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MAツールが"マーケターのオモチャ"であってはならない

加來 幹久 かく もとひさ さん (株)デジミホ 代表取締役

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part.3

 

■コンサルティングでは、送信メールの件名まで詰める。

 

2013年にデジミホがローンチしたMAツール「R∞」を導入した企業の多くは、売上を大きく伸ばしている。



「導入だけいただいた場合でも、おおむね前年比110~125%ぐらいは伸びている企業さまがほとんどです。コンサルも含めて導入いただいた場合ですと、前年比160~200%超えもあります。ミニマムで月額2万9800円からの投資で売上が10%伸びれば、それだけでも大きな成果だと思いますし、もちろん、コンサルティングの重要性は非常に高いです。

デジミホは、クライアント1社に1人のコンサルタントがつきます。そして、例えばカートの中に商品が入りっぱなしになっている時のリマインドメールや初回利用者へのフォローメールなど、複数のシナリオをきめ細かく考えてフォローしていきます。例えばあるメーカーさん向けの策では、CVR51.7%というものもありました。つまり、メールで連絡した2人のうち1人が購入して下さったわけですね。

ただし、売上を伸ばすためには単発の施策だけでは当然ダメで、いくつかの策を掛け合わせながら連続的にストーリー性のある施策を実施する必要がある。特にその部分には、私達が10年以上にわたって手がけてきたさまざまなノウハウが存在します。今の時代は、人が処理できるキャパシティを超えた量の情報があふれ返っている。ほとんどの人はそのすべてを見ることができないし、見落としてもいる。でもマーケティングオートメーションのシステムを活用しながら私達がコンサルに入ってそこをきめ細やかにチェックしていくことで、売上は意外とシンプルに伸びていくものです」

 

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コンサルを行う際は、顧客へのメールの件名まで詰めるという。

 

「例えば特別セールを行うとして、件名に『タイムセール』と入れるのと『限定』と入れるのでは、開封率はどちらが高いと思います?これは『限定』なんです。なぜかというと『タイムセール』は、メールを見た時すでに終わっているかもしれませんよね。例えば夜、家に帰ってからメールをチェックしたら、昼間に配信されたメールの件名に『タイムセール』と書いてあった。これは、そのままゴミ箱行きです。

私達はそこまで詰めていきます。もちろん、企業さん自身でもそういった努力はできますが、デジミホにはこれまで多数のコンサルを手がけてきた実績と、貯め込んできた知見がある。それが生きてくるわけですね。

 

 

タワーレコード様事例
タワーレコード社でのアウトバウンドDM実施事例。ただ送れば良いというのではない、効果を向上させるためのノウハウがデジミホの強みだ。

 

前回も申し上げましたが、他社のMAツールと比較してR∞を導入する理由としては安さや、施策の拡張性の他、使いやすいUIも大きい。通常はキャンペーン作成やセグメント作成など、難しい設定、設計をすることから始まります。でもR∞は、画面を見れば何をすればいいかすぐにわかる、シンプルな構造になっています。

選択するとは、何かを捨てること。取捨選択の結果生まれたシンプルなUIには、10年間手がけてきたコンサルティングのノウハウから来る知見が詰まっています。ですから、アルバイトのスタッフでも施策の実行や上長への報告も管理画面上でそのまま実行できるため、使いこなすことができるわけです。複雑な構造をよしとして、MAツールを"マーケターのオモチャ"にしてはいけない。その点は、常に社内でリマインドし続けています

■お金が足りなくなると、借りてきて飲んでいた。

 

そんな加來さんは、社会人としてのキャリアを商社でスタートさせた。

 

「創業130年ぐらいの会社に6年半ほど在籍し、半導体やハードウェアモジュールの輸出入や、海外のさまざまなソリューションをローカライズして、国内に流通させる仕事などを手がけてきました。決して意識していたわけでありませんが、今思うと、当時の仕事はマーケティングに近かったです」

 

その後はグラフィック制作のプロダクション勤務を経て、起業へ。

 

「将来自分でやる、ということは、最初の会社に勤めているころから意識していました。二つ目の会社を半年ぐらいで辞めた時、今さらまた就職するのも嫌だった。そこで知り合いが持っていた会社を借り、コンサル事業を立ち上げました。

当時はぜんぜんお金がなかったんですよ。若いころなんて、もらった給料はみんなお酒で消えてしまうもの。お金が足りなくなると、借りてきて飲んでいたぐらいでした(笑)。そんな状態で最初の会社の先輩に『会社と資金を貸して下さい』と頼んだら『300万まで好きに使っていいよ』と言っていただきまして…。今思えば、すごいですよね。いきなりやって来た後輩に、会社と300万円を好きに使うことを許可するなんて(笑)。
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手がけたのは今の事業のベースとなる、デジタルマーケのコンサルティングでした。顧客のユーザーシナリオを考えて、いわゆる"受けページ"、今で言うLPに集客するものです。当時はデジタルマーケティングの経験は誰にもなかったし、広告代理店もネット広告にはまだあまり参画していない時代。ベースとなる考え方は商社時代にやってきたマーケット作り、つまりユーザー心理を考えたりターゲットを設定していくことの延長でしたが、正直、手探りでしたね。

どうすればプロモーション効果が出るのかを考えるのは基本的にクライアントの企業ですが、当時は彼らの社内に"ネットマーケティング部"なんてありません。集客して、売上を上げるために大事なのは、どれだけ考えるか。でも考えるのは、人間にとって一番しんどい作業でもあります。私達はそれを代行したわけですが、他の誰もがわからない中で試行錯誤して、今につながるコンサルティングのノウハウを積み上げていきました」

 

2003年から2004年の1年半をかけて1000万円を貯め、それを元手に2004年にデジミホを創業。そこからノウハウをさらに蓄積させ、2013年末にR∞を立ち上げた。

 

「デジミホを作ってからも、事業のメインはコンサルティングでした。ただし、コンサルは労働集約型の仕事で、人材に依存する部分が非常に大きい。スタッフの教育に時間を要しますし、そこにはよさと悪さが併存します。この状態から会社としてワンランク上のステージに上がるためには、サービスをつくって広めていく必要があると考えました。
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でも当時、日本はまだMA(マーケティングオートメーション)という概念がそれほど浸透していませんでした。当時流行していたのがDMPの概念です。企業が徐々に、DMPをベースに自社サイトに集客することに目を向けつつあり、私達のクライアントからも、CRMを見てほしいという要望が高まりつつあった。そこで、クラウドサービスで比較的安価で提供できるMAツールを作ろう、という流れになったわけです」

 

R∞の構想から実際のローンチまでは、半年以上を要した。

 

「大変でしたね。僕にはシステム開発の知識がありませんし、当時、社内にエンジニアは一人もいなかった。そこでフル外注で制作したらバグだらけで、想定しているデータ量をさばけないなどの問題点が続出しました。システムをわかる人間が誰もいないのに、外注しちゃった。それが一番の問題点ですね。最悪でした。

そこで猛反省してエンジニアを採用し、仕切り直しました。今はアール・エイトの開発だけでも、総勢40名近くのエンジニアでやっています。今後さらに増えていくぐらいですから、当時からそのぐらいの人数、エンジニアが必要だったわけです。今思うと、なぜそんな馬鹿なことをしたのだろうと思いますね」

 

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2013年末にR∞をローンチした時点では、MAに予算を割いている企業はほとんどなかった。

 

「まずはMAとは何であり、そのメリットは何なのか、ということの説明から始めねばなりませんでした。そもそも経営者から見ると、メールは無料で顧客にアプローチできるのに、なぜCRMにお金をかけるのか、わからないわけです。そこを理解してもらうまでには、かなりの時間が必要でした。

当時すでに、多くの企業が既存顧客のリピート施策の重要性については意識していました。でも、いざMA施策を実行しようとすると、マーケティングの部署や新規集客管理の部署、広告出稿担当の部署、情報システム部などさまざまな部署が関わることになる。すると、どこがオーナーシップを取っていいのかがわからず混乱し、プロジェクトが難航するケースが多々ありました。縦割り構造の会社がまだまだ多く、私達はそこをつないでいくこともしなくてはならない。それには苦労しましたね。最近になってMAの概念が徐々に浸透し、R∞の実績が知られ、売上を実際に伸ばす企業が増えたことで、やっと流れが来た感じです」

 

第4回では、R∞そしてデジミホのこれからについて、深く掘り下げていく。

 

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プロフィール
加來 幹久

加來 幹久 かく もとひさ

(株)デジミホ 代表取締役

1974年栃木県生まれ。’96年から商社で半導体やハードウェアモジュールの輸出入などを手がける。2004年に株式会社デジミホを設立。デジタルマーケティングのコンサルティングを行う。2013年末にMAツール「R∞」をローンチ。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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