26
情報を"もう一人の自分"に向けて発信する
26
情報を"もう一人の自分"に向けて発信する
今回ご登場いただいたのは、現在71万人のファンを持つfacebookページ『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』をきっかけに同名の著書を出版しベストセラーとなるなど、絶景をキーワードにさまざまな活動を展開する詩歩さん。注目を集めるきっかけとなったfacebookページはどのようなコンセプトで作られたのか。そして彼女のこれまでと今、そして、これからについて話を聞いていく。
文=前田成彦(Office221) 写真=三輪憲亮
撮影協力=代官山GARDEN HOUSE CRAFT (link)
「例えば、イタリアのランペトゥーザ島。ここは海の透明度がすごく高くて、海上の船がまるで宙に浮かんでいるように見えます。チュニジアに近いヨーロッパ最南端の島で、イタリア人すらめったに行くことはないそうです。現に、一緒にお仕事させていただいている旅行会社のローマ支店のスタッフも、誰も行ったことがありませんでした。
ここは、私がたまたま写真を見つけ、それをfacebookページに上げたら、27万のいいね!がついて話題になったスポット。今現在でいいね!数が最も多かった場所です。こういう場所を見つけられたことで、どんどん広まっていったのだと思います」
語るのは、約71万人のファンを持つfacebookページ『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』をきっかけに同名の著書を出版し"絶景ブーム"の火付け役となった詩歩さん。そんな彼女にまずは「絶景」の定義から、お話をうかがっていく。
「二つの条件があると考えています。まず一つ目が、フォトジェニックな場所であること。そして二つ目が、ストーリーがあること。例えば『映画の舞台になった場所』とか『世界一美しいといわれる夕陽』『世界遺産といわれる星空』だったりと、そこだけの"語れる"ストーリーがある。それが私の考える、絶景の定義です。
確かに、いわゆる『絶景本』は、私の著書以外にもたくさん出ています。良書もたくさんありますが、本によっては、私から見ると絶景とはいえない場所も多く含まれている気がします。例えばワイキキビーチが載っていたり…。確かに美しいけれど、あまりにもメジャーな場所ですよね。そこに語れるストーリーがあるかというと、疑問に思えてしまいます」
彼女が今、手がけていることは、大きく分けて3つある。
「一つはfacebookページとウェブサイト、ブログをベースとした発信活動。もう一つが絶景を楽しんでもらうためのモノ作り。基本的には書籍で、あとはカレンダーなどですね。そして三つ目が、クライアントさんとのお仕事。旅行会社など数社と年間契約をさせていただき、例えば絶景を巡るツアーをプロデュースしたり、絶景にまつわるイベントを企画したり、といったことをしています」
彼女の名前が知られるきっかけとなったfacebookページはもともと、会社の研修で制作したものだった。
「大学を出て最初に入った、インターネット広告代理店の新卒研修で制作したページです。研修の課題が、各自でfacebookページを作り、4月末から6月末までの2カ月間でいいね!数を競い、最も多かった人が焼肉を食べられる、というものでした」
どんなページを作ろうかと考え、旅行をテーマにしようと決めた。一見思いつきのようだが、そこには、彼女なりのしっかりとした計算があった。
「2カ月間、コンテンツをアップし続ける必要があります。ですから、まずは頻繁に更新できなくてはいけませんし、何より、自分自身が興味を持っていなくては続かない。そこで、まずは大好きな旅行を題材にしようと決めました。
でも旅行といっても範囲は広く、ページの作り方もさまざま。旅行という大きなジャンルの中で、どのようなものを作るか。そもそもfacebookなどのソーシャルメディアでは、画像が大きく表示されます。つまりインパクトのある写真を投稿すれば、ぱっと見て、瞬時にいいね!を押せるだろう。また、写真をメインにすれば、海外の人でも気楽にいいね!を押せるだろう、と考えました。そこでテーマにしたのが、世界の絶景だったというわけです。
ここまで考えると、多くの場合、これまで自分が見てきた絶景の写真を上げると思います。でも当時の私には、これから行きたい場所は山ほどあっても、それほどたくさんの絶景を見た経験はありませんでした。
私は入社直前にオーストラリアを旅行して、大きな事故に遭った経験があります。その時に思ったのが『人はいつ死ぬかわからない』ということ。そして、死ぬまでに行きたい場所をどこかに記しておきたい、という気持ちがありました。そこで、まずは自分が行きたい場所をリストアップ。その写真をいわば"もう一人の自分"に向けて発信し、同時に、ページを見た人にも楽しんでもらおう、と考えました」
こうして立ち上げた『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』のfacebookページは、初日に100のいいね!を獲得するなど、上々のスタートを切る。
「それは、100人の友達がいいね!を押してくれたからなのですが(笑)。ソーシャルメディアのいいところは、情報がクモの巣のように拡散して広がり”バズって”いくこと。みんないい友達なので(笑)たくさんシェアしてくれて、どんどん広がっていきました」
結果、期限の6月末のいいね!数は約2万。2位の数は200ほどだったので、まさに圧勝だった。
「他には例えば東京の観光スポットを紹介したり、朝ご飯を紹介したりというページがあったと思います。途中から配属されて皆忙しくなったのもあり、他の人は正直、ちゃんと考える時間をとっていなかったのでしょう。写真の質が悪かったり、文章が長すぎたりするものが多かった記憶があります。」
とはいえ、絶景を紹介する類似ページは他にもある。そんなる中で『死ぬまでに行きたい! 世界の絶景』はなぜ、大きな注目を集めたのか。
第2回ではfacebookページのコンセプトと、その中にある彼女なりのスタンスについて、話をうかがっていく。
1990年静岡県浜松市出身。早稲田大在学時代は環境問題に関心を持ち、大学2年で初めての海外への一人旅を経験。
2012年に卒業後、インターネット広告を扱う広告代理店に入社。新卒研修で制作したfacebookページ『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』がオープン1年で45万を超えるいいね!を獲得して話題になり、在職中に同名の著書を出版。2014年3月に退職し、フリーランスに。現在は71万人を超えるいいね!数を誇る同Facebookページをベースに、多彩な活動を続ける。著書に『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』『死ぬまでに行きたい!世界の絶景 日本編』『死ぬまでに行きたい!世界の絶景 ホテル編』がある。
※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです