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お互いを高め合う仕事を、全国の仲間とやっていきたい
確かな技術のもと、手間を惜しまず丹精込めて作り上げられるグラスの造形美と、和モダンな意匠が売りの松徳硝子。彼らは自ら企画・デザインする自社製品の他、山中漆器の老舗・喜八工房と製作した「冷茶器」、気鋭の職人作家・堀口徹氏と手がけた「KAI HANDMADE GLASS」など、多くのコラボ製品も生み出してきた。手作りという言葉に決して甘えず、ガラスという素材と真摯に向き合う彼らの元には、多くのデザイナーからのオファーが今も絶えない。
「中には、著名な方から申し出をいただくこともあります。ただ、お受けさせていただくのは、僕らがやる意義を感じた時だけ。大変ありがたいことなのですが、単なる作品作りのおつき合いになってしまうのであれば、お断りさせていただく場合が多いです。そんなに暇じゃないですし、でき上がってはい終わり、じゃあ、今後に続くものがありませんから」
松徳硝子はガラス工場であり、作家集団ではない。だから、勝負はあくまでどれだけ売るか。デザイナーの名前に頼って売るつもりはない。
「もちろんお仕事する意義を感じられるなら、どんどんやります。どんなものを作って、販路をどう作るか、どんなプロモーションをするか。それをこちらからも提案させていただき、一緒に考えることができるのであれば。ただ、そこまできちんと考えられている方が少ないのも事実。きちんと仕事をすれば、結果として、先方もおいしいし僕らもおいしい。そんな関係になれるなら、喜んで一緒にお仕事させていただきたいです」
一緒にやっていく相手は厳選する。また、過度のブームになることで多くのものを失う可能性がある、と考える慎重なスタンスもある。
「日本では何かのきっかけで、急激なブームになる。そして大量消費された結果、ある日から突然"ダサいもの"に落ちる。急に売れるほど、その反動も厳しいです。一般的にはそれに気づかず、勘違いして『量産して第二工場を』なんて考えて、お金を引っ張る。でも工場ができたころ、ブームはすでに終わっている…。僕は今まで、そんな会社をいっぱい見てきました。おいしく思えるような話をちらつかせ、食い散らかして去っていくような悪い奴(笑)もたくさんいます。だから、取引する相手はよく考えざるを得ない。『誰とでもは寝ない』ということですね(笑)。作り手は"やり逃げ"できないんですよ。流行りの薄っぺらいマスプロダクツになって、時代に消費されてはいけない。ただそれでも、ホンモノは小細工なしでびくともしないし、残っていけるとも思うんですよね。とにかく、その次のステップとしては、そこを目指したいですね」
今後もうすはりシリーズだけでずっとやっていけるとは、もちろん思っていない。例えば、販売チャンネルを増やすことは急務だ。危機感あふれる現状をブレイクスルーするヒント。その一つが、ガラスに限らず、いいモノを作る全国の仲間達とのつながり、縁。お互いが刺激し合い、時にはタッグを組んで助け合うことで、和モダンな世界観の素晴らしさをトータルで伝えていきたい、と考えている。
「よく聞かれるんです。『うすはりで焼酎のお湯割りを飲みたいんですけど』って。ガラスの特性だけで言うと決して使えないことはないですが、そもそも耐熱ガラスではありませんし、仮にそこを無視しても、そもそも薄い分、熱伝導がいいので。でも、僕はむしろそういう時は『焼き物で飲んだ方がうまいですよ』とはっきり言うんです。やっぱり、夏には冷たいモノ、冬には温かいモノを飲みたい。冬は焼き物の季節で、ガラスは夏のイメージ。
そもそも家にあるものって、ガラスだけじゃない。ガラス以外にも、いいものはいっぱいある。それを知っていただきたいし、いいものはいい、と言えるようでありたいな、って思うんですよね。面白いのは器も含め、飲食をおいしく、楽しく、たしなむというトータルな世界観で、圧倒的にグラスにだけ興味がある人は少ない。
僕らはガラスですが、例えば焼き物とか、かっこいいものを作っている仲間が全国にいっぱいいて、とてもいい刺激になっている。彼らと一緒にモノ作りができたらお互いを高め合うこともできるし、僕らの力が彼らの評価につながるかもしれない。そして自分達の製品も、より多くの人に見てもらえるかもしれない。狭い視野で物事を考えていても、発展はないと思います。お互いが気持ちよくなれる仕事を、全国の仲間とやっていけたら楽しいですね」
ただし今後に向けて考えるのは、コラボばかりでは決してない。大事なのはバランス感覚。一番は、企画側と現場の距離感を近くし、必要性のあるデザインや機能美、素材美をトータルで考えたモノ作りをしていくことだ。そのためにはこれからもいいスタッフを育て、いいモノを作る。そして、多くの人に知ってもらう。それは最低限のことである。
「少なくとも、僕らがほしくないものは誰もほしくない。『こんなの、当たるわけねえよ』と言いながら、新製品を開発する人なんていませんからね。少なくとも、眉間にしわ寄せて面白いものは作れませんし、自分がほしいと思っても、思うような結果にならないことの方が多い。だからスタッフに言うんです。『100%なんて最低限だ!』って。
でもまあ、偉そうにいろいろ言ってきましたが、実際はわりとテキトーですよ(笑)。そもそも、企画会議なんてまさにそうでしょう? ノリでわあーっと盛り上がっていいアイデアが生まれ、実際にいいモノになることもある。要は、自分達が楽しめるか。結局はそこなんですよ」
(終わり)