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マーケットを盛り上げれば、自分達も繁栄できる

山田 司朗 やまだ しろう さん 日本クラフトビール 代表取締役CEO

Part.4

 

■ブランドの背後には、歴史の中でのさまざまな取り組みとストーリーがある。

 

 長きにわたり愛され続けるブランドには、必ずその理由がある。KAGUAそしてFARYEASTをそのような存在へと育て上げるため、山田さんは今、どんなことを考えているのか。

 

ブランドを育てるためには、これさえやっておけばいい、という必勝法などありません。そして、ブームに乗ってテレビ番組に取り上げられ、長い行列ができた。じゃあブランドと呼べるのか、といえば、決してそうではない。

 そもそも、ブランドとは何なのか。その一つの答えは、消費者がモノを選ぶ時、ここの商品を買っておけば大丈夫だ、と思える安心感でしょうか。少なくともブランドとは、結果を急がず長い時間をかけて築いていくものであるのは確かです

 

山田さんはそのエッセンスを、趣味の山歩きに例えてこう語る。

 

「例えば、アークテリクスやマムートというアウトドアブランドがあります。これらの製品はすごく高価で、10万近いアウターもざらにある。正直、ほとんどのアウトドアジャケットに、基本的なスペックの違いはほとんどありません。それでも、アークテリクスやマムートの商品は売れる。靴もそうです。無名のブランドの靴もゴアテックスとビブラム・ソールが当たり前で、スカルパの商品と似たスペックのものはあるし、価格は安い。それに対してスカルパの登山靴は高い。でも売れる。それがブランドというものです。

 

ブランドが今のポジションを築き上げたのは、決して一朝一夕の出来事ではない。長い歴史の中での、さまざまな取り組みとストーリーがある。例えばマムートならスイスの山岳警備隊が使っている、というバックボーンがありつつ、クライミングの大会をスポンサードとするなど、多くの取り組みを長年行ってきた。それがあって、今のポジションにいる。

そもそもブランドが存在しなければ、商品は価格でしか戦えません。同じスペックなら値段を下げる、というロジックしか成り立たなくなります。価格勝負は、短期的には強い。

 

でも、ブランドとはその逆。やみくもに価格を下げることはありませんし、バックボーンとなるストーリーを紡ぎ、価値を築き上げるまでには、長い時間がかかる。僕らも今後どんなことに取り組み、どんなストーリーを描き、どうやって日本クラフトビールという会社とブランドを育てるのか。そこは正直、まだ試行錯誤中です。

実はその一つのヒントとして、ずっと心に残っている本があるんです。サーチ&サーチのCEO、ケビン・ロバーツの『永遠に愛されるブランドラブマークの誕生』という著作なのですが、この中で彼は『ブランドとは愛だ』とはっきりと言い切っています。ブランドにはストーリーやプロモーションなどさまざまな要素があるけれど、結局は愛なんだ、と。もしかすると、それが真実なのかもしれませんね(笑)」

 

山田さんのブランドを育てるための試みの一つが、KAGUAの商品のコンセプトとバックボーンを伝える2冊の冊子である。赤と白の冊子のうち、製法などディテールが記された白は、飲食店などクライアント向け。赤は試飲会に来た一般の方向けで、ギフトセットにも同梱される。KAGUAの場合、この2冊は顧客との大切なコミュニケーションツールになっている。

 

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「僕らのストーリーを端的に伝えてくれる、非常に大切なツールだと思っています。僕はもともとネット業界出身ですので、正直、ダイレクトに検索もできず置き場も必要で、高いコストのかかる紙の制作物はあまり好きではなかった。それなのに、あえて冊子という形を選んだのは、紙を1ページずつめくることでストーリーの流れを作ることができ、それがお客さまに高い満足感を与えることができるからです。

 

例えばこの冊子には、最初の見開きに商品が出てきません。まず出てくるのは、KAGUAに似合う空間。そこから具体的な特徴、原材料や製法が出てくる。半分をすぎた所でやっと商品紹介があって、最後は、1ページ目の空間にKAGUAが置かれた写真が出てくる。このアプローチは、紙でないとなかなかできません。ブランドを育てるとはきっと、こういうことの積み重ねなのでしょう」

 

■『ビールを面白くしていこう』という思いは、たくさんあった方がいい。

 

 最近、国内外のブルーワーと交流する機会が増え、山田さんが実感したことがある。それは、クラフトビールとは業界全体が一つのコミュニティだということ。前回に記した通り、他社を排除して消費者の選択肢を狭め、自分達の商品が売れるようにするのが、大手メーカーの営業の行い方。しかし、クラフトビールの作り手にそういう意識はまったくない。

 

「例えば大手メーカーの営業さんが飲食店に行くと、絶対に自社のビールしか飲みませんよね。でも、クラフトビールの作り手は逆。みんな、自社のビールはほとんど飲みません。『こんなに面白いビールが出たんだ。飲んでおかなきゃ』というように、研究と勉強を兼ねて他社のビールを飲むのが普通です。ブルーワー同士がお互いに尊敬し合っているし、情報も積極的に交換します。レシピも隠しませんし、工場を見せてくれと頼んだら大抵は見せてくれます。

 つまり、お互いが情報をオープンにすることでみんながおいしいものを飲めるようになれば、消費者が得をする。そしてその結果、自分達も繁栄できる、という考えなんです。

 

 一番いけないのが、消費者が離れてしまうことです。みんなで切磋琢磨して、消費者目線で盛り上げていかないと、長い目で見れば結局そっぽを向かれてしまいます。選択肢を狭めることでシェアを取ろうと考えた時、消費者はつまらなく感じてしまうはず。そして、それがビール離れにつながる。

そもそも、自分が作りたいビールは自分の頭の中にしかない。自分の頭の中にある世界観を形にしていくことが大切で、ノウハウを隠すことに意味はない。切磋琢磨するのはたぶん、違う部分なのです

 

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こういったクラフトビールのコミュニティに刺激を受け、日本クラフトビールはこの9月、『Democratizing Beer』と題した会社のミッションを、新たに策定した。

(※参考URL:http://www.nipponcraftbeer.com/%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E6%A6%82%E8%A6%81

 

ビールとは本来、多種多様なオリジナリティあふれる商品でした。それがいつの間にか、画一的な“単なる黄色い炭酸飲料”になってしまった。僕らのミッションは、クラフトビールを通じてビールを『民主化していく』こと。産業化に画一的な大量生産商品になってしまったビールの多様性と豊かさを、もう一度取り戻したいと思っています」

 

クラフトビールというコミュニティの中でそれぞれのブルーワーが共存共栄し、消費者の選択肢を広げる方向性を維持しつつ、今後、徐々に会社を大きくしていくつもりでいる。

 

「例えば僕ら自身がプロデュースをしなくても構わないので、インディペンデントなブルーワーさんと組んで、ウチのインフラを使って商品を販売するのもいいですね。『ビールを面白くしていこう』という思いは、たくさんあった方がいい。たくさんのコンセプトがあり、たくさんのブランドを運営していく。その結果として会社が大きくなれば、ビジネスはさらに大きく広がっていく。今、そんな気がすごくしています」

 

日本初のオリジナリティあふれるビールを世界中に発信し、誰もがワクワクするような新しい価値を付加していく。
そんなビジョンを掲げる日本クラフトビールの「企み」から、今後も目が離せない。

 

(終わり)


プロフィール
山田 司朗

山田 司朗 やまだ しろう

日本クラフトビール 代表取締役CEO

日本クラフトビール株式会社代表取締役CEO。
1975年愛知県出身。明治大政治経済学部を卒業後、大手ベンチャーキャピタルを経てサイバーエージェント、オン・ザ・エッヂ(ライブドア)ではファイナンス関連の業務に携わる。
その後ケンブリッジ大学のJudge Business SchoolでMBAを取得。帰国後は主にフリーランスで活動し、2010年にはシリコンバレー企業と日本のスタートアップの大型M&Aディールを手がける。
4年間の準備期間を経て、2011年9月に日本クラフトビール株式会社を設立し、代表取締役に就任。

※ 会社、役職、年齢など、記事内容は全て取材時のものです

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