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マーケティングとはすなわち「人の心を動かす」ことである
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マーケティングとはすなわち「人の心を動かす」ことである
昨今、広告会社に求められているものは広告コミュニケーションにとどまらず、クライアントの事業成長に対する総合的提案へと大きく変化している。そんな中、大手広告会社の博報堂がこの8月、クリエイティブ思考、クリエイティブアウトプットを武器に経営革新・事業革新を行うことを目指して設立したのが、株式会社HAKUHODO THE DAY。 代表の佐藤夏生さんはこれから何をしようとしているのか。そして彼が考えるマーケティング論、ブランド論などについて聞いた。
文=前田成彦(Office221) 写真=三輪憲亮
この8月に設立されたHAKUHODO THE DAYとはどんな会社なのか。そして、会社を率いる佐藤夏生さんは今後、何をしようとしているのか。それについてたずねるに当たり、インタビューはまず広告会社の現状、そしてマーケターという言葉の定義に及ぶ。
「僕はクリエイティブディレクターですが、それ以前に、自分をマーケターだと思っています。クリエイティブはマーケティングの起点。クリエイターはマーケターでなければならない。
例えば広告の仕事の流れは「こういうプロダクトが発売になります。どう売ったらいいでしょうか?」というクライアントからの問いかけが発端となり、エージェンシーが市場調査を行い、マーケティング、コミュニケーションの提案を行う、というものが一般的。つまり
です。しかし本来、マーケティングとはプロダクトやコミュニケーションの前にあるもの。「こういう市場をつくるためにこういう商品を出そう」とか「こういうマーケティングがあるからこういうコミュニケーションを行おう」ということ。すなわち
というのが、本来の姿だと思います。でも正直、今はどんどんマーケティングという言葉の表すものが小さくなっている。本来はもっと大きなものなんじゃないか。僕らはそう考えているんですよ」
成熟し切っている現代社会においては、効率化して値段を安くすればモノが売れるわけでは決してない。だから「モノを売るには、人の心を動かさねばならない。心を動かさないと、人もお金も動かない」。それが、佐藤さんの基本となる考え方である。
「心の動かし方を知らない人は、もはやマーケターではない、とすら思います。僕らは『キャンペーン』『プロモーション』『流行り』『ヒット』といった言葉で片づけられてしまうような仕事は、なるべくしたくない。大事なのは、情報を加工することではありません。僕らは"心を動かすプロ"。顧客の心を動かすことのできる企業活動を、いかに生み出すか。テーマはそこなんです。」
佐藤さんの考えるHAKUHODO THE DAYの仕事とは、端的に言えば「広告表現だけにとらわれず、マーケティング全領域においてクライアントのお手伝い、さらに言えばリードしていくこと」であるという。そしてそのためには、従来の広告会社のやり方以上に、クライアントと密接な距離になくてはならない、と語る。
「いわゆる広告の仕事って、クライアントとの距離が遠くても、できるんです。『今、これが新しいですよ』『これが面白いですよ』と、『新しい』『面白い』という言葉を使うだけで、メディア提案はできるので。でも、僕らは違う。クライアントの心を動かすためには、彼らの事業やカルチャーの詳しい部分まで知らなくてはいけません。クライアントとの距離を縮めることが必須なんですね。いわば外部CMOみたいなあり方。経営者にしてみたら自分達のことをよくわかっているけれど、他人的視点でさまざまな提案をしてくれる。そんな立場でいる必要がある」
そして佐藤さんは、今の広告ビジネスにおいてのマーケティングに対する姿勢、そして、そこで使われている言葉についても疑問を投げかける。
「マーケティングって基本的には”攻め”しかない。ブランドを”守る”と言語では言いますが、ブランドを守って評価されたマーケターは一人もいません。大事なのは変化していくこと。ブランドを守れと言われても、何もしなければそれでいいってこと? と思います。どうすればいいのかわからない。結局、攻めないと仕方ないんですよね。
それと実は、”攻める”という単語にも、すごく違和感を覚えるんです。だってマーケティングって、誰かと戦争することじゃありませんよね。"攻める"とか"戦略"とか、なぜいつも戦争用語ばかり出てくるんだろう? 正直、不思議です(笑)。僕らが大事にしているのは『いかにして顧客により愛されるか』という姿勢です。そういう意味でこのメディアの掲げる『マーケティングとは、愛されるためのすべての活動』という考え方は、まさにその通りだと思うんですよ」
では、そんな佐藤さん率いるHAKUHODO THE DAYとは結局、どんな会社なのか。そしてこれから、何をしようと考えているのか。
次回から、そのさらなるディテールについて伝えていく。