世界革命戦争勝利のために!
鈴木 俊二 [記事一覧]
47歳 東京都在住 株式会社グラフティ代表取締役 雑誌『Tokyo graffiti』編集長 福島県生まれ 大学より上京 早稲田大学法学部卒業。 ファッションビルの運営会社のサラリーマン時代を経て、2004年『Tokyo graffiti』創刊より現職。 趣味はスーパー銭湯のアカスリとSF小説の読書と柴犬の散歩。妻、娘、犬と3人1匹暮らし。
世界革命戦争勝利のために!
開演前の静かなBGMが小さくなっていく。会場が暗転していく。
そして、大音量であの歌が聞こえてくる。
「♪君の行く道は 果てしなく遠い
だのに なぜ
歯をくいしばり
君は行くのか そんなにしてまで…」
ゆっくりと幕が上がって行くこのオープニングで、
僕の目はもう涙でいっぱいになっている(マジで)。
つかこうへい原作の舞台「飛龍伝」
数年ごとのインターバルで、もう見るのは4回目くらいです。
特に演劇好きでもない僕でも、つかこうへいの舞台は何回も見に行っています。
蒲田行進曲、幕末純情伝、広島に原爆を落とす日…。
その中でもこの飛龍伝は、特に特に一番好きなんです。
60年代、学生運動が吹き荒れる時代、
全共闘委員長と機動隊隊長の、敵同士の許されぬ愛、
そして全共闘幹部たちの夢半ばにして倒れて行く青春を描いた、熱い熱い舞台であります。
ちなみに僕の大学時代は、バブルな80年代であって、全共闘ではなく、テニスサークルで
熱い青春を送っておりました。
でも、そんな僕なのに、
なぜ、オープニングの「若者たち」が聞こえてくる時点で、もう涙に溢れてくるのか。
なぜ、学生運動の記憶も経験もない僕なのに、なぜこんなに切なく懐かしいのか。
なぜ、失われた青春を感じるのでしょうか?
そんな感じで、最近の僕は、60年代左翼学生マインドに時々胸が熱くなっているのでありますが、
追い討ちをかけるように、とっても深い本に出会ってしまいました。
「ルイズ 父に貰いし名は」松本竜一著
(インタビューによるノンフィクション。こんな深い本に出会えてよかった。)
これは60年代どころか、もっと時代はさかのぼり、
大正時代に軍部によって拉致され虐殺されたアナーキスト夫妻、
大杉栄と伊藤野枝が遺した娘、ルイズの物語。
「大杉栄?」「なんだっけ、殺されたアナーキストだっけ?」
ぐらいの知識しかなかったわけですが。
それにしても、アナーキストですよ。
アナーキズム、アナーキスト、アナーキー。
それも60年代の全共闘世代でもなければ、
70年代のセックスピストルズ世代でもない。
なんと大正時代。
優しくて、とても自由で、
それが優しすぎて自由すぎたため、
優しさや自由さに欠けた人たちに殺されてしまったのです。
ほんとうに読んでいて何度も涙が出てきました。
大杉栄と伊藤野枝。こんな美しく自由で切なくて哀しいカップルがいたなんて。
そしてその娘が生きたその後の昭和の時代。
戦争へと進んで行く中、国中が愛国主義、天皇崇拝を強めていく。
アナーキストの娘、天皇に弓引いた逆賊の娘として、
自分は何もしてなくても、逆境を生きていかなければならない運命。
元ナチスでヒトラーの側近であったゲーリングが、裁判で話しています。
「国民を指導者の言いなりにする方法は簡単です。一般的な国民に向かっては、われわれは攻撃され
かかっているのだと伝え、戦意を煽ります。平和主義者に対しては、愛国心が欠けていると避難すれば
よいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」
今の世の中、右傾化とかネトウヨとか、なんかそんな空気が漂っています。
ネットニュースの見出しや駅の売店で見かける夕刊紙や週刊誌の見出しには、韓国や中国を嫌ってる文字が
踊っています。そんな見出しが多いということは、それに反応する人が多い、つまりある意味マーケティングから
そうしてるんだろうと思う。
たぶんゲーリングみたいな人が誘導してるんじゃないような気がする。
アメリカでもかつて、CNNとFOXが視聴率争いをしてた時、FOXが湾岸戦争をより愛国的に伝え始めたら、
より中立的なCNNを視聴率で超えて行ったとのこと。
メディアが右に誘導してるというよりは、マーケティングにより愛国的にしてるのが一番の理由ということか。
僕はそんな愛国ムードには、まったく共感しない。全然ワクワクしない。
「弱き者が傷つくことなく、貧しき者が憂うことなく、病む者が泣くことのない世界を作るのです!」
飛龍伝の中で、全共闘、神林美智子委員長が叫ぶこの言葉には、今さらだけど胸が熱くなるのです。
もちろん僕は共産党員でもなければ、左翼運動家でもないです。
正直、選挙でもいわゆる左翼系に投票したこともありません。
でも、少なくとも舞台や小説を読むレベルで言うと、
左翼の若者が夢見る、その美しい世界、そしてそれに向かって突き進む、はるかに遠く厳しい道。
そんな青春の話に、胸が熱くなり涙が溢れる僕は、よほど時代とずれているんでしょうか。
でも、この心の奥のほうに突き刺さってくる、この感覚はいつの時代も変わらないはず。
なんで、このネトウヨ&愛国ムードでにぎわっている今、あえてサヨク的なピュアで熱い青春の時代が、
何らかの形でやってくるはず。それがどうマーケティングになるのかは全然わかりませんが、とにかく、
はじめに『願望』ありき。マーケティングはあとづけ、ということで。
それにしても、若者たちに「大きな夢を持て」「夢をあきらめるな」なんて言う人が多いけど、そういう大人は
どんな夢をもっているんでしょう、あるいは持っていたんでしょう。そう書いている僕も…。
もう一度書きます。
「弱き者が傷つくことなく、貧しき者が憂うことなく、病む者が泣くことのない世界を作るのです!」
「世界革命戦争勝利のために!」
実現可能性はともかく、なんというか、とても大きな夢だったと思いませんか。