きなものをアプリの中で作り、それをVRの技術と組み合わせて、自分の部屋にディスプレイしてチェックするようなことも、できるようになる。
また、例えば全国の靴職人さんやメーカーから靴型のデータをいただき、それをデータとして持っておく。ユーザーはVRで自分の足型を取り、その情報を入力すると自動的にマッチングされ『あなたの足に合う靴はこれです』というようにレコメンドされる。その中で自分の中の好きなように色やデザインをアレンジできたら、ネット上だけでオーダーメイドができる。そんな仕組みがあったら便利ですよね」
ポイントは「多くの人が支持するデザイン=圧倒的に売れる」というスキームが構築されていること。それにより、ムダな在庫を持つ必要がない。
「そうなると、ロットでの生産対応もありですよね。例えば今が春で、秋物のトレンドがわかってるのなら、秋物を今から作ってもいい。もっと言えば、定番商品ならば、季節を考えずに作ってもまったく問題ないと思います。それが投稿され、ほしい人達が同じタイミングで一定以上集まれば作る、集まらなければ作らない、ということもできる。
つまり、受注に先行してモノを作る必要がない。メーカーやお店が倒産する時、多くの場合、売れずに在庫処分ができないことが理由になります。その点、うちはインターネットサービスを作ってるので開発コストはかかりますが、在庫の負担はほとんどない。そして、それが生産者と消費者への還元につながるわけです。実際今のmonomyではそれが成立しています。」
山口さんが考えているのは、日本のモノづくりの構造を変えていくことだ。日本のモノづくりの欠点は、作り手と消費者から、それぞれの姿がまったく見えないこと。それが完全に見える仕組みが構築できれば、消費者が作り手の価値を理解してから直接、要望を出し、お礼の言葉を言うこともできる。そんな状況ができれば、日本のモノづくりはもっと進歩するはずだ。
「今の時代はインターネットのおかげで、製造業の川上にいる職人さんと直接コンタクトして、彼らの技術やこだわりを価値につなげることができる。例えば20年間イタリアで修行していた人、靴のメーカーでずっと同じ靴を作っていた人など、職人さんによってキャリアや得意不得意、そして思い入れやこだわり、センスなどがそれぞれあるはず。私達はそれをITの力で上手く伝えて、大きな価値にしていきたい。
もしもお気に入りの美容師さんのように、自分の足型のことや足の形をなんでも知ってくれている靴職人さんがいたら、長い関係になる可能性ありませんか? そんな風に、消費者から作り手が直接見えるようになったら、作り手のモチベーションも上がる。
例えば福井県の鯖江には腕のいい眼鏡職人さんがたくさんいて、世界で有名なブランドが鯖江で眼鏡を作っていたりする。でもその裏には、職人さん達の手が余っていたり、すごく安い値段で作っていたり、という現実がある。彼らの段階でのコストは決して高くないのに、商社さんの中間マージンを取ることで、手が出ない最終価格になっている面がある。でも、消費者と作り手が直接つながる仕組みができれば、消費者と作り手それぞれに、大きなメリットが生まれます」
今後は、日本の伝統工芸品を海外へ紹介していくことも考えている。
「日本の古くからの伝統工芸品は今、消えつつあります。でも、外国人を中心にまだまだニーズはある。例えば彼らが日本の茶碗をほしいとなった時、著名な日本の作家さんに直接オーダーできて、匠の技で自分がオリジナルの筆入れをした焼き物が桐の箱に入って届いたら、きっと感動しますよね。そういったサービスも、この仕組みができれば十分可能になる。
海外には、日本の伝統工芸品のことを日本人よりよく知っていて感慨を受けている外国人がたくさんいます。メイド・イン・ジャパンの素晴らしさは、むしろ世界の人達が知っている。21歳で世界一周をした時、多くの人から『日本のこんなモノが素晴らしかった』『日本の着物がすごく美しかった』というように、日本の伝統工芸品や文化についていろいろなことを語られて、その中には、私も知らないこともたくさんありました。
だからこそ、日本のモノづくりをや動画、ストーリーで、もっと国内も海外にも発信していくべきだと考えています。日本の職人さん達のモノ作りに対する真摯な姿勢がストーリーとして紹介されたことは、これまでほとんどありません。もしそれができれば、さらに大きな価値が生まれるはずです。そして職人もただ伝統を頑固に守っているだけではダメ。消費者の考えを知り、自分達の技術と今のトレンドを掛け合わせて、新しい価値を生み出していかねばなりません。でも日本の職人さんはアナログな人が多く、発信は苦手。その部分をいかにデジタルで本質をプロモートしていくか。そこに私達のバリューがあると考えています」
今、まさに分岐点にある日本のモノづくり。monomyの仕組みがさらに機能することで、日本の製造業はきっと生まれ変わる。山口さんはそれを確信している。
(終わり)