Vol.2
「オンガクの明るい未来;マーケティングは音楽を救う?」
暑い日が続いていますね。
お盆休みも終わりましたがお元気ですか?
さて前回は2000年代前から2010年までの音楽市場がフィジカルからデジタルへ転換する予兆とトレンドを見てきた。そこで今回は、現在のトレンドを少し整理していきたい。
●日本が世界一の音楽ソフト市場に!日本音楽ソフト市場回復へ!
2011年は市場縮小に追い打ちをかけるように大震災が発生した。未曾有の大災害は首都圏の経済活動にも大きな影響を与えた、多くのイベントやライブは自粛ムードの中で、一部のエンタメ業界人・アーティストは本来のエンタメの本質に気がついた。音楽は人を元気にさせるためにある。
今いかないでどうする!今でしょ!
日本で災害を乗り越えるべく生活者が失った経済活動を取り戻す一方で、海外では驚くべきスピードでITグローバル化が進んでいた。スマホ市場を席捲するアップル、サムソンといった米国、韓国のグローバルEMS(※1)、そしてそのサプライチェインの下層に日本企業は組み込まれていく。政府主導のエコポイントが大型TV需要を先食いしその結果、先端の液晶、プラズマTV国産事業は安いアジア勢の後塵を拝し、同時にスマホのEMS企業傘下に組み込まれてしまった。
人を元気にするというオンガクの本質は、一方で懐かしい音楽の復権と、元気づけるアイコンとしてのアイドル消費を加速させた。絆という人と人のつながりのキーワードはちょうどソーシャルネットでつながるというSNSとも符合した。日頃の生活のビタミン剤としてのアイドルやアーティストがライブで何万人というリアルなファンとつながっている。この流れこそが現在の市場の本質の一つである。
さて、話を少し音楽産業全体に目を向けて見よう。上図のように日本は98年から縮小を続けたソフト市場は2012年に持ち直す(日本レコード協会)。一方で主要先進国の世界市場はずっと縮小を続けたままである(国際レコード連盟)。世界的には2012年に日本の音楽市場を押し上げたフィジカル(CD,DVDなどで)は縮小、逆に音楽配信(デジタル)は伸長している。
さらに2013年に入ると今までの1曲毎や、アルバム毎にダウンロード課金していたアラカルト消費に変わって月額固定で聞き放題といったストリーミングが急激に伸びて来ている。
日本市場は嵐、AKBといったアイドルを中心に、初音ミクなどのボカロやアニメも堅調だ。これらを見ていくとヒットにはいくつかの共通項が見られる。その一つがマーケティング上非常に重要なプロダクト戦略になるのだが、これは一つの音楽を宝石箱(ジュエリーケース)に入れて1枚の価値を最大化するのではなく、一つの音源を複数のパッケージにして、宝石箱のバリエーションを付加価値として販売するというやり方である。つまり何度も組み換え、投票権、チケット、握手券などの付加価値をつけることで一音源の再生産、複数生産を行うことで、生産総数、販売金額ともに押し上げた。
コストパフォーマンスの観点から見ても1曲500万かけて制作し100万枚ヒットを狙うのではなく、1曲100万で制作し10種類のアウトプットで収益を最大化する。これがフィジカルを伸ばした。アイドルマーケティングにとってのフィジカルプロダクト(CD)は家でじっくり音楽を楽しむものではなく、アーティストに接触するためのチケット、あるいはコレクタとして全グッズを集めるという別の意味を持ち始める。
完全にフィジカルからデジタルへ移行した海外と比較して、日本ではこの方法は30年以上変わっていない。アーティストブランディングもソーシャルネットを最大に利用してグローバルで回収を図るレディーガガや1D(ワンダイレクション)と日本でのレガシーマーケティングは、どちらが良いか悪いかではなく、違いがあることを知らないと本質を間違える。海外の様にデジタルに移行すれば当然、産業全体のキャッシュフローは縮小する。
世界音楽市場が縮小を続ける中、日本は尊王攘夷ともいうべきフィジカル市場を復活させ、クラウド、ストリーミングの流れを迎え入れずにいる。
その結果、相対的フィジカル地位を遂に世界一に押し上げた。
(続く)
EMS(※1):
Electronics Manufacturing Serviceの略。 電子機器の受託生産、IPHONEなどの高度デジタル端末においては世界中から最低価格での部品調達、組み立てを行う事で本体企業はリスクを最小化し利益を最大化できる。日本でも液晶や半導体多くの大手メーカーがこのグローバルEMSに組み込まれ独自の端末製造から撤退した)