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ECサイトの資産となるノウハウを積み上げたい
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ECサイトの資産となるノウハウを積み上げたい
スマートフォンを使ってオンラインショッピングを利用する人の増加につれて、現在、注目されつつあるサービス「Flipdesk(フリップデスク)」。ネットショップ上で、実店舗のような接客・販促サービスを提供するプラットフォームだ。今月は、主にEコマース導入企業に向けてFlipdeskを提供する株式会社Socketの代表取締役・安藤祐輔さんに、このサービスの概要と展開の経緯、さらにはマーケターとしての考え方などをうかがっていく。
文=前田成彦(Office221) 写真=矢郷桃
ネットショッピングの利用者が着実に増加する一方、ユーザーの行動に合わせた接客・販促をネット上で行うサービス。それがFlipdesk(フリップデスク)だ。FlipdeskはECサイトの訪問者に向け、購買促進のためのクーポン発行や、メールマガジンの代替となるダイレクトメッセージ送信機能を備え、リアルタイムチャットにより、スマートフォンに不慣れな訪問者をサポートする。
「このサービスを始めた背景には、スマホユーザーの大きな広がりがあります」
語るのは、Flipdeskを展開する株式会社Socketの代表取締役・安藤祐輔さん。
「以前は、Eコマースを利用するのは学生やビジネスマンなど、比較的ネットリテラシーの高い層が中心でした。でも今は、高年齢層や主婦などのネット初心者がどんどんスマホを使うようになっています。彼らは、ネットリテラシーが必ずしも高いとはいえない。そのため、実店舗では当たり前のように行われている接客として、ウェブ上にチュートリアルを出す意味は非常に大きいと考えています」
Flipdeskの構想が生まれたのは、昨年1月のこと。当時はスマホの普及率が爆発的に伸びていて、Eコマースにおけるスマホからのアクセス率は、半年ごとに10%近く伸びていたという。
「2014年1月はスマホ:PCでだいたい4:6でした。それがFlipdeskをテストロ-ンチした同年5月には5:5のイーブンとなり、現在は6:4もしくは7:3ぐらいの比率でスマホの方が多くなっています。僕らはこの流れを予想しており、昨年、基本的にスマホに特化した形でサービスの提供を始めました。
アクションを待つのではなく、アクションを喚起する。それが基本的な考えです。そのための具体的な機能としては、まずはサイト内にタグを埋め込みます。そして、そのタグが訪問者の行動を解析。①どこから来たか(広告から、facebookやLINEなどSNSから、などを分析)②行動データ(何回目の訪問で、どこのページを見て、どれぐらい滞在したか、など)③属性(年齢や性別などの基本データ)の3つを把握します。これらをかけ合わせ、ユーザーをターゲティング。その上でお勧め商品をレコメンドしたり、クーポンを出したり、といった接客サービスを、ポップアップにて行っていきます。
お勧め商品のレコメンドとは、例えばワンピースを購入された女性のお客様がいらっしゃるとします。その方に向けて、購入したアイテムを使ったコーディネートを見せ、合わせるトップスを提案するなど、パーソナライズされたメッセージをお届けすることができます。
そしてクーポンとは、例えば、初めてサイトを訪問した方などに向けて『今から30分以内に購入していただけば消費税分を割り引きします』といった特典などを出すこと。顧客に合わせた特別オファーを、ベストのタイミングで提示します」
現在、ディノス・セシール、ベルーナの大手通販会社の他、ビームス、CECIL McBEE、エドウイン、プロアクティブ、ソウ・エクスペリエンスなど、さまざまなユーザーがFlipdeskを導入。これまでの実績としてCVRは全体平均20~30%アップ。顧客単価も大きく上がり、離脱率は40%近く下がった例もあるという。ちなみに利用料金は完全従量課金制で月額5000円からと非常に安価。PV数によって変動する。
安藤さんがEコマースに初めて携わったのは、Socket起業前に健康関連商品を扱う通販サイト、ケンコーコムに在籍していた2009~2010年当時のこと。この時に感じたEコマースに関する問題意識が、Flipdeskが生まれた原点だ。
「Eコマースによる販促の流れとは主に①(広告などによる)サイトへの集客→②購入してもらう→③リピートしてもらう、という3段階。これを分析すると、二つの問題があることに気づきました。まず、会員データを元にメールを送るなど、広告費がかかりすぎること。そして、あまりにも"かけ捨て"すぎることです。
今までのEコマースにおける販促は、やればやるほど"焼き畑"の繰り返しだったのです。どういうことかというと、例えば芸能人のブログで商品を宣伝してもらうとします。週に5回とか商品を紹介してもらい、購入を促す。これを繰り返し行うと、最初は一定の効果は上がりますが、次第にパフォーマンスは低下。採算も合わなくなっていきます。そこで、次の場所へ移る。これが、今までのECサイトのやり方でした。
広告費を使っている間はそれなりの効果が上がる。でも広告費を使わなくなると、すぐに下がってしまう。それではよくない。もっと、そのECサイトの資産としてしっかりと残ることをしたい。もっとお客様に寄り添い、CVRを上げ、離脱率を下げていきたい。そのためにPDCAサイクルをしっかり回し、ノウハウをきっちりと積み上げ、売り上げを増やせるようになってほしい。そう思いました。
決して斬新なアイデアというほどのことでもなく、当時Eコマースに携わっていた人ならば、みんなどこかで思っていたことだろうと思います。とはいえ、そこから3年半ほど待ちましたが、その問題意識に"刺さる"マーケティング商品が出てこなかった。それならばSocketでやろう。そんな形でスタートしたんです」
スマートフォンが主体となりつつあるEコマースにおいては、スマホユーザーの行動を理解することが重要になる。第2回ではそのディテールを語ってもらいつつ、安藤さんのキャリアについても触れていく。
1981年7月10日長崎県生まれ。東京都出身。高校卒業後に消防士となり、東京消防庁三鷹消防署に3年間勤務後、筑波大入学。体育専門学群4年次に人材紹介会社を立ち上げる。事業売却後、2009年に入社したケンコーコムでマーケティングを手がけ、Eコマースに関する知識を得る。2012年11月に株式会社Socketを立ち上げ。2014年にFlipdeskをローンチ。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです